タイトル(掲載誌)平成13(2001)年度 科学研究費補助金 奨励研究(A) 研究概要 = 2001 Research Project Summary
一般注記金沢大学人間社会研究域歴史言語文化学系
昨年度より実施の文献調査を継続しながら、本年度はその分析のほうにより重点を置いて研究を進めた。その結果、濁音の鼻音要素について解明する上でも、これらの文献の成立背景をいかに考えるかが重要であることが明らかとなった。具体的には、謡曲資料・仮名遣書に掲げられている発音注記の背景に、どのような言語実態があるのかという点である。従来、その発音注記は、古い発音を守るために記されたものと見なされてきた。しかし、なぜ、当時、細かな発音の違いに、わざわざ注意が向けられたのかを問題にするならば、従来の見方はあまりにも単純に過ぎることがわかる。本研究は、それを指摘した上で、さらに、ザ行子音をはじめとする濁音の実態、およびその変化がどのようであったかについて、とくに、これまで見逃されていた点を中心に明らかにした。従来の最大の問題点は、話者が自分の発音を意識する際に、しばしば生じるはずの過剰訂正(hypercorrection)の可能性をまったく考慮していないことである。そもそも細かな発音の違いがいちいち意識され、それが文献に記されること自体、特殊な条件下でなければ起こりえないことであるが、その認識を持った上で、これらの文献は扱われていなかった。過剰訂正は、実際には変化が生じなかったところまで、「誤った形」として話者が感じることによって生じる。現在の我々が、そのことを見逃し、文献中の記述が直接に言語変化を反映するものと見なしてしまうと、誤った日本語史をそこから導き出すことになる。それゆえ、過剰訂正が生じる言語的背景を探ることは大変重要である。これによって、誤った言語史を正していくことが可能になる。本研究を通じて、そのことを具体的に明らかにした。この点は、言語史研究の方法論に対する、重要な問題提起となった。
研究課題/領域番号:12710223, 研究期間(年度):2000-2001
出典:「濁音の鼻音要素消滅の諸相と動因」研究成果報告書 課題番号 12710223(KAKEN:科学研究費助成事業データベース(国立情報学研究所))(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12710223/)を加工して作成
関連情報https://kaken.nii.ac.jp/ja/search/?kw=20253247
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-12710223/
連携機関・データベース国立情報学研究所 : 学術機関リポジトリデータベース(IRDB)(機関リポジトリ)