並列タイトル等ザンビアのバーベットモンキーからの新規ウイルスの同定と粒子形成機構の解析
一般注記近年、新興・再興感染症が世界各地で発生し、公衆衛生上の問題となっている。地球環境の変化や貿易のグローバル化などにより、ヒトと野生動物との接触が増加し、自然界に由来する微生物がヒトに伝播する機会が増えた結果、人獣共通感染症が多発している。ポリオーマウイルス(PyV)は小児期に無症候性に感染し、リンパ節などで初期増殖後、血行性に播種して諸臓器で持続感染する。その後、AIDSや臓器移植後などの免疫抑制状態において、PyVは再活性化して増殖し、BKウイルス腎症や進行性多巣性白質脳症などに代表される病気を惹起する。野生動物が保有するPyVがヒトに伝播し、ヒトにおいて感染症を惹起するか否かに関しては結論が出ておらず、PyVの生活環については未だ不明な点が多い。このことから、自然界における既知及び未知のPyVを調査することは重要と考えられる。本研究は、アフリカのザンビア共和国における霊長類動物のPyV感染状況を調査することを目的とした。第一章では、PCR法を用いてザンビア共和国の霊長類動物におけるPyVの感染状況を調査した。ザンビア野生動物保護局の許可の下、2009年にMfuwe地域のYellow baboon(YB)およびVervet monkey(VM)それぞれ50頭の脾臓・腎臓計200検体を採集し、各検体からDNAを抽出した。PyVの後期タンパク質であるVP1に対するbroad-spectrumPCR法を行い、PyV遺伝子断片を検出し、断片の塩基配列を解読した。その結果、200検体中7検体(3.5%)において、既存のPyVと相同性を有する遺伝子断片を確認した。これらPCR陽性7検体において、Inverse PCR法を用いてウイルスゲノム全長の単離を試み、5種類のPyVゲノム全長を単離した。系統学的解析の結果、4種類は既知のPyVであるAfrican green monkey PyVとSimian agent12に近縁であることが判明した。しかしながら、VMの脾臓検体から検出した1種類のPyVは、Chimpanzee PyVと低い相同性(74%)を有することを確認したため、新規PyV、Vervet monkey PyV1(VmPyV1)として報告した。また、既知のPyV とのアライメントの結果から、VmPyV1はVP1が既知のPyVと異なり、C末端側に約150アミノ酸残基付加されていることが明らかになった。第二章では、新規PyVとして同定したVmPyV1に着目し、詳細な解析を実施した。VmPyV1ゲノム全長を培養細胞に導入し、ウイルスタンパク質の産生を確認した。RT-PCR法により前期タンパク質であるTAg、及びVP1のmRNAを確認し、免疫蛍光抗体法、ウエスタンブロット法にてVP1が発現することを確認した。次に、VmPyV1の粒子形成におけるVP1の影響を、培養細胞を用いたウイルス様粒子(VLP)産生系を用いて、電子顕微鏡下で確認した。また、野生型(WT)のVLPだけでなく、C末端領域を欠失させた変異体(△C)のVLPも同様に作製し、両者間におけるVLPの形態学的相違等を比較した。その結果、WT、△C両者において直径約50nmのVLPの形成を培養細胞の核内に認めた。両者間におけるVLPの大きさ、形態に違いは認めなかったが、WTのVLP数は△Cと比較して顕著に多く、C末端領域は粒子形成効率に関与することが示唆された。本研究では、ザンビア共和国における霊長類動物のPyV 感染状況を調査した。その結果、計200検体のうち7検体(脾臓5検体、腎臓2検体)(3.5%)からPyVゲノムを検出した。また、VMから新規PyVとしてVmPyV1を同定した。さらに、新規VmPyV1のVLPを作製し、VP1のC末端領域が、粒子形成効率に関与していることを明らかにした。今後も、PyVのヒト-動物間伝播についての情報を収集する為、サーベイランスを継続することが必要である。
(主査) 教授 澤 洋文, 教授 高田 礼人, 教授 東 秀明, 教授 木村 享史
獣医学研究科(獣医学専攻)
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受理日(W3CDTF)2015-02-03T05:25:05+09:00
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