日本-明治前期の法令の調べ方
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議会官庁資料室 作成
明治前期(大政奉還から公文式施行まで)の法令の調べ方についてご紹介します。なお、【 】内は当館請求記号です。
1. 明治前期の法令の概要
大政奉還から公文式(明治19年勅令第1号)制定までの間、法令の制定・公布に関する制度は整備されていませんでした。維新後の諸政改革に伴って非常に多くの法令が発出されましたが、法令の形式や相互の効力関係、法令の周知方法等は必ずしも明確ではありませんでした。
公文式によって法律、勅令、閣令、省令等の法形式や公布方法が定まり、法制度が一定程度整備されるまでの間、法形式(1-1)や法令の公布方法(1-2)がどのような変遷をたどっていったかを以下に簡単に記します。
1-1. 法令形式の変遷
- 被仰出被仰付御沙汰等諸法令ノ文例ヲ定ム 明治元年(慶応4年)8月13日 行政官(布)
明治政府が初めて法令の形式を定めたとされる布告。
「被仰出」「被仰下」「被仰付」「御沙汰」の文例使用を行政官に限ること等を定める。 - 太政官職制並ニ事務章程 明治4年7月29日 太政官
太政官発令に係る「布告」、諸省発令に係る「布達」との区別がなされる。 - 太政官職制並正院事務章程 明治6年5月2日 太政官(達)
立法事務の特権が正院(太政官)にあることが明示される。 - 布告達書結文例ヲ定ム 明治6年7月18日 太政官第254号(布)
法令文を結ぶ文型(結文例)が宛先別に定められる。「各省使布達類第二百五十四号布告ニ準シ結文ヲ区別セシム 明治6年8月28日 太政官(達)」とともに、「布告」「布達」「達」の区分がなされる。 - 各省事務章程廃止諸省事務章程通則制定 明治14年11月10日 太政官第94号達
諸省の卿が主管事務の法律規則の制定・改正等を行う場合の手続を定める。 - 法律規則ハ布告、従前諸省布達ハ太政官布達、官省一時ノ公布ハ告示ヲ以テ発行ス 明治14年12月3日 太政官第101号達
法律規則は布告で発行/布達(従前諸省が布達したもの)は太政官発行/告示(一時公布するに止まるもの)は太政官又は諸省が発行/達は従前どおり、と定める。
1-2. 法令公布方法の変遷
- 布告発令毎ニ三十日間便宜ノ地ニ掲示シ並ニ従来ノ高札ヲ取除カシム 明治6年2月24日 太政官第68号(布)
明治維新後、高札掲示の方法で公布されていたところ、これを「文書掲示の方法」へ変更する。 - 布告達類掲示方追達 明治6年3月5日 司法省第27号
掲示をすべき場所(地方裁判所又は県庁門前、戸長宅前)を定める。 - 府県ヘ布告到達ノ日限ヲ定メ三十日間掲示ノ後ハ一般知リ得タルモノト看做ス 明治6年6月14日 太政官第213号(布)
法令が府県に到達する日数を定め、その後30日間を掲示期間とする。 - 布告布達類該地到達ノ翌日ヨリ人民周知日数ヲ定ム 明治7年4月14日 太政官第48号達
文書掲示の方法から文書配布の方法へ変更する。 - 各庁達並告示ハ官報登載ヲ以テ公式トシ別ニ発付スルニ及ハス 明治16年5月22日 太政官第23号達
達・告示について官報へ登載する方法へ変更する。 - 布告布達官報ニ登載スルヲ公式トシ別ニ配布セス 明治18年12月28日 内閣第23号布達
布告・布達についても官報へ登載する方法へ変更する。
2. 明治前期の主な法令資料
明治前期には様々な資料に法令が採録されました。以下、主な法令収録資料を紹介します。
なお、この時期の法令収録資料を詳しく解説した資料に、松村光希子「明治初年法令資料目録」(『参考書誌研究』 (54) 2001.3 【Z21-291】)、国立国会図書館「日本法令索引明治前期編 出典資料解題」(2007.1 [2020.2.修正])、石井五郎「日本の法令集 おぼえ書」(『国立国会図書館月報』44-49,51-52号 1964.11-1965.4,6-7 【Z21-146】)があります。
また、この時期の法令について解説した資料に、岩谷十郎「明治太政官期法令の世界 日本法令索引明治前期編解説」(2007.1)、若松邦保「「法令全書」に漏れた太政官時代の法令」(『レファレンス』42(12) 1992.12 【Z22-554】)、「法令・制度等の変遷 法令形式」(『内閣制度七十年史』 記述編附, pp.221-222 【317.2-N2492n】)などがあります。
2-1. 日誌類
太政官ほか当時の諸省から多数の日誌が発行され、それぞれ所管の法令や公告等が掲載されました。
以下に挙げたもののほか、『民部省日誌』、『租税寮改正局日報・別報』、『地租改正事務局別報』、『文部省日誌』、『司法省日誌』、『開拓使日誌』、『江城日誌』※、『鎮台日誌』※、『鎮将府日誌』※、『東京府日誌』※※、『東京城日誌』※※があります。
(※は復刻版『太政官日誌 別巻1』(石井良助編 東京堂 1984)に、※※は『同 別巻2』(同)に収録されています。)
日誌類について詳しくは 松村 光希子「明治初年法令資料目録」(『参考書誌研究』 (54) 2001.3)のpp.3-11をご参照ください。
- 『太政官日誌』
法令の周知と政府の広報とを目的として慶応4年2月から明治10年にかけて刊行。
布告、布達、達、御沙汰、被仰出、定等の法令、叙任、辞令、職制のほか、戊辰戦争の戦況動向等が掲載される。
一般に『官報』の前身と言われるが、正式な法令公布機能は有しない。
京都版、東京版(【CZ-2-01a】、国立国会図書館デジタルコレクション)がある。
復刻版には、上記東京版をもとに作成された『太政官日誌』(石井良助編 東京堂 1980-85【CZ-2-13】)等がある。 - 『元老院日誌』
明治8年に設置された元老院の業務日誌で、公刊はされなかった。明治8年-18年。
元老院に係る勅書、命令書、職制章程、条例、規則、伺・指令、照会・回答等が掲載される。
当館所蔵は復刻版(『元老院日誌 国立公文書館蔵 第1-4巻』(三一書房 1981-82【GB631-44】))。 - 『内務省日誌』
明治6年に設置された内務省の公報。明治8年から11年まで刊行。
内務省の布達、達、各府県・警視庁等からの伺とこれに対する内務省の指令等が掲載される。
当館所蔵は索引(「府県伺(明治8年、明治9年)、「指令」)及び復刻版(『明治初期内務省日誌』(国書刊行会 1975)【AZ-333-10】)。 - 『外務省日誌』
明治初年の外務省の公報。明治3-4年頃刊行(創刊・終刊年月不詳)。
達、辞令、職員録、各国大使・行使書簡等が掲載される。
当館所蔵はマイクロフィルム(明治4年1-21号(7号欠)【YC-H16】)。 - 『外務省月誌』
外務省日誌に代わって編纂、公刊はされなかった。
布達、達、大使・領事等往復書簡、各国行使の請求等が掲載される。
当館所蔵はマイクロフィルム(明治5-6年【YC-H50】)。 - 『陸軍省日誌』
明治5年に設置された陸軍省の公報。明治5-16年刊行。
陸軍省に係る太政官布告・布達・達・指令、陸軍省の布達、達、陸軍省への伺とそれに対する指令等が掲載される。
当館所蔵はマイクロフィッシュ(明治10-12年 【特39-183】)及び復刻版(『近代史史料陸軍省日誌 第1-10巻』(東京堂 1988-89【AZ-663-E4】))。 - 『海軍省日誌』
明治9年から海軍省が編纂刊行した公報。明治9-15年刊行。
御達書、御沙汰書、海軍省甲布達・乙達・丙達、達書、伺・届書、伺・届等が掲載される。
当館所蔵は一部(【特47-154】、【Y994-L2715】のほか、復刻版(『海軍省日誌』(竜渓書舎 1989 【AZ-664-E28】))。
2-2. 編年体法令資料
制定順に法令を収録する編年体法令資料として、以下のものがあります。
- 『法令全書』
明治18年創刊。各年の法令を種別・法令番号順に収録する法令集。
慶応3年から明治17年分は遡及編集され、明治24年に完成。
明治前期の代表的な法令収録資料である。
配列は発令機関別であり、その中が法令種別に編纂されている。(ただし明治3年までは発令機関別はなく発令年月日順であり、慶応4年は「明治元年」とされ、明治4年までは法令番号がない。また、明治5年から法令番号が記載され始めるが、明治5-6年は布告や達を分けずに発令機関ごとに番号が付与されている。)
旧幕府が締結した条約は明治元年の附録として掲載されている。
慶応3-明治17年分にはイロハ別索引巻あり。
当館所蔵は国立国会図書館デジタルコレクションで公開しており、復刻版(『法令全書 第1-17巻、別巻』(原書房 1974-76)【CZ-4-8】)もあり。 - 『布告全書』
慶応3-明治18年の太政官布告を編年で編纂した法令集。『太政官布告書』『太政官布告全書』『太政官布告布達全書』『太政官布告布達告示全書』との題名変遷あり。
『法令全書』で省略されることが多い別紙や別冊が掲載されている。
当館所蔵はマイクロフィルム(【YC-H9】)ほか。 - 布達・達全書
諸省から所管の布達・達の法令集が作成されました。
・『太政官達全書』(『太政官達書』)
当館所蔵はマイクロフィルム(明治7-16年)【YC-H11】。
・『内務省布達全書』
当館所蔵はマイクロフィルム(明治7-18年)【YC-H17】ほか(明治9年上、明治10年上・下を国立国会図書館デジタルコレクションで公開)。
・『陸軍省達全書』
当館所蔵はマイクロフィルム(明治7-18年)【YC-H31】。
・『海軍省布達全書』
当館所蔵はマイクロフィルム(明治5-11年)【YC-H32】。
・『大蔵省布達全書』
当館所蔵は明治4-16年(国立国会図書館デジタルコレクション)。
・『文部省布達全書』
当館所蔵はマイクロフィルム(明治4-23年)【YC-H33】。
・『教部省布達全書』
当館所蔵はマイクロフィルム(明治5-8年)【YC-H34】。
・『司法省布達全書』
当館所蔵はマイクロフィルム(明治4-18年)【YC-H35】ほか(明治8年のみ国立国会図書館デジタルコレクションで公開)。
・『開拓使布令録』
当館所蔵は明治2-10年(国立国会図書館デジタルコレクション)。
2-3. 総合・事項別法令資料
近代法治国家の体制を速やかに整備するため、明治政府により種々の法令整理が行われ、以下のような総合法令集・事項別法令集が編纂されました。
- 『官途必携』
明治4年に太政官外史局が『太政官日誌』その他諸省記録から法令を事項別に整理・抄録した法令集。
当館所蔵はマイクロフィッシュ(国立国会図書館デジタルコレクション)。 - 『憲法類編』
明治6年に司法省明法寮が慶応3年10月-明治5年までの太政官布告、達、諸省布達、指令類等を事項別に整理した法令集。
「憲法」とあるが当時は「法令」という意味で用いられた。
明治7年には続編として第二憲法類編が作成。
当館所蔵は国立国会図書館デジタルコレクションで公開。 - 『法例彙纂』
明治8-10年にかけて、太政官吏官が(明治10年は記録掛)明治元-7年までの太政官布告、達、諸省布達、達、指令類等を編纂した法令集。
民法の部、商法の部、訴訟法の部、懲罰則の部から成る。
当館所蔵は国立国会図書館デジタルコレクションで公開。 - 『現行類聚法規』
明治11-24年にかけて、司法省が現行法令とその改廃経過とを明らかにすることを目的に編纂した法令集。
第1-12編まで刊行され、各編は現行の太政官布告、布達、達、諸省の布達、達を収録した「現行類聚法規」と、索引と法令沿革を収録した「沿革類聚法規目録」から成る。法令は20類に分類されている。
当館所蔵はマイクロフィッシュ(〔第1編〕・続編・第3-4編、第5-7編、第8-12編、沿革類聚法規目録(甲篇・乙篇・続編・第3-4編、第5-7編、第8-12編【YDM31143】)。 - 『法規分類大全』
明治22-24年にかけて、内閣記録局が慶応3-明治20年までの法令を分類別に編纂した法令集。
『太政類典』『公文類聚』『公文録』を元に、諸省への照会を経て作成。明治前期の法令を収録する代表的な分野別法令集である。
政体、官職、宮廷、儀制、族爵、賞恤、文書、外交、租税、財政、兵制、学政、衛生、警察、社寺、土地、運輸、民業、民法、訴訟、刑法、治罪の22門に分けられ、その下は大目、小目に分けられている。
未完であり、既刊の門にも未刊の目がある。
当館所蔵は国立国会図書館デジタルコレクションで公開、復刻版『法規分類大全』(原書房 1977-1981【CZ-3-15ほか】)もあり。
2-4. その他の記録史料
その他の記録史料として、以下のものがあります。
- 『公文録』
太政官が接受した明治元-18年の公文書を諸省別、年月別に編集した明治政府の基本公文原簿。
国立公文書館デジタルアーカイブで画像が公開されている。
当館所蔵はマイクロフィルム(【YC-H77】※)、『公文録目録 第1-7』(国立公文書館 1978-1983 【CZ-4-11】)。
※当館所蔵のマイクロフィルムは国立公文書館所蔵本を直接撮影したもので、国立公文書館のマイクロフィルムとはコマ数等が異なる。 - 『太政類典』
太政官記録課が『太政官日誌』『太政官日記』『公文録』等から典例条規(先例・法令等)を採録・編纂したもの(慶応3-明治14年)。
年代により5編に分かれ、それぞれは6類19門に分類される。別に雑部(鹿児島征討始末等 明治7-15年)、外編(地方之部 慶応4-明治11年)がある。
国立公文書館デジタルアーカイブで画像が公開されている。
当館所蔵はマイクロフィルム(【YC-15】)、『太政類典目録』(国立公文書館 1974-1977 【CZ-4-9】)。 - 『公文類聚』
明治15年に『太政類典』が改称されたもの(明治15-18年)で、典例条規を採録・浄書したもの。
なお、内閣制への移行に伴い、明治19年以降は内閣記録局が『公文類聚』(第10編~)として昭和29年まで編纂を続けたが、主として法律及び規則の原議書を収録したもの。
国立公文書館デジタルアーカイブで画像が公開されている(一部非公開あり)。
『公文類聚目録』(国立公文書館 1985-1999 【CZ-4-13、CZ-4-H156】)。
3. 明治前期の法令の調べ方 --日本法令索引 明治前期編 --
3-1. 日本法令索引 明治前期編とは
「日本法令索引 明治前期編」とは、明治前期の法令の索引情報を収録するデータベースです。出典資料が国立国会図書館デジタルコレクション又は国立公文書館デジタルアーカイブに搭載されている場合は、リンクにより法令本文を参照することができます。
慶応3年10月14日大政奉還から明治19年2月26日までの中央の国家機関の法令を採録対象としています。具体的には、『法令全書』に掲載された法令はすべて採録し、『法令全書』以外の資料からも補っています(出典資料は約70点)。
なお、同データベースにおいて「法令」とは、詔勅、布告、布達、達、沙汰、議定、決議、申達、通達、通知、 内訓、判決等、その種別を問わず、その内容に「法規性」が認められるものを指します。
採録法令数は約44,000件、このうち『法令全書』からの採録法令は約23,000件、『太政類典』『公文類聚』から採録した法令は約11,000件、その他の出典資料から採録した法令は約10,000件です。
同データベースの採録範囲、法令名や種別、発令主体、法令沿革と効力等、詳細な説明は「日本法令索引 明治前期編 凡例」を、出典資料の解説は「日本法令索引 明治前期編 出典資料解題」をご参照ください。
3-2. 日本法令索引 明治前期編の使い方
明治前期の法令を調べる場合、まず「日本法令索引 明治前期編」で検索してください。
法令名(ただし、当時の法令名は明確でないため、様々なキーワードを用いるようにしてください)、発令年月日(ただし、前後に余裕を持たせて設定してください)、出典資料、分類等から検索することが可能です。
検索結果に出典資料へのリンクがある場合は、法令本文を画面で参照することができます。
リンクが無い場合は、「出典」に記載されている資料を調べます。2.に主な法令収録資料を挙げています。また、出典資料一覧にある請求記号をもとに、当館で閲覧していただくことになります。マイクロフィルム資料については、原本所蔵館で原本(またはそれを撮影したマイクロフィルム)を閲覧できる可能性もありますので、原本所蔵館にお問い合わせください。
「日本法令索引明治前期編」の具体的な検索方法は、同データベース「使い方」をご参照ください。あるテーマに関する法令を一覧する、法令名から調べる、法令沿革をたどっていく等の調べ方が解説されています。