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博士論文
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マウス胚着床における脱落膜形成促進因子Gp130, ERp29およびCalreticulinの機能に関する研究
- 国立国会図書館永続的識別子
- info:ndljp/pid/12303833
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資料に関する注記
一般注記:
- 【研究背景】 哺乳類において体外受精や顕微授精等の技術を適応して作製した受精卵(胚)の産子への発育率は約20~60%と評価されている[Cha et al., 2012]。すなわち、 母体へ移植された胚の約40~80%は分娩に至らない。このことから,胚を作製するだけではなく、母体に対して妊娠に最適な環...
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書誌情報
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デジタル
- 資料種別
- 博士論文
- 著者・編者
- 並木, 貴文
- 著者標目
- 出版年月日等
- 2022-03-15
- 出版年(W3CDTF)
- 2022-03-15
- 並列タイトル等
- Investigations of the functions of Gp130, Erp29 and Calr in mouse uteri during embryonic implantation using conditional KO mouse models
- 授与機関名
- 麻布大学
- 授与年月日
- 2022-03-15
- 授与年月日(W3CDTF)
- 2022-03-15
- 報告番号
- 甲第82号
- 学位
- 博士(学術)
- 博論授与番号
- 甲第82号
- 本文の言語コード
- jpn
- 対象利用者
- 一般
- 一般注記
- 【研究背景】 哺乳類において体外受精や顕微授精等の技術を適応して作製した受精卵(胚)の産子への発育率は約20~60%と評価されている[Cha et al., 2012]。すなわち、 母体へ移植された胚の約40~80%は分娩に至らない。このことから,胚を作製するだけではなく、母体に対して妊娠に最適な環境を整えることで、早期胚死滅等を予防し、家畜および実験動物の効率的生産、さらにはヒト生殖補助技術の改善が期待できる。 マウスの妊娠は、卵巣由来の17βエストラジオール(E2)とプロゲステロン(P4)により緻密に制御され、膣栓確認日を妊娠1日目とすると、①妊娠4.5日目に胚着床、②妊娠5-6日目に脱落膜の形成(脱落膜化)、③妊娠8日目以降に胎盤形成が起きる。①-③に関わる子宮内の形態学的および生理学的変化、およびその変化に伴う分子機構を解明することは、さらなる産子生産率改善に重要である。【研究目的】 本研究では、子宮全体もしくは子宮上皮特異的な遺伝子改変マウスを用いて、胚の子宮上皮への接着から脱落膜の形成過程における分子機構を解明するために, interleukin 6 cytokine family signal transducer(IL6ST: Gp130)および小胞体タンパク質(ERp29およびCalr)の機能を調べた。第2章では、新たに作製報告されたP4受容体(Pgr)- internal ribosome entry site(IRES)-Creマウスの子宮特異的遺伝子欠損マウス作製のためのCreリコンビナーゼの発現パターンを確認した。また、第3章では、新規脱落膜化関連分子として小胞体タンパク質(Erp29およびCalr)に着目し、その役割を明らかとするために子宮特異的Erp29またはCalr遺伝子欠損マウス(PgriresCre/+; Erp29flox/flox: Erp29 cKO, PgriresCre/+; Calrflox/flox : Calr cKO)の作製および解析を行った。さらに第4章では、マウス胚着床に必須である白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor: LIF)の受容体の1つであるGp130に着目し、胚着床におけるLIFシグナルの詳細な機能を解明するために子宮上皮特異的Gp130遺伝子欠損マウス(Ltf iCre/+; Gp130flox/flox : Gp130 ecKO)を作製して解析を行った。【方法】第2章: 子宮特異的遺伝子欠損マウス作製におけるプロジェステロン受容体(Pgr)-ires-Creマウスの有用性の検討 PgriresCreマウスをレポーターマウス(Rosa26NLSLacZ )と交配させ, PgriresCre/+; Rosa26NLSLacZ/+マウスを作製した。PgriresCre/+; Rosa26NLSLacZ/+雌マウスの4, 8および12週齢の雌性生殖器(子宮、卵管および卵巣)、過剰排卵処置[ウマ絨毛性ゴナドトロピン(eCG)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)]後の0, 12, 24および48 hに雌性生殖器および妊娠1, 4, 5および8日目の子宮を採取し、β-gal染色を用いてCreの発現パターンを組織学的に解析した。さらに、本研究で用いているPgriresCreとは別系統であるPgrCreを用いた研究から胚着床不全となることが明らかにされたGp130およびStat3遺伝子のfloxedマウスをPgriresCreマウスと交配させ、PgriresCre/+; Gp130flox/flox(Gp130 cKO)およびPgriresCre/+; Stat3flox/flox(Stat3 cKO)を作製し、それぞれの8週齢以降の雌を性成熟した雄と交配させ、分娩および産子数を確認することで妊孕性を確認した。第3章: マウス胚着床・脱落膜化関連因子Erp29およびCalreticulinの子宮内膜細胞における分子機構の検討 マウス妊娠初期における子宮組織のErp29およびCalrのmRNA発現量、局在の変化を調べるために野生型の妊娠1, 4, 5,および8日目の子宮を採取し、real time PCR(qPCR)および免疫組織化学(IHC)を適用して確認した. さらに、Erp29およびCalrの子宮組織内における機能を検討するために、Erp29 cKOおよびCalr cKOマウスを交配して作製した。それぞれの雌は、第2章と同様に妊孕性を確認した。また、妊娠8および10日目の子宮を採取し、その組織標本を作製し、着床部位を観察した。さらにqPCRおよびIHCを用いて、脱落膜関連因子(BMP2およびWNT4等)のmRNA発現量および局在を調べた。第4章: マウス胚着床における子宮上皮Gp130の分子機構の検討 胚着床前(妊娠4日目)の子宮組織におけるGp130の局在をin situ hybridization(ISH)を用いて確認した。さらに、子宮上皮におけるGp130の機能を解析するために、交配によりGp130 ecKOマウスを作製し、第2章と同様に妊孕性および子宮の形態および組織学的観察を行った。さらに、胚着床前の妊娠4日目に、それぞれの血中ホルモン(E2およびP4)濃度の測定を行い、採取した子宮を用いて遺伝子発現と局在の変化をRNA-Seq, IHCおよびISHによって確認した。【結果】第2章: 子宮特異的遺伝子欠損マウス作製におけるプロジェステロン受容体(Pgr)-ires-Creマウスの有用性の検討 PgriresCre/+; Rosa26NLSLacZ/+雌マウスの4, 8および12週齢までのマウスの子宮組織では、管腔上皮、腺上皮、間質細胞および子宮筋層など、すべての主要な細胞でβ-galの発現が確認された。また、卵管においてもβ-gal活性が検出された。4および8週齢の雌マウスの卵巣内の黄体には、散在したβ-gal染色が認められた。eCGおよびhCGを投与後の 0, 12, 24および48 h後では12 h- 24 hにかけて、黄体でβ-gal染色が徐々に増加していた。また、妊娠初期の子宮におけるβ-galの発現は、妊娠1, 4および5日目では、子宮内膜(管腔上皮、腺上皮および間質)で発現が確認された。さらに妊娠8日目では、間質および脱落膜細胞にβ-galが発現することが確認された。 PgriresCre系統が子宮研究に有用であるかどうかを調べるために、Gp130 cKOおよびStat3 cKO妊孕性を確認した。平均産子数(average ± SEM)は、対照区では6.7 ± 0.6(Stat3f/f)、8.0 ± 0.5 (Gp130f/f)であったが、Stat3 cKOおよびGp130 cKO雌マウスは分娩に至らなかった。また、 Gp130 cKOマウスにおいても胚着床部位は観察されず、両系統とも妊娠5日目に子宮角から胚盤胞が回収されたことから、Stat3 cKOおよびGp130 cKO雌マウスは、胚着床不全を伴う不妊なっていることが明らかとなった。第3章: マウス胚着床・脱落膜化関連因子ERp29およびCalreticulinの子宮内膜細胞における分子機構の検討 qPCRおよびIHCの解析結果から、ERp29およびCalrのmRNA発現量、タンパク質の局在は胚着床後の妊娠5日目の子宮間質細胞にて増加していた。平均産子数(average ± SEM)は、対照区では7.5 ± 0.5(Erp29f/f)、7.4 ± 0.6(Calrf/f)であったが、1.5 ± 0.6(Erp29 cKO)、3.3 ± 1.4 (Calr cKO)となり対照区と比較して、それぞれのcKO区は、有意に平均産子数は減少した(P < 0.05)。また、妊娠8日目のERp29 cKOマウス子宮の一部では胚吸収が認められ、qPCRから胚着床関連因子(Hbegf)発現量が、対照区と比較して、Erp29 cKO区では有意に減少していた(P < 0.05)。 さらに、Erp29 cKO区の妊娠10日目の子宮では、対照区と比較して、細胞増殖マーカーであるMKI67陽性細胞が脱落膜および迷路部にて減少していた(P < 0.05)。 一方、WNT4陽性細胞は、Erp29 cKO区の迷路部で著しく増加していた(P < 0.05)。第4章: マウス胚着床における子宮上皮Gp130の分子機構の検討 ISHの観察結果から、Gp130は胚着床前の子宮胚着床前の腺上皮細胞で強く発現していることが明らかとなった。平均産子数は、対照区の7.2 ± 0.6(Gp130f/f)に対し、Gp130 ecKO区では産子を得られず、胚着床および胎盤形成は全く認められなかった(P < 0.05)。胚着床前の血中E2およびP4濃度は、両区に差は認められなかった。胚着床前の子宮のRNA-seq解析から、Gp130 ecKO区では対照区と比較して、E2受容体α(Esr1)、 E2応答遺伝子(Stat5a, Aqp8等)および上皮性細胞骨格構成因子(Krt8)の発現が有意に増加していた(P < 0.05)。一方で、P4応答遺伝子(Areg, Alox15等)およびサイトカインシグナル伝達抑制因子(Socs3)の発現量が減少傾向を示した(P < 0.1)。また、IHCの結果から、胚着床前の子宮において、Gp130 ecKO区では対照区と比較して、間質のERα陽性細胞数が増加していた(P < 0.05)。また、子宮上皮の比較では、Gp130 ecKO区において、リン酸化STAT3陽性細胞が認められなかったことから、LIFシグナルが伝達されていないことが確認できた。さらに、対照区では発現が認められた上皮間葉移行を促進するSNAI1陽性細胞数が著しく減少していた(P < 0.05)。一方で、Gp130 ecKO区では対照区と比較して、子宮上皮での KRT8の発現が強く認められた。また、細胞増殖マーカーであるMKI67陽性細胞は、子宮上皮では認められなかった。【考察】 本研究の子宮組織もしくは子宮上皮特異的な遺伝子改変マウスの解析結果から、子宮組織内のErp29およびCalrが胎盤形成時の妊娠維持に重要な役割を有すること、および子宮上皮のGp130が子宮組織でのE2およびP4応答因子の発現を調節し、Snai1の転写を促進することで胚着床を誘導することが明らかとなった。 子宮特異的な遺伝子欠損マウスの作製に用いたPgriresCreマウスでは、β-gal染色による子宮組織の観察結果から、従来のPgrCreと同様に雌性生殖器である子宮、卵管および卵巣にてCreが発現していると考えられた。また、先行研究のPgrCreと比較して、このPgriresCreマウスでは、卵巣内の黄体でのCre発現が極めて弱いため、より卵巣機能に影響を与えずに子宮での標的遺伝子の機能を明らかにできる可能性がある。さらに、PgriresCre系統では、従来のPgrCreと異なり、ホモ接合体の雄(PgriresCre/iresCre)で系統維持が可能である。これにより子宮特異的遺伝子欠損マウスを作製する際に目的の遺伝子の組合わせを得る機会が増えるため、ジェノタイピングや系統維持にかかる労力を軽減できる。一方で、非常に稀ではあるが、PgriresCre系統におけるCre活性は、雌性生殖器の組織だけでなく、視床下部や海馬などの脳の一部においても報告されたこと[Yang et al., 2013]から、脳においてもCreの発現依存的に遺伝子欠損が起こる可能性がある。そのため、PgriresCre系統を用いて作製された子宮組織特異的な遺伝子X欠損マウス(PgriresCre/+; Xflox/flox)の解析には、雌性生殖器に加えて、動物の行動等にも注意する必要がある。 Erp29 cKOマウスでは、産子数が著しく減少したことから、少なくとも子宮におけるErp29が、妊娠成立に重要な役割を持つことが初めて明らかにされた。LIFを介して発現するHBEGFは、その受容体に結合することで、cyclin D3やcyclooxygenase-2(COX-2)の発現を促進することで、脱落膜化を誘起する[Tan et al., 2004]。このことから、Erp29 cKO区では、Hbegf mRNA発現量が有意に減少したことから、胎子発育に必要となる脱落膜形成が不十分であった可能性が考えられた。さらに先行研究から過剰なWNT4の発現は、ステロイドホルモンの産生抑制や精巣では血管破壊が生じることが報告されている[Jordan et al., 2003]。そのため、妊娠10日目のErp29 cKO区の胎盤の迷路部において、過剰なWNT4が発現したことで、迷路部の血管が破壊されて、胎子の発育不全もしくは胚吸収が起きた可能性も考えられた。また、Calr cKOマウスの平均産子数は、Erp29 cKOマウス程ではないが、有意に減少した(P < 0.05)ことから、Calrが妊娠成立に関与する可能性が考えられた。また、最近の研究から、別の小胞体タンパク質(Erp57)が Erp29あるいはCalrと複合体を形成し、異常タンパク質のフォールディングに関わることが報告されている[Kozlov et al., 2017]。これらのことから他の小胞体タンパク質(Erp57およびErp29)が子宮組織でのCalrの機能を補った結果、Erp29 cKOで見られた産子数の著しい現象が起こらなかった可能性が考えられる。今後、小胞体タンパク質(Erp57)およびErp29もしくはCalr遺伝子を子宮で欠損したマウスを作製することで、子宮における新たな小胞体タンパク質の機能を明らかにできる可能性がある。 最近の研究では, 加齢マウス(46週齢以降)において子宮組織内での小胞体タンパク質のmRNA発現量の低下、産子数の減少および胎盤形成異常が起こることが示された[Minakshi et al., 2017; Woods et al., 2017]。本研究では老齢のErp29 もしくはCalr cKOマウスを用いた実験は行っていないが、今後若齢および老齢のErp29 もしくはCalr cKOマウスを比較することで加齢時の子宮における小胞体の機能も明らかになるかもしれない。 Gp130 ecKOマウスの解析から、胚着床における子宮上皮のLIFシグナルは、子宮間質のESR1の過剰な発現を抑制すると考えられた。LIFの発現はE2により誘導されるが、LIFシグナルは直接あるいは間接的に子宮上皮もしくは間質でのE2応答性を抑制し、P4応答性を促進する可能性が示唆された。さらに、Gp130 ecKO区において、Socs3 mRNA発現量が有意に減少した(P < 0.05)ことから、子宮上皮のLIFシグナルには、フィードバック調節機構が存在することも推察された。また、これまでの先行研究によるとGp130 cKOは、子宮上皮における細胞増殖の持続が胚着床不全の原因とされているが、本研究で用いたGp130 ecKOの結果は子宮上皮の細胞増殖が抑制されるだけではなく、子宮上皮のGp130を介したLIFシグナルによる子宮上皮の間葉系細胞への変化が胚着床の成立に重要である可能性を示している。 以上、本研究の結果から、マウスにおいてE2シグナルの下流に存在する子宮上皮のGp130が胚の子宮への接着に必須であること、およびP4シグナルの下流に存在するErp29が胎盤形成時の子宮の生理学的な変化に重要な役割を持つことが初めて明らかにされた。これらの知見は、胚移植を介した家畜や実験動物の効率的生産やヒト生殖補助技術の改善に貢献しうると考えられる。
- 国立国会図書館永続的識別子
- info:ndljp/pid/12303833
- コレクション(共通)
- コレクション(障害者向け資料:レベル1)
- コレクション(個別)
- 国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
- 収集根拠
- 博士論文(自動収集)
- 受理日(W3CDTF)
- 2022-07-05T02:30:21+09:00
- 作成日(W3CDTF)
- 2022-06-18
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