<朝鮮語>『エネルギー転換と韓国ガス産業の現在と未来 : 天然ガス迂回(うかい)直輸入問題に対する実証分析』:アジア情報室の社会科学分野の新着資料紹介(2023年3月公開)

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アジア情報室 作成

김윤자[ほか] 지음『에너지전환과 한국 가스산업의 현재와 미래 : 천연가스 우회직수입 문제에 대한 실증분석(혁신더하기연구소 공공부문연구회분과 공공부문총서 ; 11)(エネルギー転換と韓国ガス産業の現在と未来 : 天然ガス迂回(うかい)直輸入問題に対する実証分析(革新プラス研究所公共部門研究会分科公共部門叢書 ; 11))』다돌책방, 2022.10【DL71-K21

キーワード

韓国、エネルギー、天然ガス

著者情報

本叢書を刊行している革新プラス研究所は2014年設立の政策研究所で、エネルギー・公共交通等の基幹産業や教育改革等、公共部門に関する研究を推進している団体である。

本書の責任著者であるキム・ユンジャは、革新プラス研究所理事長を務め、韓神大学校国際経済学科名誉教授である[1]

出版の背景・目的

本書は、エネルギー転換期を迎える韓国の天然ガス産業について、その発展の方向性を模索することを目的としたもので、韓国国内でこの分野を専門とする13名の研究者が集まり、8ヶ月余りにわたって行った共同研究の成果をまとめたものである。

序文のなかでキム・ユンジャは、気候変動対策やエネルギー安全保障を例に挙げ、これからのエネルギー問題における公共部門の役割の重要性を強調している。

その一方で、韓国の天然ガス産業に関しては、公共部門と民間部門の関係が争点となっている。韓国では従来、1983年に設立された政府出資の韓国ガス公社が、天然ガスの備蓄・供給義務と併せて輸入を独占的に担ってきた。しかし、2005年以降、自家消費用の天然ガスに限って民間企業に直輸入が開放され、その規模は拡大傾向にあるという。自家消費用天然ガス直輸入に関しては、この制度を利用した抜け道的な天然ガス取引が行われているとし、韓国ガス産業のエコシステムの公正性・効率性を脅かすものとして問題視する声がある。

本書収録の各論文は、こうした天然ガス輸入制度や韓国ガス公社に関する問題を中心に、韓国ガス産業とエネルギー転換に対して多角的に分析している。

本書のポイント

天然ガスは、化石燃料の中でも温室効果ガス排出量が比較的に少ないことから、脱炭素社会までの移行期におけるエネルギー源として注目されている。その一方で、脱炭素化等の大きな流れの中で開発投資が停滞するなど、兼ねてから需給ひっ迫の懸念も指摘されていた。

そのような状況で2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、それまでロシア産パイプラインガスを輸入していた欧州各国をロシア以外からの液化天然ガス(LNG)獲得に向かわせ、世界的なLNGの争奪戦を招くこととなった。日本政府も2022年12月、天然ガスを経済安全保障推進法に基づく特定重要物資に指定し、安定的な供給に向けた取り組みを進めているところである[2]

本書では、このように長期的にも短期的にも注目を集めている天然ガス産業について、日本と同様に多くの天然ガスを輸入している韓国[3]の現状と課題を把握することができる。

目次

序文 「公正」で効率的なガス産業のエコシステムのために
第1部 エネルギー転換と天然ガス産業
 第1章 韓国のエネルギー転換政策と天然ガス産業の展望
 第2章 エネルギー転換とセクターカップリング:水素の役割
第2部 韓国の天然ガス産業の現況と課題
 第1章 歴代政府のガス産業構造改編の過程と評価
 第2章 LNG直輸入と電力市場:問題点と対応方案
 第3章 民間企業の迂回導入・販売の現況と問題点
 第4章 ガス料金及び個別料金制の検討
 第5章 LNG直輸入と韓国の都市ガス産業
 第6章 迂回導入・販売に対する代案
 第7章 LNG迂回直輸入改善のための法的課題
第3部 エネルギー転換とガス産業公共部門のビジョン
 第1章 エネルギー転換時代の韓国ガス公社の経営方向:ESG経営を中心に
 第2章 韓国ガス公社の新産業展望
 第3章 エネルギー転換と公共部門従事者の役割
 第4章 転換期韓国LNG産業の展望と課題

関連する国立国会図書館刊行物収載の文献

「小特集 エネルギー価格高騰への対応(1)」『外国の立法 : 立法情報・翻訳・解説.』(月刊版. 294-1), 2023.2.
https://dl.ndl.go.jp/pid/12395154
「小特集 エネルギー価格高騰への対応(2)」『外国の立法 : 立法情報・翻訳・解説.』(月刊版. 294-2), 2023.1.
https://dl.ndl.go.jp/pid/12542905
渡邉太郎「ガスシステム改革の概要と論点 : ガス小売自由化の経緯を踏まえて」『調査と情報』(940), 2017.2.
https://dl.ndl.go.jp/pid/10300865
山口聡「石炭火力政策の国際動向」『調査と情報』(1210), 2023.1.
https://dl.ndl.go.jp/pid/12394710
山口聡「日本の石炭火力政策の動向」『調査と情報』(1207), 2022.11.
https://dl.ndl.go.jp/pid/12361633

(アジア情報課 河村真澄)


[1] その他の著者は以下のとおり。
チュ・ビョンギ:ソウル大学校経済学部教授・同大学校経済研究所分配正義研究センターセンター長
ホン・ヒョンウ:ソウル大学校経済研究所上級研究員
イ・ジウン:釜慶大学校経済学部助教授
チョン・ヒョク:中央大学校経済学部助教授
チョン・セウン:忠南大学校経商大学経済学科教授
キム・ゴンフェ:慶尚国立大学校経済学部教授
ソン・ジェド:全南大学校経営学部教授
ナ・ウォンジュン:慶北大学校経済通商学部教授
アン・ヒョンヒョ:大邱大学校一般社会教育課教授
キム・リン:仁荷大学校法学専門大学院教授
オ・ジョンソク:産業研究院副研究委員
キム・ジョンホ:釜慶大学校経済学部教授
パク・ギョンウォン:漢陽大学校(ERICA)経営学部副教授

[2] 「重要物資の安定的な供給の確保に関する制度」内閣府. https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/supply_chain.html外部サイト
天然ガスについては、経済産業省による取組方針が別途策定されている。
「可燃性天然ガスに係る安定供給確保を図るための取組方針」令和5年1月19日、経済産業省
https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/doc/meti_gas.pdf外部サイト

[3] アジア向け輸出が過半を占めていたLNGに限って言えば、2020年の世界貿易量の21%が日本向け、19%が中国向け、11%が韓国向けとなっている。
「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2022)」資源エネルギー庁, 2022, p.123. https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2022/pdf/外部サイト