並列タイトル等Acceptance of new knowledge in the Meiji and Taisho period: About lantern slides (magic lanterns) as teaching materials at Kyoto Higher Craft School
一般注記type:Thesis
京都工芸繊維大学美術工芸資料館には、現在約1,900枚のガラススライドが収蔵されている。これは、明治・大正期に日本で「幻燈」とよばれて普及したメディアで、同大学の前身校のひとつ、京都高等工芸学校において開校直後から大正期にかけて購入され、教材として利用された複製資料である。京都高等工芸学校は、明治35年(1902)に京都の産業界に資するため、高度な科学的知識とデザイン力をそなえた人材を育成するための工芸専門の高等教育機関として設立された。開校前、教員たちはヨーロッパに留学し、最先端のデザインや技術に触れるとともに、教育方法や参考資料のあり方にも大きな影響を受けた。そのため同校では、現地で教員が収集したポスターや陶磁器、染織品をはじめ、国内外から工芸品やデザイン資料、絵画などの多くの実物資料が収集されており、これまでこうした資料を中心として調査研究がおこなわれ、同校の教育が語られてきた。しかし、これまであまり注目されていなかったものの、同校では模写や模型、ガラススライドなどの複製資料も多数収集されており、教育において重要な役割を果たしてきたことが分かってきた。とくにガラススライドは、貴重な美術品や建築物、同時代に開催された博覧会やイベントの様子など、実物に接することが難しいモノが写真に写されているだけでなく、それらをスクリーンに拡大投影することで一度に多くの学生と情報を共有することができた。掛図などとともに当時多くの高等教育機関で使用された利便性の高い教材であった。本稿は、どの時期にどのような目的で、どんな内容のスライドが購入されたのかを詳細にみていくことで、当時の京都高等工芸学校の教育の一端をあきらかにするものである。とくにドイツのフランツ・シュテットナー(Franz Stoedtner, 1870-1946)による同時代の家具や室内装飾を写したガラススライドやフランスのE.マゾ(E. Mazo)による1900年のパリ万博の会場の様子を写したガラススライド、京都の島津製作所の二代島津源蔵(1869-1951)から購入したオーストリア製の染織産業に関するガラススライドなどは、写真を通じて同時代のヨーロッパの様子をいち早く学生に共有し、取り込もうとしていたことがあきらかとなった。また、明治41年に開校した奈良女子高等師範学校で、おもに地理教材として利用されたと考えられる鶴淵幻燈舗製のガラススライドやイギリスのニュートン社(Newton & Co)製のガラススライドの調査もおこない、同校の教育との関係を検証した。本研究で、明治・大正期の高等教育機関においてガラススライドがいかに重要な教材として機能していたかその意義があきらかとなった。
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