並列タイトル等重症熱性血小板減少症候群ウイルス感染の疫学およびウイルス構造タンパク質の細胞内輸送における糖蛋白質の役割に関する研究
一般注記重症熱性血小板減少症候群ウイルス(SFTSV)は中国、日本、および韓国における人の重要な新興感染症の原因ウイルスで、ダニ媒介性のフェニュイウイルス科に属している。日本において、SFTSVは西日本において常在しており、フタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニなどのマダニがベクターとなっている。SFTSVゲノムはSFTSの発生のない地域でも検出されている。したがって、SFTSVが日本の野生動物の間で流行域が拡大しているかどうかを調べることは重要である。本論文は2つの章によって構成されている。第1章では、日本の様々な地域のシカやげっ歯類などの血清学的調査を実施した。SFTSの非流行地である北海道とSFTSの流行地である宮崎県から得られたシカの血清および、1997年から2009年の間に集められたげっ歯類の血清を検体に用いた。北海道のシカは一例も抗体を保有していなかったが(0%, 0/315)、宮崎では2例のシカが抗体を保有していた(4.9%, 2/41)。この抗体保有率の違いはSFTS患者の発生状況と一致していた。中国においてはげっ歯類から抗SFTS抗体が検出されているが、本研究においてはげっ歯類から抗体は検出されなかった(0%, 0/910)。したがって、SFTSVの伝播におけるげっ歯類の役割については未解明のままである。今後も日本においてSFTSVの流行状況を調べるために疫学調査が必要である。第2章では、SFTSVのL蛋白質(L)と核蛋白質(NP)の細胞内分泌経路への輸送に係る糖タンパク質(GP)の役割について解析を行った。ブニヤウイルス目のウイルスではウイルスの出芽がゴルジ装置の膜において起こることが知られている。最近ハンタウイルス科のウイルスにおいて小胞体‐ゴルジ中間領域(endoplasmic reticulum Golgi intermediate compartment: ERGIC)がウイルスの出芽において重要な部位であることが明らかになった。ウイルス粒子の産生にとって、ウイルスの構築が起こる細胞内器官に構造タンパク質が集積することは非常に重要である。しかし、これまでSFTSV構造タンパク質の各種細胞内器官における局在については明らかにされていなかった。本論文ではSFTSVの構造蛋白質の細胞内局在について、感染細胞と構造蛋白質を発現させた細胞において解析を行った。また、NPとLの各種細胞内器官への輸送におけるGPの役割についても解析を行った。GP、NP、およびLの小胞体(endoplasmic reticulum: ER)、ERGIC、およびゴルジ装置における局在について感染細胞をIFAにより解析を行ったところ、GPとLはER、ERGIC、およびゴルジ装置のいずれにも局在することが明らかになった。NPはERには局在が見られず、ERGIC、およびゴルジ装置に局在していた。構造蛋白質を単独で細胞内に発現させた場合、GPのみが細胞の分泌経路に輸送された。LはGPと共発現した場合にはERGICおよびゴルジ装置に輸送されたが、NPはGPと共発現させてもERGICおよびゴルジ装置に輸送されなかった。NPにヘマグルチニン(HA)タグを付加させて感染細胞で発現させたところ、HA付加NPはERGICおよびゴルジ装置に局在した。したがって、NPの出芽部位への輸送にはさらに別の因子が必要であることが示唆された。NPのERGICやゴルジ装置への輸送に関与するウイルスの因子についてさらなる解析が必要である。ERGICやゴルジ装置のSFTSVのウイルス粒子産生における役割についても今後明らかにすることが重要である。本研究で得られた知見はSFTSVの複製を理解する上で有用であるとともに、ウイルスの阻害剤を開発する上での基礎的情報を提供するものである。
(主査) 教授 苅和 宏明, 教授 澤 洋文, 教授 迫田 義博, 准教授 好井 健太朗
獣医学研究科(獣医学専攻)
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受理日(W3CDTF)2018-06-04T01:14:06+09:00
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