並列タイトル等「チョウセイジュク シャカイ」ニ オケル ソウゾク モンダイ カイケツ ノ タメ ノ ユイゴンショ フキュウ ジギョウ : 「セキニン」アル シャカイ ノ コウチク ニ ムケテ
"Chōseijuku shakai" ni okeru sōzoku mondai kaiketsu no tame no yuigonsho fukyū jigyō : "sekinin" aru shakai no kōchiku ni mukete
一般注記type:text
本稿の目的は、日本国内で深刻化しつつある相続とそれを取り巻く諸問題への解決策としての遺言書の重要性を主張し、その普及に向けた方策を政策決定機関へ提案することにある。
近年、日本国内では遺産相続をめぐるトラブル件数が増加傾向にある。この背景には、高齢化による年間死亡者数の増加という短中期的な現象もあるが、それに加えて、死後の財産処分について自律的意思決定が困難な認知症老人の増加、家族による自宅介護における寄与分問題の複雑化、家族間での価値観の多様化、若年層における権利意識の高まりなど、家族構造や社会の変化が大きな要因となっている。このような問題に対して、すでに政府内でも現在様々な方策が検討されている。
本稿では、そのような進行中の取り組みに対する一助として、特に相続手続きにおける遺言書作成の重要性に注目し、遺言書普及のための諸政策案を提案する。日本における現行の遺言書制度は、1947年5月の日本国憲法施行以来のものであるが、遺言書文化の普及は漸増しつつも、依然として限定的なものに留まっている。遺言書は、被相続人が自身の死後に財産をどのように処分するかを取り決める自己決定権の行使であるが、同時に相続人の間で不要な諍いを招くことを防止する上で極めて重要な役割を果たす。また、遺言書において適切な財産分配を取り決めておくことは、自宅介護の担い手にとっての精神的ストレスの緩和にもつながる可能性が高い。以上のような理由から、遺言書の普及は、今日の日本における相続とそれを取り巻く課題に対して一つの重要な対処法となりうるのである。
遺言書普及のための具体案としては、次の四つの施策が提案内容となる。
(1) 退職段階における「遺言書講習」
(2) 「遺言書」相談センターの設置・充実
(3) 遺言書作成へのインセンティブ創出
(4) 「遺言書普及」に関する検討会議の設置
上記、四つの施策は、いずれも遺言書作成率の増加という一つの目標に焦点を絞ったものであるが、同時により広い文脈においては、近年注目されている「終活」への関心拡大にもつながることが期待される。遺言書の普及を軸に、これまで避けられがちであった終末期との向き合い方や世代間における継承という問題について社会全体で取り組むことは、「超成熟社会」を迎える日本にとって極めて重要な意義を持つと言えるだろう。
政策提言書9
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