昭和14年度労務動員実施計画綱領
閣議決定年
昭和14年7月4日 閣議決定
収載資料:国家総動員史 資料編 第1 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1975.8 pp.324-328 当館請求記号:AZ-668-5
第一章 総則
第一 本綱領ハ昭和十三年九月十三日閣議決定「昭和十四年度国家総動員実施計画設定ニ関スル件」ニ基キ昭和十四年度労務動員実施ノ基準トナルベキ事項ヲ定ムルモノトス
第二 本綱領ハ長期戦態勢下ニ於ケル労働力ノ根基ニ培フト共ニ特ニ左ニ掲グル事項ノ達成ヲ目途トシテ労務ヲ統制運用スルヲ以テ目的トス
一 軍需ヲ充足スルコト
二 生産力拡充計画ヲ遂行スルコト
三 輸出ヲ復興スルコト
四 国民生活ノ必需ヲ確保スルコト
第三 各庁ハ本綱領ニ基キ速ニ各庁実施計画ヲ設定シ之ヲ実施スルモノトス
満支関係諸機関ニ於テハ本綱領ノ趣旨ニ準ジ労務動員実施計画ヲ設定シ夫々適切ナル対策ヲ講ゼシムル様措置スルモノトス
第一項ノ各庁実施計画及前項ノ労務動員実施計画ノ要領ハ速ニ之ヲ企画院ニ提出スルモノトス
第四 労務動員実施ニ当リ特ニ重要案件ヲ生ジタルトキハ其ノ処理ハ労務動員委員会ニ依リ之ヲ調整スルモノトス
第二章 一般労務者需給調整方策
第五 昭和十四年度一般労務者ノ需給計画ハ内地ニ於ケル工業、鉱業及交通業労務者ノ新規需要ヲ基礎トシ之ニ対スル供給力ヲ推測シテ設定スルモノトス
前項ノ計画ニ付テハ満洲移民等ニ関スル需給ヲモ考慮スルモノトス
第六 前記ノ需要数ハ左記各号ノ員数ヲ合算シタルモノトス
一 軍需産業、生産力拡充計画産業及其ノ附帯産業、輸出及必需品産業並ニ運輸通信業ニ於ケル需要増加数
二 工業、鉱業及運輸通信業ニ於ケル減耗ノ補充ニ要スル数
三 満洲移民等
前項ノ需要数ハ附表第一及第二ノ如ク之ヲ予定スルモノトス
第七 前記ノ需要ハ左記各号ノ給源ヨリ之ヲ充足スルモノトス
一 昭和十四年三月新規小学校卒業者
二 物資動員計画遂行ニ伴フ離職者
三 未就業者(手助ヲ含ム)
四 農業従事者
五 商業其ノ他ニ於ケル労務節減可能ナル業務ノ従事者
六 女子無業者
七 移住朝鮮人
前項各号ノ給源ヨリ供給スベキ目標数ハ附表第三ノ如ク之ヲ予定スルモノトス
第八 需給ノ適合ヲ図ルガ為就職ノ指導斡旋ニ付一層積極的方法ヲ講ズルコトトシ特ニ新規小学校卒業者其ノ他年少者ノ就職ニ付之ガ統制ヲ強化スルモノトス
第九 物資動員計画ノ遂行ニ伴フ離職者其ノ他青壮年者ノ転就職ニ付テハ必要労務ノ充足ニ資スル為職業補導施設ヲ拡充スル等ノ方策ヲ講ズルモノトス
第十 農村ヨリ労務ヲ供出スルニ当リテハ農業ニ於ケル青年労力ノ急減並ニ其ノ地方的偏倚ノ実情ニ鑑ミ之ガ供出ヲ計画化スルト共ニ地方ニ於ケル労務行政機関ト経済更正委員会等トノ連繋ヲ一層緊密ナラシムル様措置スルモノトス
農業生産確保ノ為ニハ農業労力調整計画ヲ設定シ作業及施設ノ協同化、集団的移動労働、勤労奉仕、共同託児共同炊事其ノ他ノ家事労働施設、畜力機械力利用ノ拡充等ノ諸方策総合シテ労力ノ能率的利用ヲ図ルト共ニ農村及都市ノ間ニ於ケル労力ノ季節的調節ヲモ行フモノトス
第十一 商業其ノ他ニ於ケル比較的労務ノ節減可能ナル業務ニ付テハ経営改善等ノ方法ニ依リ労務ノ節減ヲ図ラシメ特ニ青年男女ノ使用ヲ緊要トセザルモノニ付テハ国家総動員法第六条ノ規定ニ依リ之ガ雇入ヲ制限シ其ノ他適当ナル方策ヲ講ズルモノトス
第十二 女子ノ労務ニ関シテハ職場ノ選択ニ付適切ナル指導ヲ行ヒ輸出産業等特ニ女子ノ労務ヲ必要トスル産業ノ需要ヲ充足スルコトヲ第一議トシテ未婚ノ不就業女子ニ付就業勧奨ヲ積極的ニ行フモノトス
第十三 朝鮮人ノ労力移入ヲ図リ適切ナル方策ノ下ニ特ニ其ノ労力ヲ必要トスル事業ニ従事セシムルモノトス
第十四 一般労務者ノ不足ニ因リ労務動員実施計画ノ遂行上重大ナル支障ヲ生ズルノ虞アル場合ニ於テ之ガ充足ニ付他ニ適当ナル方策ナキトキハ徴用ノ手段ニ依ルモノトス
第十五 外地ニ関シテハ本章ノ趣旨ニ準ジ一般労務者需給調整方策ヲ樹立スルモノトス
第三章 技術者並ニ熟練労務者需給調整方策
第十六 昭和十四年度技術者ノ需給計画ハ概ネ日満支ヲ通ジ工業、鉱業及交通業ノ新規需要ヲ基礎トシ之ニ対スル供給力ヲ推測シテ之ヲ設定スルモノトス
第十七 前記ノ需要数ハ左記各号ノ員数ヲ合算シタルモノトス
一 日満支ニ於ケル生産力拡充計画産業ノ需要増加数
二 日満ニ於ケル生産力拡充計画附帯産業及軍需産業ノ需要増加数
三 内地ニ於ケル輸出及必需品産業並ニ運輸通信業ノ需要増加数
四 日満支ニ於ケル工業、鉱業及運輸通信業ニ於ケル減耗ノ補充ニ要スル数
前項ノ需要数ハ附表第四ノ如ク之ヲ予定スルモノトス
第十八 前記ノ需要ニ充ツベキ昭和十四年三月新規学校卒業者数ハ附表第五ノ如ク之ヲ予定スルモノトス
第十九 技術者ノ不足ヲ補フ為不就業技術者ニ付組織的調査ヲ行ヒ其ノ就業及使用ノ勧奨斡旋ニ努ムルモノトス
第二十 現行検定制度ヲ拡張活用スルト共ニ特別ノ技術認定制度ヲ創設シテ技術者補給ノ途ヲ拓クモノトス
第二十一 技術者ノ能率的利用ヲ図ル為左ノ方策ヲ講ズルモノトス
一 同一系統企業間中小工場間等ニ於テ技術者ノ融通又ハ共同利用ヲ為サシムルコト 二 下請工場ニ対スル親工場ノ技術的指導範囲ヲ拡大セシムルコト
三 製品及製作方法ノ単純化、標準化等ヲ促進スルコト
第二十二 技術者分布ノ現況ニ付組織的調査ヲ行ヒ其ノ配置ヲ適正化スル為積極的斡旋ニ努ムルモノトス
第二十三 技術者ノ不足ニ因リ労務動員実施計画ノ遂行上重大ナル支障ヲ生ズルノ処アル場合ニ於テ之ガ充足ニ付他ニ適当ナル方策ナキトキハ徴用ノ手段ニ依ルモノトス
第二十四 熟練労務者ノ不足顕著ナル現状ニ鑑ミ経験労務者ニ対スル再教育施設ヲ拡充スルモノトス
前項ノ他熟練労務者ノ需給調整ニ付テハ概ネ技術者ノ場合ニ準ジ措置スルモノトス
第二十五 工鉱業関係ノ技術者及熟練労務者、土木建築技術者、医療関係者、獣医師、高級船員、無線通信士等ニ付計画的養成ヲ行ヒ後年度ノ需要ニ応ズルモノトス
第四章 労働力ノ培養及能率増進方策
第二十六 労務者ノ精神鍛錬及規律訓練ヲ一層徹底スルト共ニ保健、衛生施設ヲ拡充シ特ニ青少年労務者ニ付体質増強ヲ図リ以テ労働生産性ノ向上ヲ期スルモノトス
第二十七 災害防止ノ徹底ヲ図ル為労働過重ノ抑制、新入労務者ニ対スル安全教育ノ徹底、設備ノ改良等有効適切ナル方策ヲ講ズルモノトス
第二十八 女子ノ時局産業ヘノ進出著シキ実情ニ鑑ミ特ニ其ノ保護ヲ強化スル為適当ナル方策ヲ講ズルモノトス
第二十九 能率ノ増進ヲ図ル為作業ノ方法及設備ノ改善並ニ技能ノ公開、競技、表彰ヲ行フ等適切ナル方策ヲ講ズルモノトス
第三十 賃金ノ統制ヲ行フニ当リテハ労務動員ノ見地ヨリ特ニ左ノ諸点ニ留意スルモノトス
一 労務者ノ生活ノ恒常性ヲ確保スルコト
二 労働ノ生産性ヲ向上スルコト
三 労務需給ヲ適正円滑ナラシムルコト
第三十一 労務者ニ対スル生活刷新運動ヲ一層徹底シ特ニ其ノ生活ヲ現実化スル為有効適切ナル方策ヲ講ズルモノトス
第三十二 労務者ノ住宅問題及交通問題ハ労務動員遂行上急遽之ガ解決ヲ図ルコトトシ之ニ関連シテ工場ノ移転新設等ニ付適当ナル対策ヲ講ズルモノトス
第五章 労務動員機構其ノ他
第三十三 労務動員計画ノ実施ヲ確保シ其ノ運用ヲ円滑ナラシムル為内外地ニ亘リ中央地方ヲ通ジ労務行政機構ヲ整備改善スルモノトス
第三十四 労務動員計画ノ遂行ニ協力セシムル為労務管理ノ機構ヲ整備セシムルト共ニ産業報国会ノ拡充ヲ図リ其ノ活動ヲ促進スルモノトス
第三十五 労務動員ノ基礎資料ヲ整備スル為左ノ方策ヲ急速実施スルモノトス
一 特ニ必要ト認メラルル労務者ニ関シ登録ノ範囲ヲ拡張スルコト
二 労務ノ需給ニ関シ定期的報告ヲ徴スルコト
三 都市及農村ヲ通ジ労務ノ実情及給源ヲ定期的ニ調査スルコト
附表第一
一般労務者新規需要数
(表省略)
備考
一 附帯産業トハ例ヘバ採鉱選鉱精錬用機械、原動機、電動機ノ製造業、鉱物業、土木建築等生産力拡充計画ノ遂行ニ伴ヒ当然拡張ヲ要スベキ産業ヲ謂フ
二 軍直接要員ハ別途トス
三 本表ハ事情ノ変化ニ即応シ本綱領第四ニ依リ適宜調整スルモノトス
附表第二
満州ニ於ケル新規需要数
(表省略)
備考
本表ハ事情ノ変化ニ即応シ本綱領第四ニ依リ適宜調整スルモノトス
附表第三
一般労務者給源別供給目標数
(表省略)
備考
一 女子ノ需要ニ対スル供給超過四萬四千人ノ男子労務ヲ節約セル業務ニ代用セシムルモノトス
二 本表ハ事情ノ変化ニ即応シ本綱領第四ニ依リ適宜調整スルモノトス
附表第四
技術者新規需要数
(表省略)
備考
一 上級技術者トハ専門学校卒業者以上及之ト同程度ノ技能ヲ有スル者、下級技術者トハ中等学校卒業以上及之ト同程度ノ技能ヲ有スル者ヲ謂フ
二 本表ハ事情ノ変化ニ即応シ本綱領第四ニ依リ適宜調整スルモノトス
附表第五
技術者新規供給数
(表省略)