並列タイトル等バングラデシュ人民共和国の野犬におけるリーシュマニア感染に関する研究
一般注記内臓リーシュマニア症は、サシチョウバエによって媒介される公衆衛生上重要な寄生虫症である。地中海沿岸、中東、中央アジア、北アフリカなどの地域では、Leishmania infantumが人獣共通感染性の寄生虫種として、イヌが主要な自然宿主となっている。一方、インド、ネパール、バングラデシュを含むインド亜大陸では、Leishmania donovaniがヒトとサシチョウバエでのみ生活環を完結する寄生虫種として知られている。しかしながら、L. donovaniの自然感染環におけるイヌの役割は検討されてこなかった。わたしたちの研究グループは、予備調査においてバングラデシュ共和国の内臓リーシュマニア症流行地で捕獲した野犬の1頭の血液中からL. donovaniのDNAを検出した。このことから、同地域の内臓リーシュマニア症流行における野犬の役割を詳しく調査する必要性が提起された。また、バングラデシュ共和国では、野犬がヒトの生活圏で生息しており、リーシュマニア原虫以外の寄生虫がイヌを介してヒトに伝播する可能性も考えられた。本研究では、バングラデシュのマイメンシン地域の内臓リーシュマニア症が高度に流行する地域で計50頭の野犬を捕獲し、リーシュマニア感染の診断ならびに保有する寄生虫種の網羅的検出を試みた。第一章では、捕獲した野犬50頭について、リーシュマニア感染の血清診断とDNA診断を行った。リーシュマニア原虫のrK39抗原に対する抗体検査の結果、6頭(12%)のイヌで陽性反応が認められた。また、末梢血白血球層から抽出したDNAを材料にリーシュマニア原虫のミトコンドリア・ミニサークルDNAを標的としたリアルタイムPCRによる原虫DNAの検出を行ったところ、10頭(20%)のイヌで陽性反応が得られ、そのうち5頭からはInternal Transcribed Spacer(ITS)領域のPCR増幅が確認された。PCR産物のシーケンス解析により、得られた配列はバングラデシュ共和国の内臓リーシュマニア症患者から検出されたL. donovaniの配列と100%一致した。第二章では、上記50頭のうち、採血した血液量の豊富であった14頭のイヌを対象に、血漿中に遊離するセルフリーDNA(cfDNA)を網羅的に解析し、寄生虫由来DNAの検出を試みた。抽出したcfDNAを材料にIllumina MiSeqによるメタゲノム解析を行い、各サンプルあたり約2,300万配列を得た。イヌ由来配列を参照ゲノム配列へのマッピングにより除去した後、NCBI nt(non-redundant nucleotide sequences)データベースを用いて、BLASTnプログラムによる相同性検索を行った。その結果、寄生虫種の配列と高い相同性を示すリードが計150配列得られた。線虫類の配列は糸状虫の感染を示唆しており、それらの共生菌と考えられるヴォルバキアの配列も検出された。また、原虫類の検出結果はリーシュマニアとバベシアの感染を反映しており、赤血球内寄生性のバベシアではcfDNAの検出結果と血液を対象としたPCRによる原虫検出結果に一致が認められた。以上の結果、バングラデシュ共和国におけるL. donovaniの感染環の維持におけるイヌの役割が示唆された。今後、イヌ体内のリーシュマニア原虫のサシチョウバエへの伝播能を証明することにより、インド亜大陸に分布するL. donovaniの自然界における存続様式が明らかになることが期待される。一方、イヌ血中のcfDNAは、寄生虫感染を診断するバイオマーカーとして有用であることが示された。今後、寄生虫のゲノム情報がさらに蓄積されることにより、cfDNA解析法がより精度の高い寄生虫感染診断法に発展し、また、野犬が保有する寄生虫のヒトへの感染リスクを評価するツールとして利用されることが期待される。
(主査) 特任教授 片倉 賢, 特任教授 杉本 千尋, 教授 大橋 和彦, 准教授 中尾 亮
獣医学研究科(獣医学専攻)
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受理日(W3CDTF)2018-10-03T17:18:55+09:00
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