並列タイトル等ヒステリシストクセイヲユウスルタンイツデンシデバイスノケンキュウ
一般注記近年の微細加工技術の発展により、量子効果を利用した種々の電子デバイスが実現されている。特に数十nm から数百nm のサイズ領域では、マクロな効果とミクロな効果の両方が現れる。このことから、このサイズの領域は「中間の」という意味を表す「メゾスコピック」領域と呼ばれている。メゾスコピック領域の電子デバイスは、物性面および工学的応用の観点から興味の対象となり、研究は今なお盛んに行われている。個々の電子が持つ電荷は「素電荷」と呼ばれる。素電荷の大きさは1.60 10??19 C と非常に小さく、マクロ領域に生活する我々は個々の素電荷を意識することはない。ところがメゾスコピック領域では、この素電荷の作る静電エネルギーがデバイスの動作に影響を与えるようになる。素電荷を駆動源にして動作する電子デバイスが1990 年代に多数考案された。これらは「単一電子デバイス」と呼ばれている。現在の電子デバイスの主流であるSi を用いたトランジスタと比較して、単一電子デバイスは低消費電力かつ微細化が可能なデバイスとして期待される。 一方、微細加工技術の発展は、電子のスピンを利用する「スピントロニクス」の分野も発展させた。デバイスの動作原理に電子のスピンを利用したこのデバイスは、1988 年の巨大磁気抵抗効果の発見を発端として、急速に工学的応用・産業面での発達を見せた。今や、スピントロニクスの分野は我々の情報社会において欠かせない技術となっている。例えば、情報記憶装置であるハードディスクの読み取りヘッドとして製品化されている。磁気抵抗メモリも製品化の段階に入りつつある。これらを背景に、単一電子デバイスの電荷とスピントロニクスのスピンを併合させ、電荷とスピンが相互作用する新規な電子デバイスを創出する試みが行われている。これまでに、実験面から興味深い現象が多数報告されている。理論面からの解析も進められているが、実験から得られた特性を完全に説明するには至っていない。 本論文は、単一電子デバイスの高機能化をめざして、ヒステリシス特性を有する単一電子デバイスの数値計算および実験研究を行ったものである。単一電子トランジスタと呼ばれる、三端子のデバイスを研究対象とし、電圧にも磁場にもヒステリシスを伴った応答をする単一電子トランジスタの実現を目指したものでる。第一に、電圧に対しヒステリシスを有するデバイスとしてシュミットトリガとして動作する単一電子デバイスの回路構成および静電容量パラメータの組み合わせを、新たに考案した。単一電子トランジスタのゲート電極部に改良を加えることによって、シュミットトリガ動作を実現した。具体的には、すでに提案されている単一電子トラップと単一電子入力離散化器とを組み合わせることで、ヒステリシス動作、および、しきい値電圧のバイアス電圧無依存化を図った。また、単一電子トランジスタをキャパシタンスに置き換えた等価回路を用いることで、ヒステリシス動作領域の解析が容易に行えることを見出し、容量パラメータの設計指針を明らかにした。数値計算により、設計した単一電子デバイスがシュミットトリガとして動作することを確認した。また、温度安定性を数値計算により検証した。さらに、アルミの微小トンネル接合を利用して入力部の一部を作製し、低温環境下にてその特性を測定したところ、ほぼ設計通りの特性が確認できた。第二に、磁場に対しヒステリシス特性を有する単一電子デバイスの特性を実験的に明らかにした。単一電子トランジスタのソース電極とドレイン電極を非磁性常伝導体から強磁性体に置き換え、さらに島電極を常伝導体から超伝導体に置き換えることにより、磁場に対してヒステリシス特性を有するデバイスを実現した。このデバイスを本論文では超伝導島電極を有する強磁性単一電子トランジスタと呼ぶ。超伝導島電極を有する強磁性単一電子トランジスタでは、強磁性体電極から注入されたスピンが超伝導体に蓄積され、デバイスの磁気抵抗比が負になるという特異な振る舞いが、理論的に予測されている。これまで、理論予測同様に磁気抵抗比が負となる実験結果が報告されている一方、理論予測には従わず磁気抵抗比が正となる実験結果も報告されており、磁気抵抗比の極性を決める要因は不明であった。本論文では、磁気抵抗比の極性を決定する要因としてスピン注入効率に着目し、スピン注入効率を決定する要素の一つであるトンネル抵抗値の異なる超伝導島電極を有する強磁性単一電子トランジスタを複数作製した。その結果、スピン注入効率が高いデバイスは負の磁気抵抗比を、スピン注入効率が低いデバイスは正の磁気抵抗比を示すこと確認し、磁気抵抗比の極性を決定する要因はスピン注入効率であることを見出した。
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受理日(W3CDTF)2016-07-07T04:28:02+09:00
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