並列タイトル等Advanced Method of Seismic Vulnerability Functions of Wooden Buildings in Consideration of Regional Characteristic and Construction Year
一般注記大規模地震は様々な対策によって被害軽減を図ることが重要であり,効果的・効率的に軽減策を講じなければならない。このため自治体は被害軽減量を数値目標として定め,被害要因の分析を通じ効果的な対策を推進することが求められている。これまで自治体は,対策推進のため当該地域ごとに地震被害量の推定を行っているが,方法として全国一律の被害率関数を用いることが多かった。しかし被害は地域性が色濃く反映するものであり,特に木造建物は地域による構法の違いや建築年数の違いによる耐震性の差が大きく,これらを考慮した関数構築が求められる。本論文は,北海道を例に,木造建物群の高精度な被害率関数の構築方法として,地域性及び時代性を考慮した木造建物の耐震評点分布の推定と被害率関数の構築方法を提案するとともに,構築関数の精度向上のために地震発生後の被害調査結果を取り込んだ関数の更新方法について提案するものである。第1章「序論」では,既往研究の課題整理から地域性を考慮した建物群の被害率関数を構築する方法を検討した。第1の方法は,過去の地震被害資料をもとに関数を構築する方法であり,1995年兵庫県南部地震以降,同地震による関数が全国自治体で最も良く使われている。これは観測地震動と建物被害率を統計分布に当てはめる方法で,構築は容易であり,被災条件は付くものの仮定を持ち込まない事実データのみに依拠している点で信頼性は高い。その反面,必要となる資料が大規模被害を受けた自治体に限られ,関数は被災地の地域性を強く反映し,被災地以外においては本来,適用の可否について注意が必要となる。第2の方法は,復元力特性や周期など建物の振動応答モデルを設定し,地震応答解析に基づいて関数を構築する方法である。この場合,建物の周期特性や耐震性能分布など地域性を反映できる半面,建物モデル化の正否に加え計算に必要な設定条件が多いことが問題点として指摘できる。第3の方法は,個別建物の損傷度関数(個別建物保有の耐震性能,作用する地震動強さ,その結果としての損傷度の3変数の関係を関数化したもの)に木造建物群の耐震性能を指標化した耐震評点分布を適用して被害率関数を構築する方法である。地域の評点分布を用意できれば,構築が比較的に容易であり,地域性を反映できる。以上の検討の結果,本論文は第3の方法を応用発展させることで被害率関数を構築する。第2章「北海道の木造住宅の地震被害と耐震性能」では,過去における北海道の木造住宅被害の傾向および宅の耐震性能に関わる仕様を分析した。その結果,北海道は時代の経過と共に木造住宅の仕様が変化し耐震性が向上したことが推測され,その主な理由は断熱気密性の向上や施工性の向上を図るためではあるが,結果的に住宅の耐震性向上に影響を及ぼしているものが少なくないと結論づけられた。北海道における木造住宅の構造仕様の変遷から,仕様の経年変化が耐震性の向上に寄与している可能性があることを指摘し,北海道の住様式の地域性と時代性が当該地域の地震被害率に大きく関わることを確認した。第3章「地域性を考慮した耐震評点分布の推定と被害率関数の構築」では,個別建物の損傷度関数を基に,地域の耐震評点分布を考慮することで,木造建物群の被害率関数を構築する方法を提案した。具体的には北海道が実施した木造住宅の耐震診断結果を利用し,木造建物群の被害率関数を構築する方法を検討した。損傷度関数を2004年版の診断結果に適合するように,全国調査が行われている日本木造住宅耐震補強事業者協同組合(以降,木耐協と略称。)の診断結果を用いて見直した。次に道の診断結果をもとに建築年代別の評点分布を対数正規分布でモデル化を試みた。1971年以降は件数が十分にあるためモデル化が可能だが,1970年以前は十分ではない。このようにデータ数が不十分なケースは全国で想定されるため,全国平均である木耐協の診断結果を事前分布に仮定したベイズ更新から評点分布を推定する方法や,建築年代に近い時期に発生した地震の被害資料から損傷度関数を用いて評点分布を推定する方法を汎用的な方法として提案した。以上を適用し,北海道における木造建物の耐震評点の年代別分布を推定した。得られた評点分布は,1950年以前の建築年代で木耐協調査による全国平均とほぼ同じであること,当時の北海道の建物様式が本州仕様をそのまま持ち込んだことを意味する。一方,1960年以降では全国平均より平均値,標準偏差が大きく,北海道の工夫に富む多彩な建築構法の採用による耐震性能の多様性を関数に取り込むことができた。最終的に見直した損傷度関数と推定した年代別の耐震評点分布とから,北海道の木造建物群の被害率関数を構築した。中央防災会議が推奨する普通地(寒冷地を除く全国の地域)や極寒冷地(北海道)の関数と比較すると,構築関数は同一震度で被害率が低く,寒冷地の建物の耐震性がより高く評価され実態により即している。本提案方法により耐震性能の地域性が十分に評価できることを確認した。第4章「地震被害調査結果に基づいた被害率関数の更新」では,2018年9月に発生した北海道胆振東部地震の被害調査結果を利用して,3章で構築した被害率関数を更新する方法を検討した。まず胆振東部地震を対象に構築関数を用いて市町村単位の全半壊棟数を被害想定した。構築関数による推定被害棟数は,胆振東部地震の実被害に比べて1.6~1.7倍となった。なお中央防災会議による手法の実被害比は6.0~6.8倍であり,構築関数の精度はこのままでも本邦の標準関数に比較し高いことがわかる。次に将来的な関連被害データの蓄積を想定し,関数の更新方法を提案する。構築関数を胆振東部地震で得られた被害情報をもとにベイズ更新することで関数の精度向上を試みた。方法は,3章で構築した評点分布を事前分布とし,胆振東部地震の実被害をもとに推計した評点分布を尤度として利用したベイズ更新をすることで,胆振東部地震の被害情報を考慮した評点分布を作成する。胆振東部地震の評点分布を利用してベイズ更新した北海道の評点分布をもとに被害率関数を再構築し,全半壊棟数を再推定した。この結果,実被害との比が北海道全体で1.6~1.7倍から1.2~1.4倍に改良され,評価精度の向上が確認されると共に,将来的関数更新法の有効性も確認できた。第5章「結論」では,本論文の成果を総括すると共に今後の展望について述べた。以上の研究の結果,本論文では地域性及び時代性を考慮した木造建物群の地域被害率関数の構築方法および地震発生後の被害調査結果を取り込んだ関数の更新方法を提案し,北海道を事例として,地域性を考慮した被害率関数を構築することができた。
(主査) 特任教授 岡田 成幸, 教授 岡崎 太一郎, 教授 飯場 正紀
工学院(建築都市空間デザイン専攻)
コレクション(個別)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
受理日(W3CDTF)2019-06-03T12:31:31+09:00
連携機関・データベース国立国会図書館 : 国立国会図書館デジタルコレクション