タイトル(掲載誌)Institute of Social and Economic Research Discussion Papers
一般注記We compare the performance of financial professionals (CFAs) with university students in four financial forecasting tasks ranging from simple lab prediction tasks to longitudinal field tasks. Although students and professionals performed similarly in the artificial forecasting tasks, their performance differed in the more realistic tasks. Yet, increasing the ‘representativeness of the situation’ in the lab tasks did not systematically benefit financial professionals as students outperformed CFAs when forecasting historical series. However, professionals outperformed students in the field task. Our results imply that the expertise of financial professionals might have been underestimated in previous works that focused on lab tasks.
効率的市場仮説とは、株価などの資産価格を予測するための情報はすでに価格に反映されていると考える仮説である。効率的市場仮説によれば、資産価格はランダムウォークにしたがうものであり、価格予測の成功は運によるものでしかない。実際、金融の専門家による価格予測の精度を検証する研究が数多く行われ、概して専門家の予測精度はランダムな予測と大差ないことが報告されている。一方で、行動ファイナンスの観点から効率的市場仮説への懐疑的な見方も示されており、市場参加者の認知能力や性格特性などによって市場の効率性が損なわれ得ることを明らかにした実証研究も存在する。本研究の目的は、効率的市場仮説に基づく「金融の専門家は素人よりも良い予測ができない」という主張について実験を用いて再検討することである。予測の専門性を評価するために、金融の専門家(日本証券アナリスト協会認定会員アナリスト)と大学生の予測のパフォーマンスを比較した。これまでも金融の専門家と学生を直接比較した実験研究はいくつかあるが、専門家が学生よりも優れているという証拠は限定的である。しかし、専門家と学生の間で差がないのは、実験参加者が取り組む課題が抽象的すぎるあまり「状況の代表性」が保証されていないことが原因の一つかもしれない。「状況の代表性」とは、実験課題における状況が現実の状況を正確に表現できているかどうかを表す。「状況の代表性」がより高まるような、専門家が日々取り組む業務により近い設定による実験においては、専門家はより優れたパフォーマンスを発揮するかもしれない。本研究では「状況の代表性」の差による専門家のパフォーマンスの違いに焦点を当て、「状況の代表性」が低い実験と高い実験の両方で、専門家と学生の予測精度の比較を行った。最初の 2 つの実験は、人工的な数列を示す折れ線グラフを見て数列の次の値を予測する抽象的な実験室課題、3 つ目の実験は、ある実在企業の過去のある期間における株価推移のグラフを見てその後の株価を予測する実験室課題、そして、4 つ目の実験は、3-4 週間後の現実の日経平均株価終値を予測するという専門家の日常業務と類似したフィールド課題とした。最初の 2 つの抽象的な実験室課題では専門家と学生の間でパフォーマンスに差は無かったものの、より現実的な実験室課題やフィールド課題においては差が生じ、「状況の代表性」を高めることは相対的なパフォーマンスに影響を及ぼすことが明らかとなった。株価を予測する 3 つ目の実験では、学生の方が専門家よりもパフォーマンスが高く、「状況の代表性」を高めることで必ずしも専門家のパフォーマンスが向上するわけではないことが明らかとなった。市場が情報効率的であるならば株価の最良の予測値は直近の観測値であるので、最良予測値からの乖離は実験参加者の「熱狂」によると解釈しうる。3 つ目の実験では、実験参加者には特定できない企業の株価の予測において、専門家が過剰な「熱狂」を引き起こしたために予測精度が学生を下回ったと解釈することができる。一方で、4 つ目の実験のように専門家の専門知識や情報へのアクセス性を用いて最良予測値から乖離した予測をすることが正当化できる状況においては、予測精度が学生を上回った。さらに、4 つの実験課題と合わせて実施した認知能力テストと金融リテラシーテストの結果から、金融に関する予測タスクにおけるパフォーマンスは認知能力だけではなく、金融リテラシーによって説明されることが示唆された。本研究の結果は、これまで行われてきた実験室実験による金融の専門家のパフォーマンス評価は,その専門性を過小評価してきた可能性を示唆する。
連携機関・データベース国立情報学研究所 : 学術機関リポジトリデータベース(IRDB)(機関リポジトリ)