一般注記唇顎口蓋裂患者の顎裂部に対する二次的骨移植術(secondary alveolar bone graft: SABG)は、上顎の連続性の確立や、顎裂隣在永久歯の萌出誘導を目的として行われる。移植に適応される骨は、様々な箇所から採取・適応されており、それぞれの利点・欠点が報告されてきた。それらに基づき、今日では、主に腸骨海綿骨細片が用いられている。当科では、腸骨海綿骨細片を用いることの欠点を回避すべく、下顎外側皮質骨片を用いた移植法を考案し、その有用性を報告してきた(Mikoya et al., 2010)。本研究においては、下顎外側皮質骨片を用いた当科(施設A)と、腸骨海綿骨細片を用いた大阪母子医療センター(施設B)の2施設間で、術後成績を比較検討した。対象は、両施設でSABGが施行された、片側性唇顎裂・唇顎口蓋裂の症例(施設A:51例、施設B:59例)とした。評価は、術後に撮影した単純X線写真を用い、骨形成状態をChelsea scaleにて行った。さらに、術前CTおよび術後6か月~12か月時点でCTが撮像された症例(施設A:12症例、施設B:12症例)を対象に、解析ソフトTRI/3D-BONを用い、3次元的に骨架橋率を算出した。また、自施設で矯正治療が行われた症例(施設A:46例、施設B:57例)について、患側犬歯の自然萌出率を検討した。Chelsea scaleを用いた評価の結果は、施設AはA:48.8%、B:1.0%、C:40.0.%、D:9.7%、F:0.5%であり、施設Bは、A:79.3%、B:0.4%、C:14.9%、D:3.7%、F:1.7%だった。2次元評価においては、施設Bが統計学的に有意に良好な結果を示した。一方、3次元評価における骨架橋率は、施設Aは72.9±13.3%、施設Bは71.3±11.4%で、両施設間に統計学的有意差を認めず、同等の結果を示した。なお、患側犬歯の自然萌出率においても、施設Aは80.4%、施設Bは79.9%であり、統計学的有意差を認めなかった。当科(施設A)で行っている下顎骨外側皮質骨片を用いたSABGは、腸骨海綿骨細片を用いた術式と異なる面があり、単純X線写真を用いたChelsea scaleにおいては、歯槽頂側での骨架橋形成が少なく評価される傾向の症例が多かった。一方、CTを用いた3次元評価における骨架橋率、ならびに、隣在永久歯萌出については同等の成績を有することが明らかになった。以上のことより、下顎外側皮質骨片を用いたSABGは、腸骨海綿骨細片を用いるSABGと比較して、低侵襲で有用な術式であることが示唆された。
(主査) 教授 鄭 漢忠, 教授 北川 善政, 准教授 三古谷 忠
歯学研究科(口腔医学専攻)
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受理日(W3CDTF)2021-06-07T02:06:26+09:00
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