中小商工業者に対する対策
閣議決定年
昭和15年10月22日 閣議決定
収載資料:商工政策史 第12巻 中小企業 通商産業省編 1963 pp.318-319 当館請求記号:509.1-Tu783s
物資の不足、各種統制の強化、価格の公定、輸出の不振等により中小商工業部門に於ては従来の活動範囲の縮小並に機能の変革を余儀なくせられるものを生ずべし、固よりこれに対しては、代用原料の使用、生産品の規格変更、中小商工業の組織化、時局産業への転換、下請制度の利用等を図ると共に政府損失補償拡充の下に庶民金庫、商工組合中央金庫等の活用により、中小商工業者に対する金融緩和の方途を講ずる等各般の対策を実施し及ぶ限り失業者を出さざる様努むべきも、尚中小商工業者並にこれが従業者にして転業の止むなきに至るものは相当多数に上るものと予測せらる。よつてこの際政府は左の要旨による転業対策を急速実施せんとす。
一、方針
(一) 転業は出来得る限り官庁の強制的措置を避け同業者の組合の申合せ等に基く自治的措置によらしめ政府に於てはこれに対し必要なる指導を加うること。
(二) 転業(従業者を含む)による犠牲を緩和し以て転業を容易且迅速ならしむると共に、国民労務再編成の見地よりこれが労働力を最も緊要なる方面に再配置すべき十全の施設を講ずること。
二、施設
(一) 人の問題
(イ) 転業問題の処理に当りては転業者に対し失業者たるの失望感を与うることなく国策の必要に基き時局下緊要なる方面に動員配置さるるの栄誉と、如何なる労働をも厭はざる覚悟とを抱かしむるを目的とすること。
(ロ) 転業については年少者、兼業者等容易なる者を先にし年長者、専業者等転業困難なる者は多少能率低きものと雖も成るべく現在の業務を継続せしむること。
(ハ) 転業者の転換先は概ね次の如くすることとす。
1 軍需産業
2 生産力拡充及附帯産業
3 満洲開拓民(中小工業開拓民を含む)
4 支那、南洋その他海外への移住進出
5 農業生産力拡充(国又は公共団体営開墾及帰農)
6 国防上必要なる土木事業
(ニ) 転業の相談に応じ適切なる勧奨指導を加うべき国民職業指導所を設置すること。
(ホ) 転業者を収容して精神的、肉体的基本訓練を行うべき国民勤労訓練所を設置すること。
(二) 物の問題
転業者の財産処分、負債整理等に対する便宜を供与し以てその犠牲を尠少ならしめ職業を容易ならしむること。これが為国民更生金庫を設くること。