<朝鮮語>『脱石炭の法政策学 : 三権の権限配分と転換的エネルギー法に対する法的含意』:アジア情報室の社会科学分野の新着資料紹介(2024年2月公開)

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アジア情報室 作成

박진영(パク・ジニョン) 지음『탈석탄의 법정책학 : 삼부의 권한배분과 전환적 에너지법에 대한 법적 함의(脱石炭の法政策学 : 三権の権限配分と転換的エネルギー法に対する法的含意)』 파주, 경인문화사, 2023.10 【AK4-411-K226

キーワード

韓国、脱石炭、エネルギー法

著者情報

著者のパク・ジニョンは、韓国法制研究院革新法制事業本部ESG法制チームの招請研究員である。

出版の背景・目的

本書は著者が2022年8月にソウル大学校大学院に提出した博士学位論文「気候危機に対応するための転換的エネルギー法に関する研究:主人―代理人理論を通じた脱炭素問題の解決と含意」を修正・補完したものである。

なお、博士学位論文はインターネット上でも公開されている[1]

本書のポイント

2015年に採択されたパリ協定後、EU、アメリカ、イギリス、日本[2]等の各国は2050年までのカーボンニュートラルを宣言し、その実現に向けた取組を進めている。韓国政府もまた、このような国際社会の流れに足並みを揃え、2020年7月にグリーンニューディール政策を発表し、同年10月には2050年カーボンニュートラル目標を宣言、2021年8月には従来の「低炭素グリーン成長基本法」に代えて「気候危機対応のための炭素中立(カーボンニュートラル)・グリーン成長基本法」を制定した[3]

こうしたカーボンニュートラルに向けた諸課題のなかで、温室効果ガス総排出量の約86%(2018年基準)を占めるエネルギー部門の改革は喫緊の問題であるが、エネルギー問題のもつ価値依存的な性質ゆえに法による解決の難しさもあると著者は指摘する。

本書前半ではまず、この分野と関連するエネルギー法の概念整理、環境法や気候変動法といった隣接分野との比較検討を通じて、エネルギー法という領域の輪郭を明らかにする。それと同時に、エネルギー法の具体的争点として、韓国の脱石炭問題を取り上げ、脱石炭政策の現行法上の根拠及び法律案の検討と、脱石炭の法的争点である財産権との関係等が論じられる。

後半では、脱石炭問題をめぐる複雑な利害関係、具体的には、気候危機対応という公益的性質や発電事業者の財産権の保障、地域経済や従事者の雇用への影響といった多様な論点の存在が、議会が法律の制定・改正を通じた問題解決を行えない「議会の空白」状況を生むとしたうえで、議会に代わる行政と司法の積極的な役割、三権の最適な関係性等について検討している。

目次

本書を刊行して
序文
第1章 序論
 第1節 研究の背景
 第2節 研究の内容及び構成
第2章 エネルギー法に関する議論の土台
 第1節 なぜ「エネルギー」なのか
 第2節 「法」を通じたエネルギー問題の解決
 第3節 「エネルギー法」の概念と批判
 第4節 小括
第3章 エネルギー法の争点:脱石炭問題
 第1節 問題の背景
 第2節 脱石炭の法的問題化
 第3節 海外事例の検討
 第4節 小括
第4章 脱石炭問題の解決のための三権の関係性の再定立
 第1節 分析の枠組みとしての主人―代理人理論
 第2節 行政府は主人なのか?代理人なのか?
 第3節 司法部は忠実な代理人なのか?
 第4節 脱石炭問題への適用
 第5節 小括
第5章 脱石炭問題の解決方案と含意
 第1節 微小粒子状物質規制を通じた解決方案
 第2節 炭素中立グリーン成長委員会を通じた解決方案
 第3節 脱石炭問題が提起する公法的含意
 第4節 エネルギー法の深化:「転換的エネルギー法」の形成
 第5節 小括
第6章 結論
 第1節 研究の要約及び意義
 第2節 研究の限界及び向後の展望
参考文献

関連する国立国会図書館刊行物収載の文献

山口聡「石炭火力政策の国際動向」『調査と情報』(1210), 2023.1., https://dl.ndl.go.jp/pid/12394710
山口聡「日本の石炭火力政策の動向」『調査と情報』(1207), 2022.11., https://dl.ndl.go.jp/pid/12361633
中村穂佳「韓国 韓国の気候変動対策に関する立法と政策」『外国の立法 : 立法情報・翻訳・解説』(292), 2022.6., https://dl.ndl.go.jp/pid/12295666

(アジア情報課 河村 真澄)


[1] 박진영『기후위기에 대응하기 위한 전환적 에너지법에 관한 연구 : 주인-대리인 이론을 통한 탈석탄 문제의 해결과 함의 = A Research on Transitional Energy Law in the Age of Climate Crisis』2022
https://www.riss.kr/link?id=T16548692外部サイト
[2] 2020年10月26日、菅首相(当時)は第203回国会における所信表明演説において、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すこと」を宣言した。
「第203回国会 衆議院 本会議 第1号 令和2年10月26日」国会会議録検索システム
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/120305254X00120201026/24
[3] 経緯については「気候危機対応のための炭素中立・グリーン成長基本法」提案理由による。
「[2112217] 기후위기 대응을 위한 탄소중립·녹색성장 기본법안(대안)(환경노동위원장)」 議案情報システム
https://likms.assembly.go.kr/bill/billDetail.do?billId=PRC_U2N1D0E8N1S8F2K0B3I4V4I7F8I4G1外部サイト
同法の翻訳・解説については以下を参照されたい。
中村穂佳「韓国 韓国の気候変動対策に関する立法と政策」『外国の立法 : 立法情報・翻訳・解説』(292), 2022
https://dl.ndl.go.jp/pid/12295666