一般注記【背景】ACL損傷は男性に比べ女性に好発する重篤な外傷であり,特に思春期の傷害発生率が高くなっている.女子アスリートの下肢の傷害には神経筋コントロールの問題や精神的・遺伝的要因,骨の形態のような解剖学要因など多くが関与すると考えられ,これらの要素が複数合わさることで傷害のリスクを高めていると推察される.また,エストロゲンとプロゲステロンはACLにレセプターが存在し,濃度が高くなることで膝関節の弛緩性が増大することやリラキシン-2が6pg/mL以上の場合にACL損傷のリスクが4倍以上高いことが報告されている.【目的】月経周期の性ホルモン濃度と靭帯損傷リスク要因の関連を明らかにするため,1)月経周期と主観的コンディションの関連性,2)月経周期による関節弛緩性の検討,3)月経周期によるバランス能力の検討,4)性ホルモンの周期的変動と身体特性の関連性について検討した.さらに尿検査も同時に実施し,性ホルモンの検査について血液検査よりも侵襲性が低くより安全な尿検査での代替可能性についても検討した.【方法】月経周期を4期に分け測定を行った.周期的月経を有する成人女性を対象に,1)主観的コンディションについてのアンケート調査,2)全身関節弛緩性(GJL),膝前方弛緩性(AKL)の測定,3)Biodex StabilitySystem(BSS),modified Star Excursion Balance Test(mSEBT)の測定,4)看護師による採血,被験者自身の採尿で検体を採取した後,検査機関にて性ホルモン濃度の検出を行った.【結果・考察】1)月経期,黄体期は下腹部症状や水分代謝症状を自覚する人が多くみられた.2)関節弛緩性は周期間で有意差は認められなかった.3)動的バランス能力は周期間で有意差は認められなかった.しかし排卵期,黄体期にAKLが高値を示す場合,相対的に動的バランス能力が低下する可能性があると考えられる.4)血清,尿中のリラキシン濃度は相関関係を認めなかった.黄体期は性ホルモン濃度が上昇することで,相対的に動的バランス能力が高まる可能性がある.しかし,黄体期は主観的コンディションの不調や関節弛緩性が増大する傾向があり,複数の要素が重なることで傷害発生リスクを高める可能性がある時期ということを選手,指導者ともに共有していく必要がある.
2022年度
コレクション(個別)国立国会図書館デジタルコレクション > デジタル化資料 > 博士論文
受理日(W3CDTF)2023-05-05T22:12:34+09:00
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