書店で探す
目次
【書評】
本書の訳者の一人である植野剛先生は,かつて将来を嘱望された心臓血管外科医であった.諸般の事情により臨床の第一線を離れ,医療機器メーカーへと転身することとなったが,その直前,彼は“Cardiac Surgery Advanced Life Support(CALS)”の日本での普及に対し,並々ならぬ情熱を燃やしていた.「それほどの情熱があるならば,臨床医としてメスを握りながら取り組めばよいものを」と,その才能を惜しんだことは今でも鮮明に覚えている.
数年前,筆者は植野先生のこの熱意を形にすべく,日本胸部外科学会などの理事を務める何名かの先生方にCALS普及について打診したことがある.しかし,当時CALSの概念を正確に把握されていたのは,東京大学の小野稔先生だけであった.ほかの多くの重鎮の先生方は「CALS?」と首をかしげるばかりであった.なぜベテラン外科医にCALSは響かなかったのか.その後,本誌での連載や先駆的施設の取り組みにより,CALSの認知度は飛躍的に向上した.しかし筆者を含め,昭和~平成に修練を積んだ外科医たちが当初CALSにピンとこなかったのには,明確な理由がある.少なくとも筆者の勤務していた施設では,集中治療室(ICU)にはワイヤーカッターや開胸器が常備され,万が一の急変時には躊躇なくその場で開胸し,直接心臓マッサージを行う.それは「特別なイベント」ではなく,想定内の対応であった.心臓血管外科医であれば,術後の胸骨をAdvanced Cardiovascular Life Support(ACLS)のガイドラインどおりに圧迫すれば胸骨が離開し,縫合したばかりの心臓大血管を損傷することは,生理的な反射レベルで理解している.ペースメーカワイヤーを駆使し,除細動を行い,いよいよとなれば創部を開放して用手的に循環を維持する.これらはわれわれにとって,言語化するまでもない「常識」であり,暗黙知として共有されていたのである.
一方,CALSが生まれた欧米の背景は異なる.そこでは集中治療医が術後管理の主導権を握る.外科医の「常識」が通用しない環境において,外科医と非外科医をつなぐ共通言語としてガイドラインが必要とされたのであろう.つまり,外科医が術後患者に張りついていた日本においてCALSの必要性が生じなかったのは,ある意味で必然であった.
しかし今,日本の医療現場は劇的な転換点を迎えている.「働き方改革」の波は,かつての栄養ドリンクのCMのごとく「24時間戦えますか」という精神論で成立していた医療体制を過去のものとした.心臓血管外科医が不眠不休でICUに常駐し,すべてを管理する時代は終わりを告げつつある.その結果,術後管理は外科医単独の手から離れ,看護師,臨床工学技士,集中治療医を含む多職種チームへと委ねられることとなった.ここではじめて,職種を超えて安全を担保するためのプロトコール,すなわちCALSが真価を発揮する.患者の生命を守るための頼みの綱は,一人の「心臓血管外科医」の技量ではなく,チーム全員が共有する「システム」へと移行しなければならないのである.
全国の図書館の所蔵
国立国会図書館以外の全国の図書館の所蔵状況を表示します。
所蔵のある図書館から取寄せることが可能かなど、資料の利用方法は、ご自身が利用されるお近くの図書館へご相談ください
関東
東京都立中央図書館
紙- 請求記号:
- 494.6-5615-2025
- 図書登録番号:
- 7119931356
四国
高知県立図書館
紙- 請求記号:
- 494.643-レウ
- 図書登録番号:
- 1112666746
その他
CiNii Research
検索サービス紙連携先のサイトで、CiNii Researchが連携している機関・データベースの所蔵状況を確認できます。CiNii Research
検索サービス紙連携先のサイトで、CiNii Researchが連携している機関・データベースの所蔵状況を確認できます。
書店で探す
出版書誌データベース
から購入できる書店を探す
『Books』は各出版社から提供された情報による出版業界のデータベースです。 現在入手可能な紙の本と電子書籍を検索することができます。
別の方法で探す
書誌情報
この資料の詳細や典拠(同じ主題の資料を指すキーワード、著者名)等を確認できます。
- 資料種別
- 図書
- ISBN
- 978-4-524-21008-4
- タイトルよみ
- シーエーエルエス ハンドブック
- 著者・編者
- [Adrian Levine, Joel Dunning] [著]植野剛 [ほか] 訳・執筆
- 著者標目
- 著者 : Levine, Adrian ( 034406116 )典拠著者 : Dunning, Joel ( 034406171 )典拠
- 出版事項
- 出版年月日等
- 2025.10
- 出版年(W3CDTF)
- 2025
- 数量
- 103p