一般注記光合成生物は光エネルギーを用いて光合成を行う。高等植物の場合、光合成の第一段階は、Light-harvesting chlorophyll a/b binding protein complex (LHC)による光エネルギーの集光である。LHCの機能において重要な役割を担うのが、LHC motifと呼ばれる保存されたアミノ酸配列である。光合成生物のゲノム解析が進んだ結果、LHC近縁なタンパク質がいくつか発見された。これらのタンパク質は、LILタンパク質と呼ばれ、LHCと同様にLHC motifを持つ。北海道大学・生命科学院・生物適応機構学研究室では、2002年より継続的にシロイヌナズナを用いてクロロフィル代謝に異常をきたす変異体のスクリーニングを行っている。このスクリーニングにおいて、側鎖の還元が不完全なクロロフィルを蓄積する2つの変異体が単離された。これらの変異体では、それぞれLIL3:1(At4g17600)遺伝子とLIL3:2(At5G47110)遺伝子の最初のエキソンにトランスポゾンが挿入されていた。LIL3は、まだ機能の同定されていないLILタンパク質の一種であった。当研究室の研究により、lil3:1/lil3:2二重変異体では、α-tocopherolおよびphytylated chlorophyll (Chl-phytol) の蓄積が見られないことが明らかとなった。この表現型は、geranylgeranyl reductase (GGR)と呼ばれる酵素を欠損した変異体の表現型と非常によく似ている。GGRはgeranylgeranyl diphosphate (GGPP)をphytyl diphosphate (PPP)へと還元する酵素であり、生じたPPPは、クロロフィル合成、およびα-tocopherol合成に利用される。実際、lil3:1/lil3:2二重変異体ではGGRの蓄積がみられなかった。では、なぜ、LIL3遺伝子を欠損させるとGGRが蓄積しなくなるのか。LIL3はGGR4 の蓄積にどのような影響を与えているのか。さらには、LIL3がGGRの酵素活性に関与している可能性はあるのか。本研究では、これらの疑問を解決し、LIL3の機能を明らかにすること、また、LILタンパク質で保存されているLHC motifの機能を明らかにすることを目的に実験を行った。まず、LIL3にFLAGタグを融合した形質転換植物を作成し、免疫沈降によってLIL3複合体の単離・精製を行った。その結果、LIL3はGGRと約200kDaと約160kDaの複合体を形成していることが明らかとなった。さらに、GGRに膜貫通ドメインを融合したコンストラクトを作成し、lil3:1/lil3:2二重変異体に形質転換したところ、部分的にではあるが、表現型の回復が見られた。また、LHCがもつLHC motifはクロロフィルが結合していることが明らかになっており、この結合したクロロフィルがLHCの機能に重要であると考えられている。そこで、LIL3がもつLHC motifのうち、クロロフィルが結合すると推測されるアミノ酸をアラニンに置換した形質転換植物を用いて、LHC motifの機能解析を試みた。その結果、LIL3アミノ酸置換変異体では、野生型植物と同レベルのGGRが蓄積しているにも関わらず、Chl-phytolの割合は4割程度までしか回復せず、また、野生型植物で見られるLIL3-GGR複合体の高分子のバンドが検出されなかった。これらの結果を総合的に考えると、LIL3の主な機能は、GGRのチラコイド膜へのアンカーであり、GGRの酵素活性には直接的には影響を与えないこと、さらに、LIL3はLHC motifを介してチラコイド膜上で複合体を形成しており、複合体を形成することで、GGRが効率的に酵素反応を触媒することができることが明らかとなった。
(主査) 准教授 田中 亮一, 教授 田中 歩, 教授 加藤 敦之
生命科学院(生命科学専攻)
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受理日(W3CDTF)2017-04-02T16:10:31+09:00
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