一般注記20丁 和装本
作者の堀内元鎧は、儒者で医者の高遠藩の藩儒中村元恒の子息である。元鎧は、信濃にまつわるいくつかの奇談を短編に現したが、23歳の若さで没してしまった。父元恒は、それを『信濃奇談』として刊行した。『信濃奇談』は上・下2巻。上巻は、「諏訪湖」・「蜜蜂」・「塩井」・「狐の玉」などの17編。下巻は、「駒嶽」・「疱瘡」・「守屋嶽」・「徳本翁」などの12編と、付録の「王墓」・「検校墓」と「堀内玄逸墓表」とからなる。ここでは、上・下巻のうち、二、三の『奇談』を紹介しよう。まず、諏訪湖で生じる<神(み)渡り>についてみる。「冬になると、湖の表は鏡のように凍り、斧をもって穴をうがち、網をおろし鯉などをとったりするが、この氷の上に<神わたり>という現象がおきて一夜のうちに白い道が出来る。後は、人も馬もこの上を行き来すること昔よりの慣例となる。この神渡り現象は、狐の渡ることであると、貝原益軒がいうけれども、これは氷の厚く張ることによって割れることから生じる現象であり、決して神が渡るのでもなく、狐のわたるのでもない。