並列タイトル等ジュクギ ミンシュ シュギ ノ ジッセン ニ ムケテ : チホウ ジチタイ ニ オケル トウロンガタ ヨロン チョウサ ノ セイドカ
Jukugi minshu shugi no jissen ni mukete : chihō jichitai ni okeru tōrongata yoron chōsa no seidoka
一般注記type:text
本提言は、日本における民主主義の質の向上と、民意の政策への効果的な反映を目指し、地方自治体におけるDPの段階的な制度化を提案するものである。この提言の背後には、現代の民主主義の限界という問題意識がある。すなわち、現代の民主主義の主要な形態である (投票によって人々の選好を集計し、代表を選出する) 「集計民主主義」は、便利で効率的である一方、有権者が自らの政治的意思表明に際し、問題となっている争点について吟味をしているかという点に疑問符がつくことがある。さらに集計民主主義の考えは、人々の政治的選好が所与であることを暗黙に前提しており、人々の政治に関する考えは大きく変化し得るという事実を軽視する傾向にある。
上述の集計民主主義の限界を踏まえ、それを補完する概念として、熟議民主主義の概念が導入される。熟議は人々の政治的選好に変化をもたらし、ときに政策にも影響を与えるほか、理論的にも民主主義の限界 (投票サイクルの発生等) を乗り越える可能性を秘める。次に、熟議民主主義の強みを踏まえ、その実践形態としての討論型世論調査 (Deliberative Polls: DP) を簡潔に紹介する。DPは多くの実施例があるものの、日本におけるDPの展開はいまだ限定的であり、これを学術的な取り組みだけにとどめておくのはいわば「もったいない」ことである。
したがって本提言は、以下の方法によって地方自治体におけるDPの段階的な制度化の推進を提案する。(1) 第一に、各市町村が、独自に企画・運営をしたDPを、当該自治体において実施する。第二に、(1) の取り組みが複数の市町村で浸透した場合、(2-A) 当該市町村が属する都道府県に、DPの運営を担う「熟議担当部署」を設置するか、もしくは (2-B) 有志の市町村によって構成される「熟議連合体」を結成し、メンバー自治体間において持ち回りでDPを実施することで、DPの恒久的な制度化を行う。なお、(2-B) 案はさらに「市町村の連合である『熟議連合体』に、DPの運営を行う機関を特別に設置する」か、「『熟議連合体』のメンバー自治体をひとつ選び、この市町村を当該DPの『担当』とする」という二通りの実施形態が考えられる。このうちのいずれを採用するかは、参加自治体の数や規模等の要素によって決定すればよいし、一方から他方の方式へ変更することもそれほど困難でないように思われる。
提案された制度の利点は多岐にわたり、その源泉は大まかに (1) DPという仕組みそのものの強み(具体的には「政治的平等」の担保や、参加者の意見の分極化を避けることができること)、(2) 市町村においてDPを実施することの強み (政策との「距離」が近いこと等)、(3) 他の自治体と協力すること (DPの費用を分担できること等) の強みの三点に分類できる。また、本稿で示された制度設計は、従来のDPの課題を克服するための工夫が施されていることも示される。中でも、DP実施に要する費用が本提言の内容を実現する際の主要な障壁となるが、(1) 他の自治体との費用分担、(2) DPの知識やノウハウの蓄積による費用の低減、(3) DPの縮小による費用の削減、(4) 制度化されたDPの多機能性を考慮すれば、それは十分許容され得る水準であることが明らかになる。
あらゆる面からみて完全な制度が存在し得るかは疑わしい。どんな政策にもトレードオフがつきものである。したがって、本提言の枠組みにも、筆者の気づいていない欠陥があるかもしれないし、ましてや「民主主義の『質』の向上」という目標が一朝一タで実現しないことは言うまでもない。しかし、だからこそ丁寧な制度設計と中長期的な視点が不可欠である。とりわけ重要なのは、「どうせ政治に関心のある人しか集まらない」という思考停止に陥ることなく、DPが発揮し得る長期的だが多様な教育的および政策的効果に着目し、制度の不断の修正を重ねてゆくことに他ならない。
なお、本稿が想定する提言先は、各市町村、都道府県、総務省である。
政策提言書7
一次資料へのリンクURLhttps://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php?koara_id=KO12005001-00002017-0125
連携機関・データベース国立情報学研究所 : 学術機関リポジトリデータベース(IRDB)(機関リポジトリ)