並列タイトル等Development of a nozzle designing method using the response-function method for proton-beam spot-scanning therapy system
一般注記概要 陽子線には飛程の終端で線量が集中するブラッグピークと呼ばれる物理的特性がある。陽子線治療は、この特性を用いることで皮膚表面から一定の深さのところに線量を集中させ、ターゲットの腫瘍を効率的に治療し、正常組織の放射線損傷を減らすことができる。次世代のがん治療の切り札として期待されている。 第 1 章の序論では、研究の背景及び既存の研究における課題と本研究の目的について述べた。これまでの陽子線治療では、陽子ビームのブラッグピークを散乱体で広げ、ビーム進行方向はボーラスと呼ばれる補償器具を用い、ビームに垂直な平面に対してはコリメータを用いて、ターゲット腫瘍の形状に照射領域を合わせる散乱体照射法を行っていた。これに対し、陽子線を細いビームのまま用い、走査電磁石で X と Y 方向にスキャンし、ビームに垂直な平面内でスポットと呼ばれる多数の位置に走査して照射する、陽子線スポットスキャニング治療法が開発された。陽子ビームのエネルギーを変えることで深さ方向のレンジを変化させ、深さ方向もスキャンすることが可能であり、任意の 3 次元のターゲット形状に合わせて照射することができる優れた照射法である。スキャニング照射を実現するためには、ビームをスキャンする走査電磁石、ビーム形状や位置を正確に測定するための各種のモニター機器、途中の散乱を抑えるための He あるいは真空ダクト及びそれらの窓等、多数のコンポーネントが必要になる。このようなコンポーネントが設置されている部分を照射ノズルという。この照射ノズルに輸送される陽子ビームは、加速器から出射される際に既にある程度の広がりを持つとともに、ノズルに入ると各コンポーネント通過時に、多重散乱などによりさらにビーム径が広がっていく。最終的にターゲット腫瘍位置でのビーム径、ビームプロファイルがどうなるかによってターゲットの線量分布が変化するため、正確な治療計画の立案には照射ノズル通過時のビームプロファイルの変化を正確に予測することが非常に重要である。 第 2 章では、照射ノズルを通過した陽子ビームの平面方向の実測ビームプロファイルをガウス分布で近似、表現すると共に、モンテカルロシミュレーションを用いて線量実測値を再現することを試みた。まず、北海道大学病院陽子線治療センターにおいて気中測定で実測された陽子ビーム平面方向プロファイルを(アイソセンターを中心とした 4 点:アイソセンター位置から -150、0、75 、150 mm)、3 つのガウス分布(トリプル・ガウシアン)の重畳を用いてフィッティングした。一方、陽子線の輸送計算ができるモンテカルロシミュレーションコード(GEANT4) を用いて、ノズル内のすべてのコンポーネントを考慮した、実測と同じ条件でのシミュレーションを行った。この時、ノズル入り口での陽子ビームプロファイルを決める空間分布、角度分布のパラメータ (ビームパラメータ) が適切でないとビームプロファイルを再現できない。そこで、その初期のビームパラメータを変数とし、モンテカルロシミュレーションを多数回行い、その結果が測定値と一致するように最適化した。このようにして求めたビームプロファイルは、治療に使用するエネルギー帯全体において高い精度で測定値を再現することができた。このシミュレーションを用いた高精度な予測が可能になった結果、従来、多くの陽子エネルギー毎にビームプロファイルを実測する、いわゆるビームコミッショニングにおいて、少ない代表点エネルギーでの実測値とシミュレーションの結果を補間することにより、ビームプロファイルを精度良く予測、検証することが可能になった。 第 3 章では、ノズル中での陽子線の振る舞いを基本から理解するために、陽子線の散乱角度分布に着目した新しい解析方法を開発した。陽子ビームプロファイルを空間分布として捉えると、プロファイルは通過距離によって変化するが、各コンポーネントでの陽子線の散乱角度変化に着目すれば、それは距離によらず次のコンポーネントに引き継がれ、最終的な散乱角度分布は各コンポーネントの散乱角度分布の畳み込みとして表現できる。最初に、個々のコンポーネントに対して、角度分散の無い、空間的に一様な分布の陽子ビームを入れた時のコンポーネント通過時の散乱角度分布をモンテカルロ計算で求めた。計算結果の散乱角度分布をトリプル・ガウシアンでフィッティングして、対応するコンポーネントの散乱角度分布の応答関数とした。各コンポーネントの散乱角度分布に関する応答関数が求め、ノズルのように幾つかのコンポーネントを経た後の陽子ビームの散乱角度分布をそれぞれの応答関数の畳み込みで計算した。角度分布はコンポーネントの位置に寄らないため、コンポーネントの変更、入れ替えをしても、通過後や最終的なアイソセンターでの角度分布は簡単な計算で導出できる。また、フィッティングにトリプル・ガウシアン関数を用いて、ノズルコンポーネントの散乱角度分布成分を特徴づけることができるようにすると共に、フーリエ変換を用いて応答関数の畳み込みを簡略に計算できるようにした。この応答関数法を用いて照射ノズル通過時の陽子ビームの散乱角度分布の変化を解析し、多重散乱によるビームの広がりは主に平板電極を持った線量モニター、通過経路の空気層で発生すると共に、ワイヤー電極を持つスポットポジションモニターとプロファイルモニターにおいて、特徴的に大角度散乱が発生するということを解明した。 第 4 章の考察では、第3章の散乱角度分布のデータに対して陽子エネルギーとの関係を分析し、散乱角度分布の広がりは、陽子ビームの運動量と速度の積、pv、に反比例することを示した。これにより、全てのエネルギーに対してビームプロファイルの規格化が可能になり、エネルギーに寄らないユニバーサルな関係であることを示した。ii第 5 章の結論では、第 1 章から第 4 章までで得られた主要な知見をまとめて、本論文の陽子線スポットスキャニング治療システムにおける応答関数法を用いた照射ノズル設計技術の開発に対する総括とした。
(主査) 特任教授 古坂 道弘, 教授 梅垣 菊男, 准教授 松浦 妙子 (本学大学院医理工学院)
工学院(量子理工学専攻)
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受理日(W3CDTF)2018-06-04T01:14:06+09:00
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