並列タイトル等Evaluation and Application of Horizontal Posture Based on the Distance between Center of Buoyancy and Center of Mass.
一般注記本論文は,換気量と浮力の変化を観察し,浮力,浮心位置,重心位置を定量化し,呼吸の観点から水平姿勢を評価する新たな手法を提案することを主目的とした.この主目的を達成するため,本論文は3つの基礎論文をもとに5つの章で構成された.序章では研究の背景と関連するこれまでの先行研究をまとめ,第1章では呼吸に伴う浮心重心間距離の定量化とけのびパフォーマンスとの関係,第2章では肩甲骨挙上と下制における浮心重心間距離と換気量の変化,第3章では呼吸に伴う上肢/下肢荷重比による身体水平度評価,終章では総括を述べた. 第1章では,呼吸に伴う浮力と浮心位置の変化を定量化するとともに,浮心と重心の位置関係(浮心重心間距離)がけのびパフォーマンスに及ぼす影響を検証した.浮心重心間距離が短いほど,姿勢は水平に近づくと考えられたため,仮説として,浮心重心間距離とけのび到達距離は負の相関関係になると設定した.男女の比較で,女性は男性と比べて浮心重心間距離が短かった.また,女性は男性より浮くために必要な空気を相対的に多く換気できることが明らかとなった.女性は,その骨格構造から肩甲・胸郭周囲の可動が男性よりも優位とされており,これらの働きが換気に影響を及ぼす可能性が示唆された.けのび到達距離に男女の違いは認められなかった.また,浮心重心間距離とけのび到達距離の間には,相関関係が認められなかった.けのびは,程度の差こそあれ,技術的要因や体力的要因の個人差が大きく,それらが浮心重心間距離の差を相殺したことが推察され,仮説を否定する結果となった. 第2章では,ストリームライン姿勢での肩甲骨挙上と下制の違いによる浮心重心間距離の変化を検討した.肩甲骨挙上によって浮心,重心共に頭方向へ移動するが,特に,重心の移動が浮心のそれよりも大きく,浮心重心間距離は短縮した.肩甲骨挙上は下制よりも,中性浮力時換気量が減少し,最大換気量は増加した.浮力は挙上時で増加した.肩甲骨を挙上させる肩関節の動きと連動して,胸郭が大きく開くことが観察された.同一対象者であれば,基本的に肺内の気量は同じと考えられるため,換気量の違いは残気量の違いによるものと考えられる.また,換気量が同じ場合でも,肩甲骨挙上は浮心と重心の位置関係が離れにくいことが明らかとなった.第1章で示唆された肩甲・胸郭周囲の可動の違いが換気量,浮力,浮心重心間距離に影響を及ぼすことが明らかとなった. 第3章では,呼吸に伴う手部と足部の荷重変化の比(Breathing-Balance ratio,BB ratio)を求めることで,浮心重心間距離により生じる身体の回転の度合いを評価するための新たな手法を検討した.BB ratioの評価では,技能習熟度が高いほど水平姿勢に近づくことが明らかとなった.水中での換気量は技能習熟度に違いはなかった.トルクの観点からみると,最大呼気では違いはないが,最大吸気では,技能習熟度が上がるほど下肢浮上に関与する手部トルクは増加し,下肢沈下に関与する足部トルクは減少して水平に近くなることが明らかとなり,BB ratioの結果と一致した.また,最も水平に近いエリート競泳選手では,最大呼気時に比べ最大吸気時で手部トルクが増加した.これは,吸気に伴い身体が浮き上がろうとするのを抑制しようと,手で水を水面方向へ抑えて反作用を得たためと推察された.手部トルクの増加により,下肢が引き上げられたため,エリート競泳選手はその他と比べて顕著な水平姿勢となることが示唆された.BB ratioにより無次元化した水平姿勢の評価は,身体的特徴の影響を除外して,呼吸に伴う泳者の姿勢の揺動を簡潔に提示できることが明らかとなった. 本研究の成果より,これまで明らかにされなかった換気量変化と泳者のストリームライン姿勢の関係について定量的な評価が可能であることが示された.また,換気量は同じであっても,浮力の働きかたに違いが生じ,その結果,水平姿勢に差異が生じることが明らかとなった.
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受理日(W3CDTF)2020-10-06T21:18:06+09:00
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