昭和16年度交通動員実施計画綱領ニ関スル件

昭和16年9月5日 閣議決定

収載資料:国家総動員史 資料編 第1 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1975.8 pp.792-795 当館請求記号:AZ-668-5

第一章 総則
第一 本綱領ハ昭和十五年度以降国家総動員計画設定方針(昭和十四年六月十六日閣議決定)ニ基キ最近ニ於ケル国際情勢ノ推移ニ鑑ミ昭和十六年度ニ於ケル交通動員実施ノ基準トナルベキ事項ヲ定ム
第二 本綱領ノ目的ハ他ノ総動員実施計画ト相俟ツテ軍事上ノ要請ニ基ク運輸通信ノ充足ニ万全ヲ期スルト共ニ軍需充足ニ必要ナル産業並ニ国民生活ノ最低限度確保ニ必要ナル運輸通信ノ確保ヲ図ルニ在リ
第三 本綱領ニ定ムル対策ノ円滑迅速ナル実施ヲ期スル為交通各般ノ運用統制ヲ整備強化ス
之ガ為特ニ考慮スベキ事項左ノ如シ
一、内外地交通行政ノ一元的運用
二、海陸輸送ノ一貫的運営
第四 重要物資ノ出荷統制組織ヲ確立セシメ陸運、港湾及海運ノ能力ニ適応スル計画的輸送ヲ行ヒ物資流動ノ円滑ヲ期ス
第五 空襲及災害ニ因ル重要ナル交通諸施設ノ破壊ノ防止及其ノ復旧ニ関シ必要ナル資材及労力ノ確保其ノ他必要ナル措置ヲ講ズ
第六 本計画ノ円滑ナル実施ヲ図ル為交通諸施設ノ緊急整備並ニ其ノ運用ニ必要ナル資材及労力ノ確保ニ努ムルト共ニ交通要員ノ確保並ニ養成ニ関シ必要ナル措置ヲ講ズ
第七 満洲及支那ニ関シテハ関係諸機関ニ於テ本綱領ニ準ジ措置セシム
第八 各庁ハ本綱領ニ基キ具体的方策ヲ樹立シ企画院トノ緊密ナル連絡ノ下ニ速カニ之ヲ実施ス
日満支交通ノ総合調整ハ日満支経済協議会ニ於テ之ヲ行フ

第二章 陸運
第九 戦時ニ於ケル輸送能力ノ大部ガ軍事目的ニ使用セラルルノミナラズ船舶不足ノ為海運ヨリノ輸送転嫁ヲ予想セラルルニ鑑ミ左ノ各号ニ依リ極力輸送能力ノ増強ヲ図ル
一、貨物輸送ニ重点ヲ置キ貨車及機関車ノ増備ヲ図ル
二、輸送力増強ノ為緊急必要ナル線路、通信施設、倉庫及荷役施設等ノ整備ヲ図ル
特ニ内鮮満ノ一貫的輸送能力増強ニ関シ必要ナル措置ヲ講ズ
三、重要ナラザル線路ヲ廃止シ之ガ活用ヲ図ル
四、代燃化貨物自動車及代用燃料ノ生産増加其ノ他ノ方策ニ依リ小運送能力ノ増強ヲ図ル
第十 戦時輸送能力確保ノ為輸送ノ統制強化ニ関シ左ノ方策ヲ講ズ
一、一般旅客ノ輸送ニ関シテハ極力抑制ノ方策ヲ実施ス
二、一般物資ノ輸送ニ関シテハ随時品名別ニ輸送ノ制限ヲ実施ス
三、地方鉄道、軌道、小運送業及民有自動車ニ関シテハ国家管理其ノ他適切ナル方策ニ依リ之ガ運営機構ノ整備ヲ為ス
第十一 海運ヨリノ輸送転嫁ニ対処スル為左ノ方策ヲ講ズ
一、樺太、北海道及九州ヨリ本州ヘノ石炭、鋼材等ノ計画的輸送ニ関シ海上輸送距離短縮ノ為本州ニ於ケル荷揚港其ノ他ニ付適切ナル措置ヲ講ズ
二、青函航路関係改良工事ノ完成ヲ極力促進ス
三、関門海峡隧道工事ノ完成期ヲ極力繰上グ

第三章 海運及港湾
第十二 戦時下海上輸送力ヲ確保シ海運国家管理ノ成果ヲ挙グル為輸送体制ヲ整備シ敏活円滑ナル処置ヲ執リ得ル如クシ尚左ノ措置ヲ講ズ
一、重要物資ノ生産、貯蔵及移動ノ状況ヲ迅速的確ニ把握シ以テ適切ナル輸送ヲ遂行スル為情報連絡ノ緊密ヲ期ス
二、造船能力向上ノ為船舶建造及修繕用資材ノ確保及配給ノ改善、造船技術者及造船労務者ノ充足、船舶建造ノ発注統制、造船所別規格船舶ノ建造並ニ造船造機工場ニ関スル軍需民需関係ノ調整実施ス
三、機帆船、曳船、艀船等ノ積極的活用ニ依ル近海輸送ヲ強化スル為之等船舶ノ計画的輸送統制ヲ整備強化ス
四、遠洋配船ヨリ近海配船ヘノ転航増嵩シ船舶用燃料ノ不足激化スルニ鑑ミ之ガ確保ヲ図ル為重油使用船ニ関シ燃料種類ノ転換其ノ他ノ施策ヲ行ヒ以テ現有船舶ノ最高率ノ運用ニ努ム
五、戦時海上労働力ヲ確保スル為陸上諸産業トノ間ニ新規労務資源ノ割当配分ヲ行ヒ船員養成施設ノ拡充、募集機構ノ整備等ヲ図ルト共ニ配乗ノ適正、船員ノ給与及公務員ノ資格ニ伴フ褒賞、扶助制度等ノ確立ヲ期ス
海上防空、船舶護送等ノ訓練ノ施行ヲ強化ス
第十三 港湾荷役能率ノ増進ヲ図ル為港湾ニ於ケル官庁事務ノ統一簡捷化、港湾運送業ノ一元的運営ヲ行フノ外倉庫及荷役施設ノ改良、曳船、艀船荷役労務者ノ増強確保並ニ荷役用資材、労務者ニ対スル食糧其ノ他必需物資ノ適切ナル配給ヲ図ル
第十四 港湾諸施設ニ関シ船舶護送制実施ニ即応スル如ク艀其ノ他諸般ノ措置ヲ講ジ且水路保全、海難救助等ノ万全ヲ期スル為船舶解撤引揚事業及水難救済事業ヲ総合整備シ潜水夫、関係船舶等ノ施設ヲ拡充強化ス

第四章 航空及気象
第十五 戦時ニ於ケル航空要員大量確保ノ軍事的要請ニ基キ之ガ急速実現ヲ図ル為左ノ方策ヲ講ズ
一、乗員養成関係施設ヲ拡充シ乗員ノ短期養成、再教育等ヲ行フ
二、乗員養成ニ必要ナル航空機材等ノ補給ノ確保ヲ図ル
第十六 民間航空輸送ノ軍事的使命ノ達成ニ遺憾ナカラシムル為航空輸送隊ノ編成、定期航空路ノ改変其ノ他輸送統制ニ必要ナル措置ヲ講ズ
第十七 航空機ノ戦時運航ヲ確保スル為航空保安施設並ニ之ガ管理ノ統合一元化ヲ行フト共ニ之ガ施設ノ拡充整備ヲ図ル
第十八 日満支航空ノ緊密ナル連繋ヲ確保シ民間航空ノ総力発揮ニ遺憾ナキヲ期ス
第十九 気象管制ニ関シテハ気象報道管制要領ノ定ムル所ニ依ル

第五章 通信
第二十 軍用、防空、気象其ノ他ノ重要通信ノ流通ヲ確保スル為左ノ方策ヲ講ズ
一、重要通信ノ流通確保ニ必要ナル通信施設ノ増強ヲ図リ特ニ専用通信回線ノ作成等ニ依リ之ガ速達ヲ期ス
二、朝鮮海峡横断通信施設ノ増強等日満支及内外地連絡通信施設ノ急速強化ヲ図ルト共ニ之ガ一貫的運用態勢ヲ整備ス
三、各種通信施設ノ総合利用又ハ供用ヲ行フ
四、郵便及電信、電話ノ利用ノ抑制ヲ強化スルト共ニ通信施設ノ転用等之ガ重点的活用ヲ図リ通信機能ノ昂揚ニ努ム
第二十一 東亜ニ於ケル我ガ海底線網ノ確保ヲ図リ必要ニ応ジ之ガ伸張ヲ期スルト共ニ敵性通信勢力ノ駆逐ニ努メ所有通信施設ヲ我ガ方ニ於テ活用シ得ル如ク措置ス
第二十二 通信ノ取締並ニ情報宣伝通信ノ強化ヲ図ル為左ノ方策ヲ実施ス
一、郵便及電信ノ検閲ノ強化及之ガ差出ニ関スル制限又ハ禁止、電話通話ノ監聴強化及之ガ制限又ハ停止、不法無線通信施設ノ取締ノ強化等ノ措置ヲ講ジ国家機密ノ漏洩防止及利敵通信ノ防遏ニ遺憾ナキヲ期ス
二、国際情報蒐集ニ必要ナル通信施設及対外放送施設ヲ強化スルト共ニ敵性放送ニ対スル防遏手段ヲ講ズ
三、有線放送施設及非常聴取施設ノ整備ヲ図ルト共ニ空襲時ニ於ケル放送電波管制ニ必要ナル準備ヲ為ス
四、混信防遏及電波取締ノ徹底ヲ期スル為必要ナル措置ヲ講ズ