並列タイトル等カイゴシ ノ ハタラキカタ カクメイ : ジンザイ カクホ ニ ムケタ "Uber" ガタ カイゴシ ノ ドウニュウ
Kaigoshi no hatarakikata kakumei : jinzai kakuho ni muketa "Uber" gata kaigoshi no dōnyū
一般注記type:text
世界に先駆けて超高齢化社会に突入している我が国は、間も無く危機的な介護士不足に直面する。要介護、要支援に認定されている高齢者の数は直近15年間で倍増し600万人を超えている一方、2020年の時点で20万人、2025年の時点で38万人の介護士が不足し、充足率は85%に落ち込むと予想されている。高齢者のうち7割以上が訪問介護による自宅での介護サービスを希望していることから、特に訪問介護サービスにニーズの高まりが予想される。
介護士の仕事は「きつい、汚い、危険」の3Kと称されるほどで、早急な労働環境の改善と人材確保が必要である。介護士のうち有資格者である介護福祉士として登録されているのが2015年時点で約140万人いるのに対し、このうち実際に介護士として従事しているのは78万人に過ぎない。つまり差分62万人は介護士として働く能力を有しながらも実際に働くことができていない潜在介護士なのである。介護士の離職理由を紐解くと、介護士自身のライフイベントや収入の問題、勤務体制の問題が上位を占めており、労働環境の変革が介護士不足の改善に寄与できる余地があることがわかる。この潜在介護士に着目し、彼ら彼女らが自身の都合に合わせた自由な働き方で介護の現場に復帰できる環境を整え、介護士不足を供給側から抑制する政策を目指す。
そこで自動車配車システムを手がける米国Uber Technologiesを参考に、"Uber型訪問介護士" のモデル事業導入を提案する。Uberは2011年にサービスを開始して以来欧米を中心に事業を拡大し続け、2019年現在では世界70カ国で展開、ユーザー数は全世界で約1億人に到達、毎秒215人が利用している計算になる。現在のアメリカ都市部では、このUberおよびLyftに代表されるライドシェアは既にインフラと化しており、なくてはならないサービスになりつつある。両社の北米におけるドライバー数は2019年時点で延べ450万人に達し、北米人口の1%強に値する。Uberは乗り手を募集中のドライバーとユーザーの移動需要をリアルタイムでマッチングするスマートフォンアプリケーションが特徴であり、ユーザーにとって高い利便性を実現している。一方でドライバーも昼夜問わず自身が働きたい時だけ自由に働くことができ、勤務時間、勤務場所に捉われないこれまでにない新たなワークスタイルを可能にしている。さらに事業体は営業所などの固定費を削減でき、その分高い報酬をドライバーに還元し、通常のタクシードライバーに比べ給与面では高待遇である。顧客には利便性、働き手には自由な働き方と高報酬を提供し、持続可能なサービスがUberの特徴である。本提言ではこのUberの需給マッチングシステムを我が国の介護分野に導入し、訪問介護士に自由な働き方の創造、予測される介護士不足を潜在介護士から補う方針を提案する。
日本国政府は現在この介護における需給ギャップを抑制するべく、介護需要を減らし、介護人材供給を増やす様々な施策を講じている。具体的には(1)経済連携協定(EPA)や技能実習制度(TITP)による外国人介護人材の補填(2)介護士の給与の拡充や介護離職抑制に向けた一般会計予算からの金銭的支援(3)介護支援ロボットの開発支援、の3点が挙げられる。(1)は東南アジアを中心とする発展途上国からの介護人材の受け入れであるが、その東南アジア諸国も2020-25年にかけて高齢化社会に突入することが予想されている。また(2)(3)に関して、日本国内では65歳以上人口割合に定義される高齢化率は2016年時点で27.3%であるが、2065年には38.4%に達し、増加の一途をたどる予想であることを鑑みると、他国の人材供給や一般会計予算に頼らない持続可能な事業としての介護士不足解消法もまた望まれる。Uber型システムを応用する本提言は介護福祉分野における長期的な働き方改革の一環としても位置付けられ、働きたくても働けない介護士に新たな選択肢を与える手段としても期待できる。
概して、本提言により超短時間労働の選択肢を介護の現場に導入し、介護職をより魅力的な仕事へと昇華させることを目的とする。慢性的な介護士不足に一石を投じ、持続的な介護士の供給を実現することにより、介護士だけでなく高齢者にとっても安心して老後を迎えられる社会を実現する。
提言先
厚生労働省 社会・援護局 福祉基盤課
政策提言書05
連携機関・データベース国立情報学研究所 : 学術機関リポジトリデータベース(IRDB)(機関リポジトリ)