一般注記安全な歯科診療を行うには,侵襲の軽減と生体反応のモニタリングが重要である.しかし,障害者に対して歯科診療を行う場合,診療中の精神的,身体的侵襲を客観的に評価することが困難なことがある.また,体動や筋緊張の亢進により,血圧や経皮的動脈血酸素飽和度の測定など歯科で一般的に行われるモニタリングが行えないこともある.本研究は,障害者の歯科診療中に心拍変動解析を用いた自律神経機能の評価が可能であるか確認すること,ならびに歯科診療が自律神経機能に及ぼす影響を評価することを目的とした. 自律神経機能の評価には,心拍変動解析を用いた自律神経機能モニターシステムを使用した.このモニターシステムは,健常な成人を対象に開発されており,不協力な小児や障害者などの診療中に体動が起こりうる患者や身体抑制下での使用は想定されていなかった.そこで,研究Ⅰとして,ボランティアを対象に,体動下および身体抑制下における電極装着方法について検討を行った.そして,研究Ⅱとして,実際の障害者の歯科診療中に研究Ⅰで検討した方法を用いて自律神経機能の評価を行った. 研究Ⅰ: 成人(9 名)を対象に,電極装着方法を 6 種類設定し,体動タスクを 5 種類行わせた状態,レストレーナー®を用いて身体抑制した状態で自律神経機能の評価を行った.また,小児(7名)を対象に,レストレーナー®を用いて身体抑制した状態で自律神経機能の評価を行った.それぞれ電極装着方法の違いによる自律神経機能の評価可能な時間の割合について検討を行った.また,不協力な小児患者2名の実際の歯科診療中に自律神経機能の評価を行い,自律神経機能と心拍数の相関関係を求めた. 研究Ⅱ: 重症心身障害者 17 名(男性 6 名,女性 11 名),平均年齢 20.5±5.3 歳を対象に,歯科診療中の自律神経機能の評価を行った.歯科診療内容は①超音波スケーラーによるスケーリング,②歯ブラシによる口腔内清掃とし,各 10 名ずつ評価を行った.診療開始前,診療中および診療終了後の自律神経機能の評価可能な時間の割合,自律神経機能の各指標の平均値を求め,統計学的な評価を行った. その結果, 研究Ⅰでは,体動のある状態,身体抑制下において,シール型電極を体幹に貼付することで,自律神経機能の評価可能な時間の割合は大きかった.体動のある状態や身体抑制下でも,電極の種類や装着部位を工夫することで自律神経機能の評価が可能となることが示された.実際の不協力な小児患者の歯科診療中でも,自律神経機能の評価が可能であり,同じようにみえる拒否行動でも自律神経機能(LF/HF)の値には違いが認められた.研究Ⅱでは,重症心身障害者の歯科診療中においても自律神経機能の評価が可能であった.スケーリング中の LF/HF は診療開始前,終了後と比較し有意に高い値を示し,口腔内清掃中の LF/HF は診療開始前,終了後と比較して上昇する傾向がみられた.LF/HF はストレスとの関連が示されているため,歯科診療によりストレス負荷がかかったことが示唆された.
(主査) 教授 八若 保孝, 教授 舩橋 誠, 教授 藤澤 俊明
歯学研究科(口腔医学専攻)
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受理日(W3CDTF)2015-11-01T14:53:18+09:00
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