並列タイトル等Efficacy of periodically repeated rituximab administrations in children with refractory nephrotic syndrome
一般注記配架番号:2466
【背景と目的】小児特発性ネフローゼ症候群では、ステロイドや免疫抑制剤の投与にも関わらず再発のコントロールに難渋する症例が20〜30%程度存在し、それら薬剤の長期投与による副作用が問題となる。近年、抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブのネフローゼ症候群に対する再発抑制効果が明らかとなったが、適切な投与方の検討が現状の課題となっている。我々は半年毎の単回定期反復投与に後療法としてのミゾリビンパルス療法を加えたプロトコールを作成し、ステロイドおよびカルシニューリン阻害薬を主軸とした従来治療の代替え治療となりうるかを検討することとした。また、難治性ネフローゼ症候群に並存する長期ステロイド投与に伴う合併症を洗い出し、本プロトコールによるそれら改善についても検討を行うこととした。【対象と方法】本研究は多施設共同前向き観察研究で行った。対象はカルシニューリン阻害薬投与中あるいは減量・中止後にもステロイド依存性を示す難治性ネフローゼ症候群小児であることに加えて、以下の4つの条件のうち2つ以上を満たす症例を対象とした:①高度のステロイド依存性、②カルシニューリン阻害薬を含む2剤以上の免疫抑制剤使用の既往、③カルシニューリン阻害薬の使用歴が3年以上、④重度のステロイド副作用の合併。リツキシマブは375mg/m2(max 500mg)の単回投与を半年毎に計4回行い、後療法にミゾリビンパルス療法(1050mg/weekを2日に分割投与)を加えた。カルシニューリン阻害薬はリツキシマブ治療開始翌日から速やかに減量とし、1週間後に中止とした。プライマリーエンドポイントは無再発維持期間、非頻回再発/ステロイド依存性維持期間、リツキシマブ治療開始後の再発回数とし、セカンドエンドポイントは長期ステロイド投与に伴う副作用(低身長、肥満、低骨密度、耐糖能異常)の変化を評価した。その他、観察期間中の有害事象について評価を行った。【結果】22例を解析対象とし、21例がプロトコールを完遂、1例は高度ステロイド依存性を伴いリツキシマブ治療開始直後の再発を認めた症例であり、主治医の判断によりカルシニューリン阻害薬の中止を延期したためプロトコール逸脱症例とした。無再発率は、1年で50%、2年で46%であった。非頻回再発/ステロイド依存性維持率は、1年で91%、2年で86%であった。観察期間中に頻回再発/ステロイド依存性となった症例が1例、頻回再発となった症例が1例であったが、いずれの症例もリツキシマブ治療開始1年後から2年後の間はステロイドの中止が可能となり、頻回再発/ステロイステロイド依存性の経過ではなかった。再発頻度は5.8回/人・2年から1.0回/人・2年に有意に減少した(P<0.001)。ステロイド合併症に関しては、低身長・肥満・骨密度のいずれもリツキシマブ治療開始前に比して1年後も2年後も有意な改善がみられた。経時的には、リツキシマブ治療開始1年後から2年後にかけては有意な改善を認めなかったが、改善の傾向は続いた。耐糖能障害は経口ブドウ糖負荷試験での評価を行い、リツキシマブ治療開始前に1人が糖尿病、1人が糖尿病型、6人が境界型の診断であった。2年間のリツキシマブ治療後の評価においては糖尿病・糖尿病型は0人、境界型が5人であった。Infusion reactionは47%に認めたが、いずれも軽度であり、治療介入は要さなかった。有害事象として、無顆粒球症を1例、好中球減少を3例に認めた。いずれの症例も自然経過で回復し、好中球減少を反復した症例はなかった。その他、ステロイド離脱症候群を1例、アトピー性皮膚炎の増悪を3例に認めた。リツキシマブ投与後、一過性の心電図異常を3例に認めた。感染エピソードは0.57回/人・年あったが、入院加療を要したのはマイコプラズマ感染の1例のみであった。全例でリツキシマブ治療開始から2年後に抗リツキシマブ抗体を測定したが、抗体は1例も検出しなかった。免疫グロブリンGに関しては、1年後までは有意な低下を認めなかったが、2年後には有意な低下を認めた。各種予防接種に対する特異的ウイルス抗体価は2年後においても有意な低下を認めなかった。【考察】難治性ネフローゼ症候群に対する従来治療に対して、我々のプロトコールは、再発抑制・ステロイド副作用の改善という点で極めて有用であった。1週毎に合計4回のリツキシマブ投与を行なった無作為化比較対象試験では、1年無再発率が29%であったのに対して、本プロトコールでの1年無再発率は50%であった。また同報告では19ヶ月以内に全例が再発したが、本プロトコールでは2年無再発率も45%と明らかに良好な結果であった。B細胞枯渇中に再発する症例も、カルシニューリン阻害薬の再開は不要であり、リツキシマブの反復投与により長期的な病勢低下効果が得られる可能性が示唆された。また、一定期間の十分な再発抑制が得られたことにより、ステロイド合併症の有意な改善が得られた。その一方で、肥満・低骨密度・耐糖能異常に関しては改善に乏しい症例が存在し、ステロイド以外の関連因子への介入、合併症として問題となる前段階での予防も必要と考えられた。有害事象に関して、infusion reactionは軽度の反応のみであり、重篤な感染症も認めず、リツキシマブは安全に投与が可能であった。本研究の限界は、観察研究であり、比較対象がないことが挙げられる。また、一部症例に対して4回のリツキシマブ投与は過剰であった可能性があることが挙げられる。自然経過での病勢低下か、薬剤効果かは不明であるが、リツキシマブ1〜2回投与で10〜20%の症例が年単位の長期寛解維持を得られている報告もあり、本研究においても、リツキシマブ開始から再発なく経過できた症例に対しては、複数回のリツキシマブ投与は不要であった可能性がある。【結論】小児難治性ネフローゼ症候群に対するリツキシマブの再発抑制効果は極めて優れたものと考えられる。しかし、長期の安全性は確かではなく、種々の重篤な有害事象報告もなされており、使用に際しては依然注意を要する。病因に基づいたリツキシマブ投与を最大目標としつつ、患者背景や薬剤反応性などの臨床経過に基づいたより安全で適切な投与方法を今後も模索していかなければならない。
(主査) 教授 篠原 信雄, 教授 清水 伸一, 教授 久住 一郎, 教授 荒戸 照世
医学研究科(医学専攻)
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受理日(W3CDTF)2020-04-06T03:04:11+09:00
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