並列タイトル等Studies on the effects of public policy on formation of large-scale landscapes : Focusing on Sapporo and Obihiro regions in Hokkaido
一般注記1919年に風致地区及び美観地区制度が施行してからおよそ100年の間に、我が国では景観に関わる様々な法制度が施行され、景観行政の取組み可能な幅を拡大してきた。特に2004年の景観法は我が国初の景観に関する総合法として施行され、都市部に限定せず農山漁村や自然公園を含めた良好な景観の形成が目的として掲げられた。景観法を含めこれまでの景観に関する法制度の多くは、基本として地域ごとに景観形成を委ねている。そのため、良好な景観の形成意欲がある市町村が、限定した区域又は特定の要素の改善を目的に、市町村単独で運用してきた傾向がある。つまり景観施策は主に、景観形成の目的意識を持ちやすい大都市都心部や歴史的市街地等において運用されており、市町村の境界を越えて複数の要素が含まれる広域景観への施策の対応は限られる傾向にあった。今後の景観行政では、景観の取組み指針である「美しい国づくり政策大綱」においても指摘されるように、これまで広域景観を形作ってきた土地利用規制や産業政策、交通計画などの様々な公共政策の影響を考慮し、良好な景観形成に資する方策を検討する事が一課題と考えられる。 以上を踏まえ本研究は、行政境界又は土地利用区分を越えて形成される広域景観の実態を把握し、景観形成に公共政策が与える影響を明らかにする事を目的とする。本論では公共政策として、景観関連施策だけではなく土地利用や社会基盤、産業振興に関わる部局が所管する計画や運用指針、規制、事業を含めて扱う。境界線による施策の変化や、複数施策の重複と広域景観形成の対応関係を分析する事で、良好な広域景観の形成に資する方策について考察する。研究方法は行政資料・文献調査、現地調査、アンケート・ヒアリング調査である。 第2章では学術と社会の動向から、広域景観の位置付けを明確にする。国土交通省は2008年に「広域的景観について」を取りまとめる事で、広域景観に関する取組み促進へ向けた議論を進めている。そこで本章では2008年から景観法施行10年目に当たる2013年までを広域景観展開期と捉え、景観に関する論文と新聞から学術と社会的な言論の整理を行った。調査より、広域景観に関する論文と新聞は、景観言論全体の約5.0%を占める事が分かった。学術の観点からは、行政境界を越えた景観形成手法に着目する傾向がみられ、先進事例の分析が進んでいる。次に社会の観点は、行政境界や土地利用区分を越えたまとまりを持つ景観や、全国各地で土地利用を問わずに発生する景観上の共通課題を取り上げるものがみられた。以上より、学術及び社会における広域景観は、行政境界を越えたまとまり又は土地利用区分を越えて共通要素を持つ景観を指す。本研究では広域景観として、この二つの特徴を扱う。 第3章では対象地の概要を示し、以下各章の分析フレームを提示する。本研究が対象とする北海道は、古くから広域景観の形成を目標に掲げており、自主条例にて広域景観形成推進地域を定めるなど、積極的な取組みを行ってきた。また土地の境界線を越えた広域的な景観を資源と位置付け、同じ景観構成要素を持つ市町村が連携し、課題に対し取組む事を方針としている。そこで本研究では、特に行政境界や土地利用区分を越える広域景観を扱う目的から、道路や河川が境界線を越えて連続する札幌圏と、農業とその関連産業が景観構成要素として境界線を越え一体に広がる帯広圏を対象とする。以下各章では、行政境界を越えて連続する広域景観(第4章)、土地利用区分を越えて連続する広域景観(第5章)、行政境界と土地利用区分を越えて共通要素が広がる広域景観(第6章)に着目する。 第4章では、行政区域を越える広域景観に公共政策が与える影響について、主に国道36号線札幌・千歳間の沿道景観に着目して分析を行った。自治体ごとの景観に関する計画内容や土地利用規制の決定傾向の差異が、景観形成に与える影響を明らかにした。例えば各市の景観計画では、記述内容や項目設定の自由度が法定計画と任意計画の間で異なる。法定計画は、領域ごとに景観の方針が設定されているものの、規制内容は方針に対応せず一律であるため景観形成への効果は限られる。任意計画では、方針に沿った事業展開がみられるものの、運用の継続性が担保されておらず景観形成の効果が途切れる点がそれぞれ課題としてみられた。 第5章では、土地利用区分を越える広域景観に公共政策が与える影響について、主に森林・都市・農業地域を流下する恵庭市漁川の沿川景観に着目して分析を行った。土地利用区分ごとに策定される法定計画における景観の方針や取組みの差異が、景観形成に与える影響を明らかにした。例えば森林法に基づく森林整備計画では、森林に細区分を設けそれぞれに景観上の留意点が指摘されているが、民有林管理体制への反映は限られている。農業振興地域の整備に関する法律に基づく農業振興計画では、組織的な取組みに関する言及しかされていないものの、その取組みは景観作物の作付などを通じ景観形成に寄与していた。 第6章では、地域産業施策と景観施策の双方が広域景観に与える影響について、主に帯広都市圏の農業に関わる地域産業施設に着目して分析を行った。産業施設の立地時に関わる自治体ごとの企業誘致条例や業種ごとに異なる緑化基準の適用が、景観形成に与える影響を明らかにした。例えば、一般的に民間食品関連企業は企業誘致条例の対象となる事から、緑地整備義務のある工業団地内に立地する。更に製造業の場合、工場立地法に基づき敷地面積の20%以上を緑化する義務が適用されるため、産業施設を視覚的に遮蔽する植栽帯が整備され、周辺景観への圧迫感は軽減される。しかし農業協同組合の施設等は、周辺に遮蔽物が少ない市街化調整区域への立地傾向があり、緑化は開発許可制度に基づく敷地面積の3%以上という規定に留まるため、周辺景観に圧迫感を与えている実態が明らかになった。 以上を踏まえ結論では、広域景観の形成に公共政策が与える影響として、行政境界を越える場合と土地利用区分を越える場合について明らかにした。行政境界を越える広域景観の形成において、現状では市町村間の連携による取組みが限られている事から、景観形成を目的としていない施策の規制内容や決定範囲の変化が景観形成に影響している事が明らかになった。今後の行政境界を越えた連続的な景観整備に向けて、道路や河川等の広域景観を構成する要素に着目し、ガイドラインの運用や、特定の景観要素に対する取組みを促進する協議会の組織が有効と考えられる。次に土地利用区分を越える広域景観では、様々な景観構成要素を含んでいるものの、景観施策はこれらの要素に対し個別的対応となっている。また、土地利用区分を越えて一律的な施策が、圧迫感等の課題発生要因につながる事が明らかになった。今後の広域景観に関する議論では、景観形成を目的としていない施策も対象に含め、課題発生要因の改善を検討する必要性が示唆された。 最後に、本論文では公共政策という観点から広域景観への影響を議論したが、広域景観に影響する因子として自然条件(気候や地形、土壌など)や社会条件(産業構造や地域の慣習など)も挙げられる。これらを含めた広域景観への影響に関する包括的な議論が今後の課題である。
(主査) 教授 千歩 修, 教授 森 傑, 教授 瀬戸口 剛, 教授 坂井 文(東京都市大学)
工学院(空間性能システム専攻)
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受理日(W3CDTF)2018-04-03T03:53:09+09:00
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