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【序文】
心臓・胸部大動脈術後の患者が心停止に陥った際,現場の医療従事者が直面する課題は少なくありません.「胸骨圧迫を行っていいのだろうか?」,「次は何をすべきだろうか?」といった一瞬の迷いや戸惑いが,患者の救命率や社会復帰率を大きく左右します.こうした1分1秒を争う状況において,標準化されたプロトコールに基づく迅速な対応が不可欠であることは言うまでもありませんが,従来のACLS(Advanced Cardiovascular Life Support)では必ずしも十分ではないことは,ACLSの提唱母体である米国心臓協会(AHA)自身も認めています 1).この問題に対する解決策として,心臓・胸部大動脈術後の心停止への対応に特化したプロトコールとして提唱されたのが,CALS(Cardiac Surgery Advanced Life Support)です 2).
CALSは,2003年に英国の胸部外科医であるJoel Dunning先生が心臓・胸部大動脈術後の心停止に際しての混乱を実際に経験したことを契機として構築され,その後,欧州心臓胸部外科学会(EACTS),欧州蘇生協議会(ERC),国際蘇生連絡委員会(ILCOR),米国胸部外科学会(STS),AHA,オーストラリア・ニュージーランド心臓・胸部外科学会(ANZSCTS),オーストラリア・ニュージーランド集中治療学会(ANZICS)などのガイドラインやエキスパートコンセンサスとして国際的に採用が広がっています.
CALSでは,心停止覚知時,即座に胸骨圧迫を開始するのではなく,まずはリズム評価を行い,適応リズムであれば胸骨圧迫の前に除細動やペーシングを試みるなど,心臓・胸部大動脈術後特有の病態に即した対応を体系化しています.また,心停止から5分以内に緊急再開胸を達成できる体制づくりやシミュレーショントレーニングを推奨し,患者の救命率と神経学的転帰の向上を目指しています.
ただし,ここでよくある誤解に対する重要な注意点が2つあります.1つ目は,CALSでは「胸骨圧迫をいついかなるときでも絶対に行わない」というわけではないということです.胸骨圧迫開始前に自己心拍再開(ROSC)が望める対応策があるのであればそれを優先的に試みるということに過ぎず,それらの対応策が無効であったときやそもそもそれらの適応リズムではない場合には,当然即座に胸骨圧迫を開始します.2つ目は,緊急再開胸についてもそれが必要と判断された際には迅速に行える体制づくりや物品準備,シミュレーショントレーニングはしっかりと行いつつも,必ずしもすべてのケースで緊急再開胸を実施しなければならないわけではないということです.むしろ,CALSプロトコールに沿った蘇生対応を行うことにより,ACLSに基づく対応と比較し,最終的に緊急再開胸を要した症例の割合は低下したという報告もあります.
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- 資料種別
- 図書
- ISBN
- 978-4-524-21008-4
- タイトルよみ
- シーエーエルエス ハンドブック
- 著者・編者
- Adrian Levine, Joel Dunning [著]植野剛 [ほか] 訳・執筆
- 著者標目
- 著者 : Levine, Adrian著者 : Dunning, Joel著者 : 植野, 剛
- 出版事項
- 出版年月日等
- 2025.10
- 出版年(W3CDTF)
- 2025
- 数量
- 103p