並列タイトル等Response Displacement Suppression Method for Seismically Isolated Structures Using Velocity-dependent Multi-staged Oil Damper
一般注記近年,日本では海溝型巨大地震や内陸直下型地震で発生が予測される設計想定を超える大振幅地震動に対する免震構造の対応が求められている。大振幅地震動に対する免震構造の極限事象としては,免震層の応答変位の増大により最終的には上部建物が擁壁に衝突するか,免震部材が損傷(限界変形・限界速度・引張破断・座屈等)することが考えられる。これらの事象に対する対策としては,擁壁の衝突を許容する技術(高精度解析技術・衝撃緩衝材)と許容しない技術(フェイルセーフ・応答変位抑制・大変形免震部材)に大別できる。本研究は,設計想定を超える地震動に対する免震建築物の応答変位抑制法のオイルダンパーに着目し,従来のオイルダンパーの減衰力特性を実現しているバルブ機能(調圧弁)を改良するのみで可変減衰を容易に実現する,動作信頼性の高い,多段速度依存型可変減衰オイルダンパーに関する研究であり,設計領域の地震動から設計想定を超えるような長周期地震動,内陸直下型地震など多様な地震動に対して,上部構造の応答加速度を抑制することで免震効果を確保し,同時に大振幅地震動の領域においても免震層の変位を抑制することにより,擁壁(躯体)衝突を回避できる,応答変位抑制法を提案している。第 1 章「序論」では, まず, 本研究の背景と目的について述べた。この中で,過去に発生している地震と免震構造の取り巻く環境の変化と対応状況から,大振幅地震動に対する免震構造の対応の重要性と対策方法について概説し,オイルダンパーを増量した場合の応答変位抑制法における課題について示した。次に,オイルダンパーを利用した応答変位抑制法に関する既往の研究についてまとめた。最後に,本研究の主題である多段速度依存型可変減衰オイルダンパーの必要性と研究目的,研究手法の概略を示した。第 2 章の「免震用多段速度依存型可変減衰オイルダンパーの設計」では,免震・制振用オイルダンパーの原理・機構と特徴を整理し,設計コンセプトと本質的にオイルダンパーが持つ,速度依存性を利用して,新たに開発した専用調圧弁(バルブ機能の改良)で,振幅領域毎に減衰力を任意に設定し,広範囲な地震動レベルに対して免震性能を発揮できる,多段速度依存型可変減衰オイルダンパーを設計した。また,実機の試作機(最大減衰力:1200kN,最大速度:150cm/s)を設計・製作し,性能確認試験を行った。その結果,目標とした減衰力特性(F-V 特性)が得られ,低速・中速・高速の切替も計画通りであり,オイルダンパーの特徴である周波数依存性もほとんど見られなかったことから,本オイルダンパーは,設計領域の低速領域では低減衰となり,従来の免震構造と同等以上の性能を確保し,設計想定レベルを超える大振幅地震動の中・高速領域では高減衰に切り替わり,変位抑制が可能となる設計通りの減衰力特性が確保できると結論付けた。第 3 章の「時刻歴応答解析による応答変位抑制効果の検証」では,第 2 章で設計・製作し,試作機による性能確認試験と試験結果を踏まえ,ダンパーのモデル化を行い,15 階建て RC 造の基礎免震構造における時刻歴応答解析による抑制効果を検証した。その結果,本オイルダンパーを追加設置することで,大振幅地震動に対して,従来の免震構造に比較して,応答加速度,応答変位,応答層せん断力に低減効果が現れていることを確認した。また,標準的な設計用入力地震動においても,加速度応答の増加はみられず,既存のオイルダンパーよりも免震効果を発揮した。以上の検討結果より,本オイルダンパーは,設計領域では従来の免震構造と同等以上の性能を確保し,設計想定レベルを超える大振幅地震動においても変位抑制が可能であり,広範囲の入力地震動レベルに対して免震効果が確保できることを検証した。第 4 章の「オイルダンパーの繰り返し依存性を考慮した免震建物の地震応答性状」では,オイルダンパーの繰り返し依存性の特性評価に関する現状に鑑みて,OpenSees にオイルダンパーの繰り返し依存性を考慮した機能を新たに構築し,各免震部材の繰り返しによる性能変化を考慮した時刻歴応答解析について検討を行うことで,その有効性を示すとともに,オイルダンパーを採用する場合の詳細モデルによる検証法を提案した。検証法は,実機による加力試験より機種毎の減衰係数の変化率を設定し,精算法による温度上昇の推定法を利用し,温度上昇による等価粘性減衰係数の変化率から時刻歴応答解析において時々刻々と温度に応じて,減衰係数を変化させることで,繰り返し依存性を考慮する方法とした。また,15 階建て RC 造の基礎免震構造における時刻歴応答解析による繰り返し依存性による比較検討を行った結果,オイルダンパーの繰り返し依存性が免震性能に与える影響は,非常に小さいことを確認した。よって,繰り返し依存性がある支承材に多段速度依存型可変減衰オイルダンパーを追加設置することで,大振幅地震動に対しても,有効に作用し,設計領域では従来の免震効果を確保しつつ,大振幅地震動の領域で変位を抑制することにより擁壁衝突を回避する目標性能を確保することが可能である。なお,提案する解析法は,免震・制振用オイルダンパーに共通するもので,オイルダンパーを用いた様々な免震・制振システムに適応できる。以上の結果から,免震部材の繰り返し依存性を考慮した場合において,多段速度依存型可変減衰オイルダンパーが有効に作用すると結論付けた。第 5 章の「断層近傍の長周期パルス地震動に対する多段速度依存型可変減衰オイルダンパーの適用」では,2016 年の熊本地震の観測された震源近傍で長周期成分が卓越するパルス状の強い地震動(以下,長周期パルス)に対する多段速度依存型可変減衰オイルダンパーの適用について,本オイルダンパーと摩擦ダンパーを組み合わせた複合ダンパーを提案し,基本特性試験と試験結果を踏まえた時刻歴応答解析による効果を検証した。長周期パルス地震動は,免震構造にとって,非常に厳しい地震動となっており,応答変位や応答速度は,現在の免震部材の限界性能を超えるものとなる。そこで,本章では,その解決策として,オイルダンパーの応答速度が限界速度に達する荷重でパッシブに摩擦ダンパーに切り替わる複合ダンパーを提案した。縮小モデル(プロトタイプの住宅用免震)を用いた動的加力試験による基本特性試験結果では,本複合ダンパーは,設定荷重に対して,オイルダンパーから摩擦ダンパーに切り替えが可能であることを確認した。また,15 階建て RC 造の基礎免震構造における時刻歴応答解析による効果を検討した結果,本複合ダンパーは,大速度・大振幅領域においても限界速度以下で一定の免震効果が発揮できることを確認した。以上の検討結果より,本複合ダンパーは,断層近傍の長周期パルス地震動に対しても有効であると結論付けた。第 6 章「結論」では, 本論文の成果をまとめ, 今後の課題と展望について述べた。最後に,多段速度依存型可変減衰オイルダンパーは,設計領域の地震動から設計想定を超えるような大振幅地震動など多様な地震動に対して,上部構造の免震効果を確保しつつ,大振幅地震動の領域においても免震層の応答変位を抑制することができることを明らかにした。
(主査) 教授 菊地 優, 教授 蟹江 俊仁, 准教授 高井 伸雄
工学院(建築都市空間デザイン専攻)
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受理日(W3CDTF)2023-07-08T03:42:31+09:00
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