一般注記出版タイプ: NA
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すべての脊椎動物には、恒常性維持のために不可欠な下垂体がすでに最下等の円口類に明瞭な姿で突然に出現する。この前史、すなわち、下垂体の系統的起源はどうなっているのか、は大変興味ある問題である。従来、脊椎動物の間脳視床下部-下垂体-ラトケ嚢とホヤ類の脳神経節-神経腺-神経腺管の構造的類似性から、神経腺が下垂体と相同であるとする考えが主流であった。しかし、その仮定を証明する証拠は得られていない。起源を問題とするときに考慮すべき点として、少なくとも、1。 個体発生上の相同性2。 下垂体ホルモン様ペプチドの発現の有無がある。1については、近年、いくつかの脊椎動物群において、腺性下垂体は神経外旋葉に由来するという証拠があがってきている。このことは、もし、下垂体細胞に相当する細胞が原索動物にも存在するとするならば、神経外旋葉由来の細胞群中に見出せる可能性を示唆している。ホヤの神経複合体は、脳神経節、神経腺、神経腺管および背索からできているが、それらの器官はすべて胚の神経管に由来することが知られている。我々はマボヤおよびアカボヤを用い、それらの器官の特に分泌顆粒を含む細胞に注目して広範な電顕観察を行い、その結果、脳神経節と背索周囲に分泌顆粒をもつ細胞が無数に存在することを見出した。背索に沿って散在する内分泌細胞の数は膨大で概算で10-100万細胞にもなる。これはホヤ内分泌器官としては脳神経節と並んでホヤで最大級のものである。しかし、神経腺には如何なる分泌額粒も見出されなかった。2については、すでに副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、beta-エンドルフィン、プロラクチン(PRL)などに免疫反応を示す物質が脳神経節に含まれていることが知られている(表1、Fritsch et al. 1982; Thorndyke and Georges 1988など)。 さらに、腺性下垂体ペプチドホルモン様物質の出現を系統的にみると、ACTHはかなり古くから出現しているが、PRLは原索動物になって出現したことを示唆している(表2)。成長ホルモン(GH)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の存在を示唆する結果は原索動物では得られていない。これらのことは一部の下垂体ホルモンの遺伝子がホヤにも存在することを示している。しかし、これは直ちに下垂体の存在を意味するものではない。実際、ACTHやPRLは脳神経節中、すなわち、神経細胞に存在することが示され、無脊椎動物に広く存在する神経分泌の一つとして捉えられてきた。そこで、背索周囲に見出された内分泌細胞群には下垂体ホルモン様物質が存在するかどうかを中心に本研究を行った。
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identifier:KAKEN: 06804052
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