一般注記【目的】急速な高齢化により生活習慣病や認知症などによる要介護者が増加し,医療費の増加や介護施設不足といった問題は,深刻な社会問題になっている.したがって,要介護者を減らし健康寿命を延ばすことが極めて重要である.摂食嚥下機能の維持・向上は,健全な経口摂取を保ちかつ栄養状態を向上させるという点で,健康寿命を延伸させる重要な因子である.今回の調査では,自立前期高齢者の摂食嚥下機能を聖隷式嚥下質問紙で調査し,嚥下機能検査,フレイルとの関連を検討した.【対象と方法】対象は埼玉県嵐山町の前期高齢者283 名(男性121 名,女性162 名)で,平均年齢は69.6 歳であった.なお, 本研究では舌圧測定のため総義歯および前歯部が欠損している部分床義歯31 名(男性14 名, 女性17 名)は対象から除外している. 嚥下障害の有無は,聖隷式嚥下質問紙の15 の嚥下に関する質問に対し,1 項目でも 「しばしば」,「たいへん」等の重い症状と答えた者を嚥下障害疑いあり群(障害群)とし,その他を嚥下障害疑いなし群(健常群)とした.嚥下機能検査として咀嚼能力,舌圧,Repetitive Saliva Swallowing Test(以下RSST),水飲み試験,OralDiadochokinesis(以下OD)の5 項目を評価した.被験者には事前に聖隷式嚥下質問紙を配布し,調査当日に咀嚼能力を除く4 項目を測定した.咀嚼能力は三浦らの咀嚼能力チェックリストを用いてスコア化(0~18)した.口腔内診査として現在歯数,口腔乾燥,義歯の有無,咬合支持域を調査した.その上で,聖隷式嚥下質問紙による障害群と健常群における嚥下機能検査および口腔内診査の各項目との関連を検討した.さらに,この2 群とフレイルとの関連を評価した.フレイルの分類にはShimada らの基準を使用した.嚥下障害の有無とRSST,OD,最大舌圧,現在歯数との比較には分散検定を用いた.咀嚼能力の比較にはWilcoxon の順位和検定を使用した.また,年齢,性別,口腔乾燥,義歯の有無,水飲み試験,咬合支持域との関係についてはカイ二乗検定を使用した.【結果】聖隷式嚥下質問紙で被験者を選別した結果,健常群は91.9%(260 名),障害群8.1%(23 名)であった.嚥下機能との比較では障害群の方が健常群と比較し有意に咀嚼能力,舌圧が低かった.RSST,OD,水飲み試験,口腔内診査項目では健常群と障害群に有意な差は認められなかった.また,健常群と比較し障害群では有意にフレイルの割合が高かった.【結論】摂食嚥下機能を維持するためには咀嚼能力,舌圧の維持が必要であることが示唆された.また,健常群の方がフレイルの割合が有意に低く,摂食嚥下機能を維持することでフレイルを減少できる可能性が示唆された.
(主査) 教授 北川 善政, 教授 山崎 裕, 教授 鄭 漢忠
歯学研究科(口腔医学専攻)
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受理日(W3CDTF)2018-07-03T21:49:10+09:00
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