江戸幕府の法令集(一般)
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江戸時代の法は、江戸幕府が定めた「幕府法」のほか、各藩で大名が独自に定めた「藩法」があります。
江戸幕府評定所が編纂した「御触書」は、江戸幕府が編んだ官撰の法令集です。ただし、すべての法令を網羅したものではありません。江戸幕府の法令は部外者には秘密とされたものも多く、今日では失われてしまったものもあります。
ここでは、代表的な幕府法の法令集をご紹介します。「公事方御定書」など個別の法令については、リサーチ・ナビ「江戸幕府の法令集(個別の法令・法典)」を参照してください。
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1.御触書集成~江戸幕府の法令をまとめて見る~
1-1. 8代将軍吉宗から12代将軍家慶の代までの江戸幕府の御触書の集成
「御触書集成」は、江戸幕府評定所が編集した幕府の法令集です。8代将軍吉宗が寛保2(1742)年に「公事方御定書」を制定した後、評定所に元和元(1615)年以後の幕府法令の編集を命じ、延享元(1744)年に完成しました(寛保集成)。その後、10代家治による『宝暦集成』、11代家斉による『天明集成』、12代家慶による『天保集成』が作られています。
以下の翻刻版が出版されています(石井良助「御触書集成」『国史大事典』を参照)。
- 寛保集成(収録期間:慶長20(1615)年~寛保3(1743)年)
『御触書寛保集成』岩波書店 1958 2刷 【322.15-Ta452o2】) - 宝暦集成(寛保4(1744)年~宝暦10(1760)年)
『御触書宝暦集成』(岩波書店 1958 2刷 【322.15-Ta452o3】) - 天明集成(宝暦10(1760)年~天明7(1787)年)
『御触書天明集成』(岩波書店 1958 2刷 【322.15-Ta452o4】) - 天保集成(天明8(1788)年~天保8(1837)年)
『御触書天保集成』上、下(岩波書店 1958 2刷 【322.15-Ta452o5】)
目録・索引として以下の資料があります。
- 『御触書集成目録』(岩波書店 2002)
上(事項目録) 【AZ-145-H4】
下(編年目録) 【AZ-145-H5】
解題 【AZ-145-H6】 - 『御觸書集成編年索引』上巻、下巻(ゆまに書房 1997 【AZ-145-G20】)
その他関連資料・参考資料の例として以下があります。
- 『近世農政史料集』第1(江戸幕府法令 上)、第2(江戸幕府法令 下)(オンデマンド版 吉川弘文館 2013 【DM14-L13】【DM14-L14】)
※原版(1966年・1968年刊行):第1 (江戸幕府法令 上)、第2(江戸幕府法令 下)【612.1-Ko484k3】
江戸幕府の農政に関する法令を、「徳川禁令考」「御触書集成」等から収録しています。
1-2. 天保以降の御触書の集成・編纂(天保8(1837)年~明治元(1868)年)
- 『幕末御触書集成』第1~6巻、別巻(岩波書店 1992-1997 【AZ-145-E23】)
別巻には「解題」、「事項目録・編年目録」を収録しており、法令名から検索ができます。
2.「御触書」以外の代表的な法令集
明治以降に編纂された江戸時代の代表的な法令集を紹介します。
- 司法省大臣官房庶務課 編 ; 法制史学会 編 ; 石井良助 校訂『徳川禁令考』(創文社 1959-1961 【322.15-Si298t3-I】)
前集第1-第6、後集第1-第4、別巻。明治時代に司法省が編纂した法令集の復刻版。江戸幕府の法令を「法制禁令」(前集)と「刑律條例」(後集)に二分し、前集は、江戸時代の法制史料を広く引用・採録し分類しています。後集は、「公事方御定書」を整理・編纂した「科條類典」の全体を収録し、各条に関係資料を付記したほか、「御定書に添候例書」、「赦律」(およびその編纂史料)、「寛政刑典」の三資料を付加。別巻は、創文社が刊行した復刻版に付されたもので、「享保度法律類寄」、「棠蔭秘鑑(とういんひかん)」、「以上幷武家御扶持人例書」、「赦律」、「寛政刑典」、「刑典便覧」を収録したほか、前集および後集の編年索引を収録しています。 - 『近世法制史料叢書』第1-3(訂正版 創文社 1959 【322.15-I586k-(t)】)
第1巻
「御仕置裁許帳」:収録期間は明暦3(1657)年から元禄12(1699)年まで。裁判の先例となる事例を選定し、集成・分類した刑事判決録(判例集)。「三奉行裁許帳」とも呼びます。
「厳牆集(げんしょうしゅう)」:元禄7(1694)年から元禄11(1698)年頃に成立。対馬宗家の判決事例を選定し、抄録を集成・分類。
「元禄御法式」:「御仕置裁許帳」をもとに条文の形に編成。
第2巻
「御当家令条」:慶長2(1597)年から元禄9(1696)年までの幕府の法令を収録。「令条記」、「令叢」とも呼びます。
「律令要略」:幕府の判決の要旨を集成・編纂。寛保元(1741)年に成立。
第3巻
「武家厳制録」:慶長3(1598)年から元禄16(1703)年までの幕府の法令を集成・編纂。第3巻の巻末の附録に、「御当家令条」との対照表を掲載。
「庁政談」:評定所の御定書を元文2(1737)年に編纂したとされています。 - 『江戸町触集成』第1~22巻(塙書房 1994-2012 【AZ-145-E28】ほか)
正保5(1648)年から慶応4(1868)年までの江戸の町方の触書・法令、町年寄の布告等を集成。 - 『京都町触集成』第1~13巻 , 別巻1~3(岩波書店 1983-2017 【AZ-145-70】ほか)
京都の町に宛てて布達された、元禄5(1692)年から明治4(1871)年までの触書を集成、編年順に排列。 - 『内閣文庫所蔵史籍叢刊』(汲古書院 1982 【GB22-30】)
第19・第20「大成令」(影印版)
寛永年間(1624-1644)から寛保年間(1741-1744)までの幕府の諸法令を分類・編纂。私撰(民間・個人の編纂)の法令集。
第21~第27「教令類纂」(影印版)
初集は慶長年間(1596-1615)から正徳5(1715)年、二集は享保元(1716)年から天明6(1786)年までの幕府の諸法令を編纂。宮崎成身(みやざきせいしん)による私撰の法令集。
第28「憲法類集」(影印版)
天明7(1787)年から文政12(1829)年、続編は天保元(1830)年から嘉永7(1854)年までの幕府の諸法令を編纂。宮崎成身による私撰の法令集。
第37~第43「憲教類典」(影印版)
江戸時代初期から寛政年間(1789-1801)の幕府の諸法令を分類・編纂。近藤守重(重蔵)による私撰の法令集。
その他関連資料・参考資料の例として、以下があります。
- 『「徳川裁判事例」「徳川禁令考」編纂資料目録 : 法務図書館所蔵』(法務省法務図書館 2008 【A111-J11】)
- 『近世農政史料集』※前掲1-1参照
3.撰要類集
撰要類集とは、江戸町奉行で執務上使われた幕府の法令・先例の集成です。多くは散逸し、享保・明和・天明・天保等の撰要類集が現存するほかは、断巻のみが残っています。
内容細目(目録)は下記資料(1)で見ることができます。原本(古典籍)は、当館の「旧幕引継書」に含まれています。そのほか、「享保撰要類集」は、影印版(2)、翻刻版(3)が刊行されています。
- (1)『旧幕引継書目録』第3冊(文生書院 2001 【A111-G112】)
撰要類集細目 第1:旧幕引継書目録 ; 9(享保撰要類集)
撰要類集細目 第2:旧幕引継書目録 ; 10(明和撰要集,安永撰要類集)
撰要類集細目 第3:旧幕引継書目録 ; 11(天保撰要類集)
撰要類集細目 第4:旧幕引継書目録 ; 12(嘉永撰要類集,南撰要類集,七十冊物類集) - (2)『享保撰要類集 第1~第3巻』(旧幕府引継書影印叢刊1~3)(野上出版 1985-1986 【AZ-145-83】)
- (3)『近世法制史料叢書』第3、別篇(弘文堂 昭和16-19年 【749-93】)
別篇で「享保撰要類集」の一部を翻刻しています。 - (参考)『撰要類集』第1~3(続群書類従完成会 1967-1979 【322.15-Se188】)
町奉行大岡忠相の時代に成立した「撰要類集」(「享保撰要類集」の前身)の全7巻10冊のうち、最初の2巻4冊を収めた翻刻本です。
その他関連資料・参考資料の例として、以下があります。
- 『日本差別史関係資料集成』第10巻、第11巻(科学書院 2018 【EF96-L112】【EF96-L117】)
徳川期における平人の下層細民と賤民の実態、制度や政策等に関し、撰要類集の該当部分が収録されています。
参考文献
- 『岩波講座日本歴史 11 (近世3)』(岩波書店 1976 【GB71-60】)
松平義郎「近世法」 - 『国史大辞典 第2巻 (う~お)』(吉川弘文館 1980 【GB8-60】)
石井良助「御触書集成」 - 『日本古文書学講座 6 (近世編 1)』(雄山閣出版 1979 【GB39-19】)
村上直「江戸幕府文書 法令・布達」