一般注記本論文では筋電義手を対象とし,筋電義手制御のための筋電パターン学習法について開発を行う.近年,テクノロジーの発達と共に,義手に要求される機能が高度なものとなっている.特に,使用者の筋電位を用いて制御する筋電義手が注目されてきている.筋電は,筋収縮の際に筋を伝播する電気信号であり,皮膚表面へ筋電計を取り付けることにより計測が可能なものである.筋電義手のハードウェアとしての側面を見れば,多自由度化やデザイン性の向上など,多くの機能改善が行われている.しかしながら,その制御手法については長らく革新がなされていない.現在普及する筋電義手は筋電計を用い,表面筋電位を計測することで制御を行うが,制御原理としては,筋電信号の振幅が一定値を超えるか否かによって2値判別を行うON-OFF制御に留まっている.この制御手法では多くの自由度を動かすことが困難であるため,近年は2つの筋電計を用いて,いずれかもしくは両方の筋電計に特定の順番で筋電を入力することにより,順番に対応した義手動作を行うコマンド方式を取っている.しかしながらこの手法では,コマンドと義手の動作の対応を覚えなければならないことや,義手の自由度が増加に伴いコマンドも長くなっていくことから,素早い操作が困難になるという問題がある.そこで研究の分野では,筋電をパターンとして捉え,筋電パターンと義手の動作パターンを対応させる直感的な義手操作が提案されてきた.この手法では筋電パターンと動作パターンを探索しなければならないが,筋電義手の適用段階においては使用者の負担軽減が重要な要素となるため,本研究では使用者ではなく,筋電義手自体が動的に筋電パターンを探索・学習する手法の開発を行うことを目的とする.本研究では,筋電パターンと動作パターンの探索および対応付けを行う,オペラント学習機能を有する筋電識別器を提案する.オペラント学習機能を有する筋電識別器は2つの要素から構成される.1つは,筋電の出現頻度に着目した識別安定化フィルタである.このフィルタは,誤識別された動作パターンのみを取り除き,筋電パターン識別を安定させる.もう1方は負報酬を用いた識別器修正アルゴリズムで,筋電の出現頻度と使用者から入力される負報酬を利用する.使用者の意図した動作パターンと実際に出力された義手の動作パターンが異なる場合に,使用者が負報酬としてボタン入力することで,義手が半自動的に学習データを修正する.結果的に,識別安定化フィルタにより実用レベルの識別率が得られ,実験により識別器の修正アルゴリズムのダイナミクスが解析された.またこの過程で,使用者に合わせた筋電義手の制御自由度の選択が行える可能性が示唆された.これまでの筋電義手は,あらかじめプログラムされた動きに対し,あらかじめ決められたコマンド入力や,あらかじめ教示した筋電パターンを入力することで制御を行っていた.そのため,人の手のように,反復練習により何らかの技能を会得するということは考えられなかった.しかし本研究で提案されたオペラント学習機能を有する筋電識別器をさらに発展させれば,人の手のように,訓練次第で様々な動きを学習し,無限の可能性を持つ筋電義手が実現される可能性がある.
2015
コレクション(個別)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
受理日(W3CDTF)2018-01-02T17:18:43+09:00
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