一般注記九州看護福祉大学
発達障害成人当事者の研究のこれまでは、主に著書を著している者や幼少期から支援を受けていた者を研究対象としていたが、これに当てはまらない成人後に診断を受けた発達障害当事者の現状に関する聞き取り調査を9名に行った。特にアスペルガー症候群の場合、幼少期の対人関係について幼少期から多くの困難さを抱えており、早期発見に至る可能性のあったエピソードが多く語られた。また同時にいじめられ体験も高い割合で認められた。 二次障害と思われるエピソードについて2つのピークが存在していることが示唆された。1点目ピークは思春期前後における時期であり、不眠やうつ状態などが見られた。2点目のピークとして就労後に、自己の能力を超えるような仕事と直面した時であった。特に就労に関する二次障害の場合、現在の困りごとに関して発達障害の問題より経済的問題が優先事項となり、現実的問題に直面することが多く認められ、二次障害対策の重要性が示唆された。 自己の感情認知の問題では、困難を示す結果が得られており、他者の心情理解と同時に、今後の支援のありかたとして自己感情認知の問題の重要性が示唆された。 また彼らを支えるものとして重要であるのは認められ体験であり、これは他者から頼りにされたりほめられたりなどの経験によってもたらされるもの以外にも、宗教や思想などによってもたらされたものもあった。また自身の感情を認知することが困難だと語るものも多く、新たな知見としてこの点は重要であると考えられた。
平成19 年度より特別支援教育が始まり、学習障害(以下LD)、注意欠陥多動性障害(以下ADHD)、高機能自閉症等を持つ子どもへの教育的支援がよりなされるようになった。しかし学校現場では具体的支援の方法や支援の方向性に不安を持っていることも事実である。 その原因のひとつとして考えられるのは、発達障害を持った子どもが成人後、どのような生活を送っているかという疑問である。 保護者および学校現場教員から質問されるカテゴリーのひとつとして、「過去にも発達障害を持った子どもたちがいたはずである。しかしその実態が分からない。そのような子どもたちは現在、どのような暮らしをしているのか」といったものがある。 これまでの研究は成人になる以前に発達障害を診断され、彼らが発達支援を受けながらどのように成長したかが中心であった。また、成人発達障害者研究では、成人後に診断を受けたケースに関しても自身の成育歴を手記等で発表し、その当事者から話を聞くことが中心であった。このような当事者は、いわば自身の育ちを文章化する能力に優れた者が中心であり、このような能力を持つ当事者は、おそらく少数派であると推察される。 本研究は、成人後に発達障害の診断および告知を受けたものが、どのような育ちの歴史であったかを、当事者との面接の中で聞き取りをしたものである。このような当事者のほとんどは、特別な支援を受けることなく成人したものである。つまり特別な支援を受けなかった発達障害児が、成人した現在、何を思い、どのような生活をしているかを明らかにするものである。自身の育ちを文章化する、いわゆる特殊な能力を持ち合わせていない当事者にも、それぞれの育ちの中で異なった人生を送ってきたことは容易に想像できる。このような当事者の育ちのプロセスを明らかにすることが、今後の特別支援教育における個別支援の方向性や困り感の理解に寄与するものと考える。
source:https://kaken.nii.ac.jp/d/p/19730418.ja.html
identifier:19730418
identifier:20412786
一次資料へのリンクURLhttps://kyukan.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=296&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1
連携機関・データベース国立情報学研究所 : 学術機関リポジトリデータベース(IRDB)(機関リポジトリ)
提供元機関・データベース九州看護福祉大学 : 九州看護福祉大学学術機関リポジトリ