インドの聖典・叙事詩
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アジア情報室 作成
古代インドの文献の中には、インドの思想、哲学、宗教において重要な役割を果たし、今も聖典として重視されているものがあります。 ここでは、インド最古の文献「リグ・ヴェーダ」と、インドの二大叙事詩と称される「マハーバーラタ」および「ラーマーヤナ」の訳書、解説書をご紹介します。
【 】内は当館請求記号です。
1. ヴェーダ文献
ヴェーダは宗教的知識や聖典を意味する言葉です。バラモン教の根本聖典で、ヒンドゥー教でも権威が認められています。リグ・ヴェーダ、サーマ・ヴェーダ、ヤジュル・ヴェーダ、アタルヴァ・ヴェーダの4つのヴェーダがあり、中でも最も古く、最重要視されるのがリグ・ヴェーダです。
1-1. リグ・ヴェーダ
リグ・ヴェーダは紀元前15世紀から紀元前13世紀にかけて成立したとされ、全10巻からなる神々への讃歌集です。 インド・アーリア人の手になる最古の文献で、インド文化の根幹をなすものとして今日まで伝えられてきました。 2016年3月時点で、リグ・ヴェーダの日本語への完訳を収録した資料は出版されていません。
(訳書・解説書)
- Stephanie W. Jamison and Joel P. Brereton, trans, "The Rigveda : the earliest religious poetry of India"(Oxford University Press [2014] 【関西館請求記号: HB153-P14】)
リグ・ヴェーダの英語への完訳資料です。各讃歌の解説と訳が収録されており、巻末に、各讃歌と神の対応関係がまとめられています。 - 『世界古典文学全集. 第3巻 (ヴェーダ,アヴェスター)』(筑摩書房 1967 【908-Se12294】)(国立国会図書館デジタルコレクション:館内限定)
古代インド学者の辻直四郎によって、リグ・ヴェーダの讃歌の一部が日本語に訳されています。このほか、アタルヴァ・ヴェーダの讃歌の一部や、マハーバーラタの一部に位置づけられるバガヴァッド・ギーターの全ての訳が掲載されています。
2. 叙事詩
マハーバーラタとラーマーヤナはインドの二大叙事詩と称され、ヒンドゥー教における最も重要な聖典の一つとされています。現在でもインドでは愛読されており、中でもバガヴァッド・ギーターは絶大な人気を誇り、世界中で様々な言語に翻訳されています。
2-1. マハーバーラタ
マハーバーラタは、紀元前4世紀ごろから紀元後4世紀にかけて現在の形が成立したとみられる、全18巻約10万詩節からなる大叙事詩です。バラタ族の国の王族の確執と、それに伴う争いを描いています。
(訳書)
- 上村勝彦訳『マハーバーラタ: 原典訳』(第1-8巻 筑摩書房 2002-2005 【KN36-G11】ほか)
サンスクリット原典からの初の日本語完訳を目指して発行が始まりましたが、全11巻のうち第7巻の発行直前に著者が急逝し、未完となりました。第8巻は遺稿をまとめたもので、予定されていた全69章のうち49章までが収録されています。 - 池田運訳『マハバーラト』(第1-4巻 講談社出版サービスセンター 2006-2009 【KN36-H9】ほか)
ヒンディー訳版から重訳された、物語調の日本語訳です。マハーバーラタをマハバーラト、アルジュナをアルジュンとするなど、固有名詞について、日本で慣習的に使われてきた表記ではなく、実際の発音に基づいた表記を採用しています。
(解説書)
- 前川輝光『マハーバーラタの世界』(めこん 2006 【KN36-H8】)
第1部はマハーバーラタについての解説書となっており、数多くの登場人物についての考察がなされています。第2部は現代インドにおいて、マハーバーラタがどのような意味を持ち、またどのように扱われているかが紹介されています。
2-1-1. バガヴァッド・ギーター
バガヴァッド・ギーターはマハーバーラタの第6巻25章から42章の全18章からなる約700詩節を指し、マハーバーラタの中でも、最も重視されることの多い箇所です。王族同士での戦争に事態が発展する中、同族や師と争う状況に戦意を喪失した王子アルジュナと、アルジュナの戦車の御者で、ヴィシュヌ神の化身であるクリシュナの対話が描かれています。
(訳書)
- 鎧淳訳『バガヴァッド・ギーター』(講談社 2008 【KN36-J2】)
バガヴァッド・ギーターの全訳です。巻末に事項索引があり、神の名や人物名などの事項から、関連箇所を探すことができます。
(解説書)
- 赤松明彦『バガヴァッド・ギーター : 神に人の苦悩は理解できるのか?』(岩波書店 2008 【HB157-J5】)
前半でバガヴァッド・ギーターの成立とその周辺事情について、後半で作品内容を解説しています。後半では、著者の独自の見解のみならず、他の先行する研究者の見解も紹介しています。
2-2. ラーマーヤナ
ラーマーヤナは、第2巻から第6巻が紀元前5世紀から紀元前4世紀にかけて成立し、その後、紀元2世紀ごろに第1巻および第7巻が書き足されたとみられている、全7巻約2万4千詩節からなる大叙事詩です。コーサラ国の王子でヴィシュヌ神の化身であるラーマが、羅刹の王ラーヴァナを倒し王となるに至る過程を中心とする物語です。
(訳書)
- ヴァールミーキ [編著]; 中村了昭訳『新訳ラーマーヤナ』(1-7 平凡社 2012-2013 【KN36-J11】ほか)
サンスクリット原典からの初の日本語完訳です。原典に対応した7巻構成となっています。
(解説書)
- ラス・ビハリ・ボース・高田雄種『中村屋のボースが語るインド神話ラーマーヤナ』(書肆心水 2008 【KN36-J5】)
インドの独立運動家として有名なラス・ビハリ・ボースによるラーマーヤナの解説書です。ラーマーヤナの成立の背景と、各巻の概要がわかる資料となっています。
3. 総論・研究書
古代インドの聖典や叙事詩については現在でも研究が重ねられ、参考書や研究書が出版されています。古代インドの文献についての理解を深める一助となる資料をご紹介します。
- Knut A. Jacobsen (editor-in-chief), "Brill's encyclopedia of Hinduism" (Brill 2009-2015 【HR141-B31】)
ヒンドゥー教に関する総括的な百科事典で、第1巻から第5巻の本編と、索引の第6巻をあわせた全6巻からなります。ヒンドゥー教の神々や教義、儀式、宗教美術のほか、関連する歴史、ガンジーをはじめとする著名人、ヒンドゥー教をとりまく近年の問題など、幅広く扱っています。 オンライン版も提供されており、内容を見るには有料での購読が必要ですが、無料のキーワード検索で収録内容を確認することができます。 - A・A・マクドネル; 木村俊彦訳『サンスクリット文学史 : 古代インド宗教文献概説』(山喜房佛書林 2014 【KN36-L9】)
サンスクリットで書かれた文献についての研究書です。ヴェーダ文献や叙事詩についても、その成立年代や成立の背景、また、文献の内容についての考察などが行われています。 - 『南アジア研究』(日本南アジア学会 年刊 【Z8-3344】)
南アジアを対象とする学際学術誌で、古代インドの文献に関する研究を含め、幅広い研究成果が発表されています。 日本南アジア学会のホームページでも本文を読むことができます。 - 『インド哲学仏教学研究』(東京大学大学院人文社会系研究科インド哲学仏教学研究室 年刊 【Z9-B19】)
インド哲学および仏教学についての研究論文が収録されており、古代インドの文献についてもその対象としています。東京大学学術機関リポジトリでも本文を読むことができます。