昭和14年度資金統制計画綱領
閣議決定年
昭和14年7月4日 閣議決定
収載資料:国家総動員史 資料編 第1 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1975.8 pp.332-335 当館請求記号:AZ-668-5
第一章 総則
第一 昭和十四年度ノ資金統制ハ本綱領ニ準拠シテ之ヲ実施スルモノトス
第二 本綱領ハ昭和十四年度国家総動員計画設定ニ関スル件(昭和十三年九月十三日閣議決定)ニ基キ昭和十四年度資金需給計画ヲ概定シ、之ガ実施上必要ナル措置ノ大綱ヲ策定スルモノトス
第三 本綱領ノ設定ニ際シテハ左記各号ニ付重点ヲ置キタルヲ以テ実施上特ニ注意スルモノトス
(一)公債ノ順調ナル消化ヲ図ルコト
(二)生産力拡充計画ノ完遂、国防計画上必要ナル軍需産業ノ拡充、貿易振興上必要ナル輸出産業ノ拡充等ニ必要ナル資金ヲ円滑適正ニ供給スルコト
(三)満洲国ノ公債及生産力拡充計画所要資金並ニ支那経済開発計画所要資金中対日期待額ノ供給ヲ出来得ル限リ円滑適正ナラシムルコト
(四)供給資金ノ源泉ハ資金蓄積ニ待ツコトヲ本則トシ、極力信用膨張ヲ避クルコト
第四 本綱領ノ計画実施ニ関シテハ資金統制委員会ニ於テ関係各庁ノ密接ナル連絡ヲ保持スルモノトス
第二章 昭和十四年度資金需給計画
第五 昭和十四年度資金需給計画ヲ左ノ如ク概定スルモノトス
(単位 百万円)
資金需要額
公債所要資金 六、〇二五
国債 五、九二五
地方債 一〇〇
産業所要資金 三、六〇〇
満洲国日円資金所要額 六五〇
支那日円資金所要額 二五〇
計 一〇、五二五
資金供給額(蓄積資金) 一〇、〇〇〇
差引供給不足額 五二五
第六 前項ニ概定シタル公債所要資金(附表第一参照)産業所要資金満洲国及支那所要資金並ニ蓄積資金(附表第二参照)ノ各々ニ付更ニ資金統制委員会ノ審議ニ依リ具体的ニ計画数額ヲ定ムルコトトシ資金供給不足額ニ付テハ需要額ノ節減等ニ依リ調整スルモノトス
但右ノ計画数額ハ物資ノ供給力其他ニ変更アリタル場合ニハ之ニ即応スルヤウ修正スルモノトス
第三章 資金ノ需要及之ガ充足ニ関スル措置
第七 国債及地方債ノ発行額ハ前章第六所定ノ計画額ニ準拠シ能フ限リ之ヲ減少セシムル如ク措置スルモノトシ左記ノ方策ヲ採ルモノトス
(一)経費ノ節約繰延ヲ計ルコト
(二)政府及地方公共団体ノ物資需要ニ関シテ、厳ニ昭和十四年度物資動員計画ニ準拠スルハ勿論、各庁購入物品価格ヲ積極的ニ引下グベキ方策ヲ講ズルコト
第八 産業所要資金ハ前章第六所定ノ具体的計画額ニ準拠スルトトモニ左記各項ニ留意スルモノトス
(一)自己資金ノ利用ニ努メシムルコト
(二)産業上ノ物資ノ需要ハ厳ニ本年度物資動員計画ニ準拠スルハ勿論其購入物品価格ヲ適正ナラシムベキ方策ヲ講ズルコト
(三)資産内容収支計画等ヨリ見テ適当ナル事業主体ニ付之ヲ認ムルコト
第九 満洲国日円資金ハ前章第六所定ノ具体的計画額ニ準拠スルトトモニ同国ノ対日物資需要ニ関シテハ厳ニ本年度物資動員計画ニ準拠シ其購入物品価格ヲ適正ナラシムベキ方策ヲ講ズルモノトス
第十 支那ニ関シテモ満洲国ニ準ジ適当ニ措置スルモノトス
第十一 公債ノ発行、産業所要資金ノ調達、満洲国及支那ノ日円資金調達ニ就テハ其時期及方法ニ関シ左ノ諸点ヲ注意スルモノトス
(一)資金需要ノ時期的競合ヲ避クルコト
(二)産業所要資金ノ調達方法ニ関シテハ株式社債及借入金ノ間ニ金融的ニ適正ナル均衡ヲ保持セシムルコト
(三)満洲国及支那ノ日円資金調達方法ニ付テモ前項ニ準ズルコト
第十二 公債消化ニ関シテハ附表第一所掲ノ数額ヲ基準トシ必ズ之以上ノ額ヲ消化シ得ル如ク万般ノ方策ヲ講ズルモノトシ、特ニ左記方策ニ努ムルモノトス
(一)金融機関ニ対シ新規増加資金又ハ現在保有資産ノ一定割合ヲ国債ニ投資セシムルコトニ付考究スルコト
(二)各種産業会社ニ於テモ成ルベク国債投資ヲ為スヤウ誘導スルコト
(三)個人ノ国債保有額ヲ増加セシムル為メノ方策ヲ講ズルコト
(四)共済組合ニ対シテハ経費ノ節約、其ノ他ノ方法ニ依リ国債保有額ヲ増加セシムルコト
地方公共団体及各機関体ニ対シテモ之ニ準ジ適宜措置スルコト
(五)諸金融機関ノ貯金及預金ノ利率平準化ヲ更ニ徹底シ且金融機関ノ経営ノ合理化ヲ促進スルコト
第十三 生産力拡充計画産業、軍需産業、輸出産業等ノ重要産業ノ所要資金ヲ迅速確実ニ供給スル為左記諸点ニ留意スルモノトス
(一)右諸産業ノ株式社債等ニ対スル投資ノ普及ヲ図ルコト
(二)会社利益配当及資金融通令ニ依ル融通命令ヲ活用スルコト
第十四 満洲国及支那ノ日円資金供給ヲ円滑ナラシムル為概ネ左記ノ方策ヲ採ルモノトス
(一)満洲国及支那投資ニ付一般ノ認識ヲ深ムルコト
(二)各種金融機関ニ対シ満洲国関係有価証券投資ノ奨励ヲナスコト
第十五 資金供給ノ実績及之ガ影響対策ニ関シ、関係ノ各庁ハ左記ニ依リ毎月報告ヲ企画院ニ提出スルモノトス
記
公債発行及消化状況 大蔵省
産業資金調達状況
内地 大蔵省
外地 拓務省
満洲国日円資金調達状況 対満事務局
支那日円資金調達状況 興亜院
第四章 資金蓄積ニ関スル措置
第十六 資金蓄積ニ就テハ附表第二ニ概定シタル金融機関特別資金蓄積計画数額ヲ実現ノ目標トシ、之カ達成ノ為必要ナル方策ヲ講ズルモノトス
第十七 資金蓄積ノ源泉ハ個人所得ニ俟ツモノ多ク、又個人所得ノ濫費ハ物価騰貴ノ端緒トモナルヲ以テ、極力貯蓄ヲ奨励シ殊ニ殷振産業ニ関係アルモノノ所得ニ就テ徹底的ナル貯蓄奨励方策ヲ講ズルモノトス
第十八 各種保険制度ニ依ル資金蓄積ニ付テハ資金ノ性質ニ鑑ミ一層之ヲ旺ナラシムベキ措置ヲ講ズルモノトシ特ニ殷振産業方面ヨリノ吸収ニ関シテハ一段ノ工夫ヲ廻ラスモノトス
第十九 会社ニ対シ其ノ経費ノ濫費ヲ戒メ資金蓄積ニ努メシムル為利益処分ハ勿論、経費ノ支出ニ関シ会社利益配当及資金融通令ニ依ル経理命令ヲ活用スルモノトス
第二十 資金蓄積ヲ促進スル為ニハ貨幣購買力ニ対スル信認ヲ必須ノ条件トスルヲ以テ、物価全般ノ抑制ニ関シ万般ノ方策ヲ講ズルモノトス
第二十一 附表第二ニ所定ノ資金蓄積計画数額ニ関シ責任ヲ有スル各庁ハ資金蓄積ノ実績及対策ニ関シ左記ニヨリ毎月報告ヲ企画院ニ提出スルモノトス
記
銀行信託資金、郵貯以外ノ預金部資金、
無尽会社資金 大蔵省
保険会社資金 商工省
郵便貯金 逓信省
簡易保険積立金、郵便年金積立金 厚生省
産業組合関係資金 農林省、大蔵省
外地 拓務省
第五章 其他資金統制ニ関スル措置
第二十二 資金統制ノ完璧ヲ期シ本綱領目的ノ達成ヲ図ル為左記方策ヲ実施スルモノトス
(一)金融機関ニ対スル監督ヲ一層周密ナラシメ資金運用ニ関スル指導ニ力ヲ注グコト
(二)臨時資金調整法ノ運用ニ当リ資金使用実績ノ監督ニ努ムルコト
(三)運転資金ニ付テモ適当ナル監督方法ヲ講ジ投機思惑資金ノ需要ヲ抑制スルコト
第二十三 各種金融機関ノ団体機構ヲ整備シ一層政策実施ニ協力セシムルコトトシ、要スレバ総動員法第十七条第十八条ノ発動ニ際シ此ノ点ヲ考慮スルモノトス
第二十四 資金調整、金利平準化等各種金融方策ノ実施ニ付内外地ノ連絡ヲ一段ト緊密ナラシムルヤウ措置スルモノトス
第二十五 満洲国ニ於ケル金利物価ノ如何ハ延ヒテハ我国ノ金利物価ニモ影響ヲ及ボスベキヲ以テ之等ノ地域ニ於ケル資金蓄積ヲ促ストトモニ其金融政策ヲシテ我国ノ金融政策ト歩調ヲ一ニシ特ニ左ノ各項ニ付キ適切ナル措置ヲ為スヤウ協議スルモノトス
(一)金利ノ低下ニ努ムルコト
(二)現在ノ高物価ノ引下ニ努ムルコト
支那ニツイテモ右ニ準ジ適当ニ措置スルモノトス
附表第一
昭和十四年度国債発行及消化計画額表(単位百萬円)
(表省略)
備考 其他ノ八七五百萬円ニ付テハ更ニ考究スルモノトス
附表第二
昭和十四年度資金蓄積計画額表(単位百萬円)
(表省略)
備考 具体的ニ金融機関ヲ指導スル場合ニハ本計画額以上ノ目標ヲ定メシムルコトアルモノトス