一般注記【目的】人工呼吸器や経管栄養といった医療的ケアを必要としながら在宅で生活する重症心身障害児(以下,重症児)が増加しており,在宅医療の拡充が必要とされている.しかしながら,重症児に対する訪問歯科診療はまだ十分に普及していない.本研究では在宅重症児に対する訪問歯科診療の実態の周知と,保護者が在宅で行う口腔ケアについて検討することを目的とした【方法】研究I:平成27年4月から平成28年12月までの期間に医療法人稲生会生涯医療クリニックさっぽろにて訪問歯科診療を実施した在宅人工呼吸器を使用する重症児27名について,患者背景,口腔内状況,口腔機能,訪問歯科診療での対応について診療録より調査を行った.研究Ⅱ:重症児20名を対象とし,訪問歯科診療での自宅訪問中に保護者に口腔ケアを行わせ,口腔ケアによる唾液中細菌数の変化を調査した.口腔ケアの内容は2分問のブラッシングと,ガーゼを用いた口腔内全体の清拭とし,日常的にブラッシング中の吸引を実施している場合は吸引を行わせた.唾液の採取と細菌数の測定はブラッシング前,ブラッシング後,清拭後の計3回実施した.唾液の採取は口底部に貯留した唾液に滅菌綿棒を10秒問浸して行い,細菌数測定装置(細菌カウンタR,パナソニックヘルスケア株式会社)を用いて唾液中細菌数の測定を行った.また,全身状態(栄養方法,人工呼吸器の使用状況,気管切開の有無,持続吸引の有無,嚥下の有無)と唾液中細菌数の関連について検討するため,単変量解析ならびに重回帰分析を行った.【結果】研究I:対象者の平均年齢は4.7±4.0歳であり,歯石沈着や歯肉炎を有する児が多く,口腔機能不全を示す児が多かった.訪問歯科診療での対応は口腔清掃指導や摂食機能療法といった内容が中心であった.在宅人工呼吸器を使用する重症児においては歯科受診経験のない児や歯科受診を中断した児が多かったが,訪問歯科診療で継続的な口腔管理を行うことが可能であった.研究Ⅱ:唾液中細菌数はブラッシング前後では有意差を認めなかったが,清拭後には有意に減少した.ブラッシング中の吸引の有無とブラッシング前後の唾液中細菌数の増減には有意な関連は認められなかった.唾液中細菌数は単変量解析では「人工呼吸器の使用状況」,「気管切開の有無J,「癒下の有無」,と有意な関連を示し,重回帰分析では「嚥下の有無」のみを独立変数とする有意な回帰式が得られた.【結論】訪問歯科診療は,通院が困難な重症児の歯科受診手段として有効である可能性が示唆された.重症児の保護者が在宅で行う口腔ケアにおいて,ブラッシング後の清拭は唾液中細菌数の減少に有効であった.嚥下を認めない児では唾液中細菌数が多く,清拭により唾液中細菌数を減少させる意義が大きいと考えられた.
(主査) 教授 八若 保孝, 教授 山崎 裕, 教授 北川 善政
歯学研究科(口腔医学専攻)
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受理日(W3CDTF)2018-07-03T21:49:10+09:00
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