並列タイトル等Development of Lead-Rubber Isolation Bearings with Improved Thermo-Dynamic Behavior
一般注記2003 年⼗勝沖地震,2011 年東北地⽅太平洋沖地震において⻑周期⻑時間地震動が観測され,免震層の固有周期に近い⻑周期成分を持つ地震動が⻑時間にわたり免震建物に⼊⼒される事象が現実に起きうることがわかってきた.このとき,免震装置は⼤きな変形を多数回繰返し受けることが考えられる.主要な免震装置の⼀つである鉛プラグ⼊り積層ゴム⽀承(Lead-Rubber Bearings: 以下LRB と称する)では,減衰材である鉛プラグがエネルギーを吸収することにより発熱し鉛プラグの温度上昇によりエネルギー吸収性能が低下することが懸念され,⻑周期⻑時間地震動への対応が求められるようになった.LRB のエネルギー吸収性能の低下を予測する⼿法としては,鉛プラグの温度と降伏応⼒度を関係づけたLRB の降伏荷重評価式を⽤いた熱⼒学連成挙動解析が有効である.⼀般的に降伏荷重評価式は,鉛プラグ温度が上昇するとLRB の降伏荷重が低下する関係にある.このことは,逆の⾒⽅をすると,繰り返し変形を受けるLRB の鉛プラグの温度上昇を抑制することができれば,エネルギー吸収性能の低下を抑えられることを意味する.本論⽂は,鉛プラグの温度上昇を抑制することにより,エネルギー吸収性能の低下を抑えた⾼耐久LRB を実現するための具体策とその効果を解明したものであり,全5 章で構成される.第1 章「序論」では,本研究の背景と⽬的について述べ,⻑周期⻑時間地震動により多数回繰り返し変形を受けるLRB の熱⼒学的挙動に関する既往の研究について分析し,課題を抽出した.また,課題を解決するための検討項⽬について整理し,それらの具体的な研究⼿法について説明した.第2章「⾼耐久LRB の開発」では,エネルギー吸収性能の低下を抑えた⾼耐久LRB として,LRB の内部鋼板の熱容量を⼤きくした⾼熱容量LRB,および鉛プラグを分散配置したマルチプラグLRB を新たに考案して製作し,加⼒実験を実施した.実験により,これら2種類の⾼耐久LRB はエネルギー吸収性能の低下を抑制する効果があることを検証した.この効果を解析的に評価するために,従来の積層ゴム中央に鉛プラグを配置したシングルプラグLRB に対しては⼆次元軸対称の有限差分法モデルを,本研究で提案したマルチプラグLRB に対しては三次元有限差分法モデルを⽤いた熱⼒学連成挙動解析を実施した.有限差分法(Finite Differential Method)により鉛プラグの発熱と周囲への放熱を考慮した熱⼒学連成挙動解析(以下FDM 解法と称する)の結果は実験結果をよく表現できていることから,解析的にも⾼耐久LRB はエネルギー吸収性能の低下を抑制する効果があることを確認した.また,地震応答解析から⾼耐久LRB は鉛プラグ温度上昇を抑制し,⻑周期⻑時間地震動に対する免震建物の応答特性を改善する効果があることを確認した.第3章「LRB の降伏荷重評価式の提案」では,エネルギー吸収性能を算出する際に⽤いるLRB の降伏荷重評価式を新たに提案した.既往の降伏荷重評価式は,積層ゴム(RubberBearings: 以下RB と称する)の⾮線形性の影響,⾼温時および低温時における降伏荷重と鉛プラグ温度の関係,加⼒速度の影響について⼗分に考慮されていない.加⼒条件によりLRBのエネルギー吸収性能を過⼩評価することが考えられたため,精度の⾼い降伏荷重評価式を新たに提案した.提案するLRB の降伏荷重評価式では,LRB の降伏荷重を鉛プラグの降伏荷重とRB の切⽚荷重の和であると定義し,鉛プラグの降伏荷重とRB の切⽚荷重をそれぞれ独⽴に評価することによりLRB の降伏荷重評価式を構築した.評価式の妥当性検証にあたり,FDM 解法に⽐べてより簡便にLRB の熱⼒学連成挙動解析が⾏える定熱流束解析⼿法(Constant Flux Solution: 以下CFS 解法と称する)を新たに導⼊した.実験結果とFDM解法およびCFS 解法による解析結果の三者を⽐較することにより,降伏荷重評価式の妥当性とCFS 解法の適⽤性を検証した.第4章「鉛プラグの分散配置による熱⼒学特性の改善効果」では,鉛プラグ径などの形状をパラメータとした実⼤サイズのシングルプラグLRB,マルチプラグLRB に対して繰り返し加⼒実験を⾏い,形状の違いがエネルギー吸収性能に与える影響について検討した.実験結果からマルチプラグLRB はシングルプラグLRB に⽐べて鉛プラグ温度の上昇を抑制し,エネルギー吸収性能の低下を抑える効果があり,鉛プラグの分散配置により⾼耐久化できることを検証した.複雑な形状であるマルチプラグLRB の熱⼒学連成挙動解析は,試験体内部温度の評価に三次元有限差分法モデルを⽤いる必要があり,そのことが⾼耐久LRB の普及の障害となっている.そこで,マルチプラグLRB の設計法を簡易にするために,CFS解法および⼆次元有限差分法モデルを⽤いた簡易評価法を提案した.有限差分法は,積層ゴムや周囲の構造などを忠実にモデル化することにより,マルチプラグLRB などの複雑な形状のLRB にも対応できる.⼀⽅,CFS 解法は熱の移動経路,拡散状態を仮定しているため,マルチプラグLRB へ適⽤するためには鉛プラグ間の熱的相互作⽤がないことを確認する必要がある.実⼤サイズのマルチプラグLRB に対する実験,鉛プラグ本数で分割した形状の分割試験体に対する実験,鉛プラグ間距離を意図的に短くした試験体に対する実験,および三次元有限差分法を⽤いた熱⼒学連成挙動解析結果から,繰り返し加⼒時において鉛プラグ間の熱的相互作⽤はほとんど⽣じていないことを確認した.鉛プラグ間の熱的相互作⽤がほとんど⽣じていないため,マルチプラグLRB は鉛プラグ本数で分割した形状と等価な形状のシングルプラグLRB として解析的に扱うことが可能であるとの着想から,マルチプラグLRB の熱⼒学連成挙動解析においてCFS 解法,および⼆次元軸対称モデルを⽤いた有限差分法の適⽤可能性を検証した.第5 章「結論」では,本論の成果をまとめた.
(主査) 教授 菊地 優, 特任教授 飯場 正紀, 教授 蟹江 俊仁
工学院(建築都市空間デザイン専攻)
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受理日(W3CDTF)2019-11-04T14:30:53+09:00
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