日満支経済建設要綱
閣議決定年
昭和15年10月3日 閣議決定
収載資料:国家総動員史 資料編 第4 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1976.3 pp.1083-1085 当館請求記号:AZ-668-5
東亜ノ新秩序ヲ建設シ世界永遠ノ平和ヲ確保スベキ皇国ノ使命ヲ具体的ニ達成スルタメニハ我国内体制革新ノ過程ト生活圏ノ拡大編成ノ過程トヲ総合一体的ニ前進セシメ以テ国防国家ヲ速ニ完成スルヲ要ス従テ皇国ノ基本的経済政策ハ次ノ三大過程ノ綜合計画性ノ上ニ確立セラルルコトヲ要ス
一、国民経済ノ再編成ノ完成
二、自存圏ノ編成強化
三、東亜共栄圏ノ拡大編成
蓋シ生活圏拡大編成ノ為ニハ皇国ノ国防並ニ地政学的地位ニ基キ日、満、北支、蒙彊ノ地域及其ノ前進拠点トシテ南支沿岸特定島嶼ヲ有機的一体タル自存圏トシテ政治、文化、経済ノ総合的結合ヲ強化編成スルト共ニ国防経済ノ完成ヲ促進補完スル為中南支、東南アジア及南方諸地域ヲ包含スル東亜共栄圏ヲ確立スルコトヲ要ス
而シテ経済政策適用ノ方式ハ皇国ト生活圏内ニ於ケル国家又ハ地域及民族トノ結合ニ関スル根本政策ト調整シツツ夫々民族ノ生活段階ニ適応セシムル様特段ノ工夫創造ヲ要ス
第一、基本方針
一、日満支経済建設ノ目標ハ概ネ皇紀二千六百十年迄ニ日満支ヲ一環トスル自給自足的経済態勢ヲ確立スルト共ニ東亜共栄圏ノ建設ヲ促進シ以テ世界経済ニ於ケル地位ヲ強化確立スルニ在リ
二、日満支経済建設ノ指導精神ハ八紘一宇ノ大精神ニ基キ皇国ヲ中心トスル日満支三国ノ一体的協同ニ依リ国防経済ヲ確立シ共存共栄、国民全般ノ福利ヲ増進スルニ在リ
三、皇国ハ日満支経済建設ノ起動力タルニ鑑ミ国民ノ気魄ヲ昂揚シ国内態勢ヲ革新シ国力ノ拡充ニ力メ以テ満支ノ経済建設ヲ指導育成ス特ニ科学、技術ノ画期的振興ヲ図リ又先駆工業ノ開拓ニ任ス
四、満洲国ハ皇国トノ不可分関係ヲ益々鞏化シツツ自存圏ノ確立ヲ主眼トシ重要基礎産業ノ急速ナル整備発展ヲ図ル
五、支那ハ日満ト協力シ資源ノ開発、経済ノ復興ヲ図ル而シテ北支蒙彊ハ自存圏ノ確立ヲ主眼トシ交通及重要産業ヲ開発シ中南支ハ物資交易ノ円滑、重要資源ノ開発ニ重点ヲ置キ東亜共栄圏ノ確立ニ寄与ス但シ海南島等南支沿岸特定島嶼ハ自存圏ノ前進拠点トシテ特ニ其ノ開発ニ努ム
六、自存圏内ニ於ケル国防物資ノ組織的連帯貯蔵ヲ図リ以テ国防力ノ保全ニ努ム
七、日満支経済ノ総合建設計画ノ遂行ヲ調整促進スル為日満支経済ノ総合計画機構ヲ整備ス
第二、部門別方針
日満支三国ノ産業分野、労務、金融、貿易、交通等ノ政策ニ関スル基本方針ハ左ノ如ク概定ス
一、産業配分
イ、皇国ハ今後主トシテ精密工業、機械工業、兵器工業ニ重点ヲ置キ之ガ画期的振興ヲ図リ、其ノ他ノ重工業、化学工業及鉱業ハ自在圏内ニ於テ適地適業ノ主旨ニ依リ之ヲ振興ス
軽工業就中繊維工業、雑工業ハ計画的ニ整理シ逐次之ガ大陸移動ヲ行フト共ニ大陸資本ヘノ移管ヲ考慮ス
農業ニ関シテハ土地制度ヲ改革シ経営ノ科学的刷新ヲ為シ農家ノ安定向上ヲ図リ国民主食ヲ確保スルト共ニ農村人口ノ定有ヲ策ス
水産業ハ依然世界第一位ヲ保持スル如ク益々其ノ発展ヲ図ル
林政ノ統一刷新ヲ図リ森林資源ノ合理的活用ト其ノ保続ヲ図ル
ロ、満洲国ハ今後特ニ鉱業及電気事業ノ画期的振興ヲ図リ日満間適地適業ノ主旨ニ依リ重工業及化学工業ノ振興ニ力ムルト共ニ一部重工業原材料ヲ皇国ニ供給ス尚機械工業並兵器工業ハ国防上ノ要求ヲ充足スル限度ニ於テ之ヲ興ス
軽工業ハ国内ノ需要ニ適応シ之ヲ興ス
農業ニ付テハ其ノ日満支ノ食料飼料補給基地タルト世界ニ対スル特種農業資源ノ供源タルニ鑑ミ農地ノ開拓、農法ノ改善合理化ヲ行ヒ徹底的ニ農産物ノ増産ヲ期ス
尚農業開発ニ当ツテハ皇国農業開拓民ノ入植ヲ促進シ、其ノ中核タラシム
製塩業、畜産並林業ニ付テモ右ニ併行シ之ガ画期的振興ヲ図ル
ハ、支那ハ今後鉱業、製塩業ノ画期的振興ヲ図リ工業原料ノ大量生産ヲ行ヒ日満経済建設ノ基礎確立ニ寄与スルト共ニ適地適業ノ主旨ニ依リ一部重工業及化学工業ヲ建設シ日満産業ヲ補強ス
軽工業ニ付テハ皇国産業ノ発展楷梯ニ照応シツツ相互ノ調整ヲ図リ之ガ土着資本ヲ中心トスル発展ヲ図ル
農業ニ付テハ特ニ基礎的施設ノ整備ニ力メ農業経営ノ改善、合理化ヲ図リ国民主食ノ確保ニ力ムルト共ニ棉花及特産物ノ増産ヲ図ル
二、労務
国防経済ニ於ケル国民ノ労務及技術生産性ノ地位ノ重要性ニ鑑ミ労務技術ノ体制ニ画期的革新ヲ加フルト共ニ民族協同ノ基礎ノ上ニ日満支労務計画ヲ確立シ立地的統制並ニ再配置ヲ為ス
イ、皇国ハ労務技術ノ新体制ヲ確立シ労務者心身ノ錬成、科学教育ノ振興、労働生産性ノ高度化、技術者及技能者ノ養成ニ力ムルト共ニ満支経済建設ノ指導援助ヲナス
ロ、満洲国ハ産業開発ニ必要ナル技術者及技能者ヲ皇国ニ求ムルト共ニ自国内ニ於テモ之ガ養成制度ヲ確立ス
内鮮人開拓民ノ計画的入植ヲ図ル、一般労務者ニ付テハ北支労務者ノ計画的入満ヲ図ルト共ニ国内ヨリノ充足方策ヲ確立シ特ニ鉱工業生産ニ於ケル労務管理ノ刷新確立ニ努ム
ハ、支那ハ産業開発並ニ経済復興ニ必要ナル技術者及技能者ヲ皇国ニ求ムルト共ニ自国内ニ於テモ之ガ養成ニ努ム
一般労務者ニ付テハ其ノ安定向上ノ方策ヲ講ズルト共ニ満洲国産業開発ニ必要ナル供給ヲ為ス
三、金融
国防経済完遂ノ為ニハ金融ノ基礎ヲ回収ノ確実性ニノミ置クコトナク国家トシテ所要ナル物資ノ質及量ノ確保ヲ可能ナラシムルコトヲ主眼トスル如クニ金融理念ノ転換ヲ行フ
イ、日満支ヲ通スル産業計画ニ照応シ之カ実施ヲ可能ナラシムル資金計画ヲ樹立シ且之ヲ実行スベキ金融機構ヲ整備ス
ロ、今後技術ノ進歩産業分野ノ設定等ニ伴ヒ企業施設ノ転換ヲ要スルモノ多カルベキニ顧ミ又国防物資ノ組織的連帯貯蔵ヲ行フニ応ジ之ガ為ノ金融上ノ仕組ヲ整備ス
ハ、資金ノ調達ハ原則トシテ三国ノ蓄積ニ依ルコトトシ之ガ為各国ニ於ケル蓄積ノ増加及其ノ活用ヲ図ル但シ今後当分ノ間国防生産力充実ノ為メノ資金ハ皇国ヨリ之ヲ援助ス尚東亜新秩序建設ノ主旨ニ反セザル限リ外国資本ノ利用ヲ図ル
ニ、外国為替二付テハ之ガ統制ノ目標ヲ海外払ノ節約ノミニ置クコトナク外国ヨリスル国防物資ノ獲得ヲ確保スルコトヲ目標トシ外国為替資金ハ日満両国ハ共同ニ之ヲ運用シ支那ニ付テモ能フ限リ日満ト総合的ニ運用スル如ク措置ス尚進ンデ皇国ヲ東亜共栄圏ノ金融及決済ノ中心地タラシムル様施策ス
ホ、日満支三国間ニハ国際決済上所要ノ協力ヲ為シ三国経済ノ互助連関性ヲ強化ス
ヘ、支那ニ於ケル幣制ニ付テハ皇国ノ指導性ヲ保持スルコトヲ原則トシテ情勢ノ推移ニ応ジテ善処ス
四、交易
従来ノ商業的貿易理念ヲ改メ皇国ヲ中心トスル東亜共栄圏ヲ一体トセル生産経済主義ニ基ク貿易政策ヲ確立シ世界経済ニ於ケル其ノ地歩ヲ確保ス
イ、日満支三国間ニ於テハ相互ニ必要ナル物資ノ優先的交流ヲ円滑確実且敏活ナラシム
ロ、対第三国又ハ他ノ集団トノ関係ニ於テハ日満支一体トシテ物資ノ交易ヲ国別又ハ集団別ニ確立シ日満支ノ生産ニ必要ナル物資ノ獲得ヲ確保シ内部的ニ之ガ配分調整ヲ図ル
ハ、日満支以外ノ東亜共栄圏ノ諸地域トノ関係ハ相互ニ優先的ニ必要物資ノ確保ヲ目的トスル貿易協定ヲ為シ進ンデ日満支ト一体的関係ニ立ツ如ク指導ス
五、交通
日満支経済ノ一体化ヲ促進スルト共ニ国防上ノ要求ニ合致セシムル為メ、三国相互間ノ交通、通信関係ヲ飛躍的発展セシムベク船舶、港湾、鉄道ノ整備拡充ヲ図ルト共ニ、海陸運輸施設ノ有機的連絡ヲ促進シ、航空ノ一元的統制連絡、電気通信施設及放送施設ノ整備拡充等ニ努ム尚大陸ニ於ケル交通施設ノ画期的拡充ヲ期ス
イ、皇国ハ日満支間交通上ニ於ケル指導的使命ヲ充足スルト共ニ東亜ノ海運ニ絶対的優位ヲ占メ更ニ進ンデハ世界的発展ヲナス為メ日本船舶ノ飛躍的増加ヲ図ル
ロ、満洲国ニ於テハ国防上並ニ産業開発計画ノ促進ノ見地ヨリ急速ナル交通通信施設ノ拡充ヲ図ル
ハ、支那ハ経済ノ復興並ニ産業開発促進ノタメ交通通信施設ノ拡充ヲ図ルト共ニ内河水運ノ発達ニ力ム
北支蒙彊ニ於ケル交通通信ニ関シテハ国防上ノ見地ヨリ日満トノ関係ヲ特ニ緊密ナラシムルト共ニ急速ナル其ノ拡充ヲ図ル
ニ、東亜ニ於ケル交通通信ノ自主的地位ヲ確保スル為第三国権益ヲ逐次我勢力下ニ把握スルコトニ努ム