並列タイトル等シャカイテキナ マンセイツウ タイサク ニ カンスル テイゲンショ : ニホン ノ Well-being キョウカ ノ タメ ニ
Shakaitekina manseitsū taisaku ni kansuru teigensho : Nihon no Well-being kyōka no tame ni
一般注記type:text
近い将来の日本では少子高齢化に伴う社会保障費の拡大と生産年齢人口の減少が同時に起こることで社会に大きな変化がもたらされる。この問題に取り組むにあたって、私は日常的に多くの人がかかえている慢性的な痛みの問題に着目した。慢性痛には腰痛・肩こり・頚部痛・頭痛・関節痛などが含まれ、日本全国で約2000万人以上という多くの人が慢性の痛みにより生活が制限されている。これは、高血圧(約1011万人)、認知症(約462万人)、糖尿病(約317万人)、悪性新生物(約101万人)と比較しても、高い有症者数である。特に腰痛は80%以上の人が一生に一度は体験するという、極めて一般的な症状である。さらに、こうした慢性痛の有症率は年齢に伴って増加することが知られており、高齢者の医療費・介護費の負担増および健康寿命の短縮に関与している。痛みにより歩行や活動量に支障をきたし、引きこもりがちになる高齢者が増える。また、ロコモティブシンドロームとの関連から、痛みは肥満および虚弱(フレイル)のリスク因子でもある。一方で、痛みを患っていると仕事の能率が下がったり、欠勤が増えたりすることが知られており、慢性痛は生産年齢人口世代の生産性の低下に寄与している。慢性痛の有症率は女性で有意に高く、女性の社会進出において足かせとなることが予想される。しかしながら、現代の医療システムや社会システムは、慢性痛の問題に対して有効に機能しておらず、将来、ますますの少子高齢化にともなって慢性痛の社会的悪影響がより強く顕在化してくることが懸念される。
近年、痛み医学の進歩により、適切に身体を動かすことにより慢性の痛みを克服すべきであるという、痛みケアに関する新しいパラダイム・シフトが起こりつつある。痛みが改善しない背景に、痛みケアに対する我々の「間違った認識」があり、そのせいで過度な安静の持続による痛みの悪循環が起こり、結果として慢性痛から逃れられなくなる。最新の研究により「痛みの恐怖回避思考(fear-avoidance beliefs: FABs)」という病的な信念が痛みの慢性化・難治化の原因であることが判明し、その病的な思考を解消させることで慢性痛が改善することが期待されている。ところが、現在の日本には痛みの恐怖回避思考(FABs)を解消できる有効なシステムがなく、このままでは慢性痛による社会経済的損失がますます増えるばかりである。そこで、この提言では恐怖回避思考(FABs)の解消を中核とした慢性痛対策における医学的および社会的なアプローチを提案する。提言内容には医療的介入手段だけでなく、ヘルスケア領域における慢性痛対策も含まれる。この提言により慢性痛有症者が減り、人々が活動の意欲を取り戻すことで正の経済効果と健康寿命の延伸がもたらされることを期待する。
政策提言書8
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