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政府は,CO2排出量を2000年以降,1990年レベルに固定することを世界に公約した.われわれは残された7~8年のうちに,この目標を達成しなければならない.そのために,経済政策的側面あるいは技術的な側面からの方策が考察されている.環境維持のための代表的な経済的政策としては,環境税の導入が考えられている.しかしそれには,世界で導入の足並みがそろうかどうか,また経済成長にマイナスの影響を与えずに効果的なCO2排出抑制を達成できるかどうかなど解かねばならない課題が山積みされている.経済政策だけに頼ってCO2の排出量を抑制することは,現実的とはいえない.そこで代替的技術や新技術の導入によってCO2を削減できないかどうか考察することが必要になる.その際に,第1に代替テクノロジーが,どれだけ効果的にCO2の排出を抑制できるか,第2にその技術を導入した場合に,余計に必要とされる原材料,設備などの負担が誘発するCO2の排出量はどれくらいか,をもれなく把握しておかなければならない.さもなければ,あまり効果のない技術でしかも,その導入に必要とされる素材が多ければ,結局のところ環境維持の効果としてはマイナスになってしまうからである.このような個々の新技術を採用する際の総合的な効果を評価するためには,産業連関分析によるのがもっとも包括的であり,またかつ有効な方法であるといえる.そこでわれわれにまずできることは,身近なところの新技術をひとつひとつチェックし,CO2排出抑制という目標に対して,地道な努力を積み重ねていくことであろう.本論は,このような観点から省エネルギー住宅をとりあげ,それが環境に及ぼす効果という個別的課題に取り組んでいる.われわれは,過去4年間をかけて「環境分析用産業連関表」の推計作業にたずさわってきた(文献[2],[3],[4]).その結果に基づけば、わが国のCO2排出量は10億200万CO2換算トン/年程度である.そのうち建設業によるCO2排出量は850万トンで,全排出量の0.84%と比較的小さな割合であり,建設業は環境問題ではあまり目立たない産業であるかのようである.しかし,振り返ってみると,建設業はすそ野の広い産業である.第1に,建設業では,セメントや金属製品などエネルギー集約度の高い(従ってCO2排出的な)製品が使われる.表1に建設業に対する主要インプット100万円当たりの生産から誘発されるCO2排出量(CO2換算kg)をまとめた.表の左端の全排出量中の順位で示されるとおり,ここであげた財のほとんどが誘発排出量のランキング上位3分の1の中に入っている.[表1]セメントの第1位をはじめ,生コンクリート,産業廃棄物処理(公営),熱間圧延鋼材などの順位が特に高い.また1985年のGNE100万円当たりの平均CO2排出量3,030kgと比べても,表1のインプット財による値は大きくなっている.平均値を下回るのは製材と合板だけである.さらに図1のように,環境問題の大きな柱である運輸活動については,砂利や廃土砂,機械,窯業・土石製品の運搬など,キロ・トンベースでもっとも輸送実績の多い項目が,建設業に関係している.このように建設業は,すそ野を考えてみると地球環境問題に大きく関連している.もっとも,建設業が経済の基盤をつくる産業であることは疑いない.また環境整備にも,省エネルギーや大気汚染防止などの投資活動にも建設業のあり方が重要な役割を果たすことは疑いない.したがって,建設業を縮小させるのではなく,“環境にやさしい”方向に体質改善させることが重要な課題であろう.[図1]この体質改善を考える上では,主として2つの方向性を考えるべきである.第1点は,建設活動自体から直接間接に生ずる環境汚染を減らす方向である.第2点は,建設業の生産物,つまり住宅やオフィス・ビルなどがいったん稼働したばあいに,いかに省エネルギーが達成できるか,いいかえれば,いかに“環境にやさしい”生産物を造るかという方向である.ここで取り上げる課題は,そのうち後者の課題に焦点が当てられる.省エネルギー住宅については,従来,大手プレハブ・メーカーやゼネコンによって,試案が示されてきた.しかし,一般にはあまり着目されてこなかった理由は,省エネルギー住宅が全体として,どのような効果を環境たもたらすかが,必ずしも明確ではなかったからであろう.すなわち,「たしかに,省エネ住宅を作ることはできる.しかし,その住宅をつくるために,おおくのエネルギーが必要とされ,結局,全体としての省エネ効果は,あやしいのではないか」という,疑問がぬぐわれなかった.本論文の目的は,このような疑問に答えることにある.そのために実験データにもとづいて,省エネルギー住宅の全体効果を数量的に示すことを試みた.省エネルギー住宅によって,電力,都市ガス,灯油などの家庭の経常的なエネルギー消費はおさえられ,1年当たりのCO2排出量は減少するであろう.他方,省エネルギー住宅にするためは,あらたに住宅の断熱性を改善する必要がある.これらの財に対するあらたな需要は,直接間接的なCO2排出増を誘発する効果を持つ.この排出増分を住宅の耐用年数で割り引き,経常的な排出減少分と比較すれば,省エネ住宅化がCO2の排出に及ぼす総合効果を評価できるであろう.