一般注記高周波電流は古くから電気メスとして軟組織の切開や止血などに応用され、根管治療では通常の機械的化学的拡大清掃が困難な部位への殺菌に用いられてきた。しかし、通電による生活歯髄、歯根膜、歯槽骨への影響ついての報告は少ない。本研究では、高周波電流を歯髄の蒸散、壊死に応用する目的で、生活歯髄に対して通電を行った際の歯髄や歯周組織への影響について組織学的検討を行った。10 ヶ月齢ビーグル犬の前臼歯を用い、通法にて髄腔開拡、上部根管形成行った後、根尖孔を穿通または未穿通とし、#10 または#20K ファイルを根管内に挿入して高周波電流の通電を行った。高周波電流は、周波数は 520 kHz、duty 70 %で、電圧は 150 V または 225V、通電時間は 0.2 秒または 1 秒、通電回数 1 回、通電時のファイル先端位置は、根尖、根尖から 1 mm 歯冠側、根尖から 2 mm 歯冠側、根尖から 4mm 歯冠側とした。通電直後または 1 週後に脱灰、薄切標本を作製して、主根管内、根尖分枝内、歯周組織の状態を組織学的に評価した。その結果、根尖孔の穿通や根管拡大は行わず、150 V または 225 V、ファイル先端位置を根尖から 1 mm または 2 mm 歯冠側で 1 秒通電した場合、主根管の歯髄は蒸散および壊死し、根尖分枝内も空洞化したり壊死したりした。また、歯根膜や歯槽骨にはほとんど傷害はなかった。しかし通電時間を 0.2 秒にしたり、ファイル先端の位置を根尖から 4 ㎜歯冠側にしたりすると、根尖分枝内に残存する歯髄が多くなった。また、ファイル先端位置を根尖として通電した場合、通電時間が 0.2 秒であっても歯根膜に強い炎症性細胞浸潤がみられ骨吸収も観察された。一方、根尖孔を穿通し#20 まで予備拡大(グライドパス)した後に、ファイル先端位置を根尖から 1 mm 歯冠側として 1 秒通電した場合、根尖分枝内に歯髄が残存するものが増加し、術後1週では歯根膜には穿通による機械的刺激やセメント質の破折片が原因と思われる炎症が認められた。これらの結果から、ファイル先端位置を根尖孔から 1~2 mm 歯冠側として 225 V の高周波電流を 1 秒通電することで、根尖孔の穿通や根管拡大を行わなくても歯周組織に障害なく主根管及び根尖分枝内の歯髄を蒸散、壊死させることが可能なことが明らかとなった。抜髄時に高周波電流を応用することは、とくに穿通や拡大形成が困難な症例では効果の高い治療法になる可能性が示唆された。
(主査) 教授 菅谷 勉, 教授 佐野 英彦, 教授 井上 哲
歯学院(口腔医学専攻)
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受理日(W3CDTF)2023-10-11T15:41:07+09:00
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