緊急食糧対策ニ関スル件
閣議決定年
昭和16年9月26日 閣議決定
収載資料:国立公文書館所蔵公文別録 88 ゆまに書房 1997.5 253-262 当館請求記号:YC-98
現下ノ食糧事情並ニ緊迫セル国際情勢ニ鑑ミ戦時態勢下ニ於ケル食糧ノ供給確保ヲ図ル為速ニ左記ノ緊急対策ヲ実施スルモノトス
記
第一 米穀等主要食糧需給対策
昭和十七米穀年度ニ於ケル米穀ノ需給ハ天候ノ不順、国際関係ノ緊迫等ノ為相当程度ノ不均衡ヲ生ズル見込ナルガ之ニ対シ作付転換及裏作推奨等ニ依リ麦類等ノ急速ナル増産ヲ図ルト共ニ極力外米ノ輸入ニ努メ他面消費ノ規正ヲ一層強化シ以テ之ガ需給ノ均衡ヲ図リ且戦時態勢下ニ於ケル需要ニ備フル為概ネ一千万石程度ヲ目途トスル持越米及貯蔵米ノ確保ヲ期セントス
一 増産対策
(一)桑、薄荷、煙草、茶等ノ作物ノ作付転換ヲ図ルノ外水田等ノ裏作及空閑地ノ利用ニ依リ麦類、馬鈴薯等ノ増産ヲ図ルコト
(二)作付ノ転換並ニ水田等ノ裏作奨励ハ臨時農地等管理令ノ積極的発動ニ依ルノ外農業団体ノ協力ニ俟ツモノトシ之ガ実施ヲ容易ナラシムル為肥料ノ重点的割当配給ヲ強化シ相当額ノ助成金ヲ交付スルコト
(三)(一)ニ依リ確保スル作付面積ハ内地ニ於テハ約二五九千町歩トシ外地ニ於テモ之ニ準ジ関係各庁協議ノ上適当面積ヲ決定スルコト
二 消費規正
(一)来酒造年度ニ於ケル酒造米ハ相当程度規正シ之ガ代用トシテ薯類等ニ依ル合成酒ノ製造ヲ為サシムルコト
(二)来醤油年度ニ於ケル営業用醤油製造用小麦ハ相当程度規正シ之ガ代用トシテアミノ酸醤油ノ製造ヲ為サシムルコト
(三)小麦粉中ニ一定量ノ甘藷、馬鈴薯澱粉ヲ混入使用セシムルコト
(四)米麦等ノ一般消費者ニ対スル配給割当ニ付テモ之ガ適正合理化ヲ図リ極力消費ノ規正ニ努ムルコト
(五)外地ニ於テモ前各項ニ準ジ消費規正ヲ行フモノトシ之ガ具体的事項ハ関係各庁協議ノ上決定スルコト
三 外米等ノ輸入確保
前記諸対策ヲ実施シ極力主要食糧ノ需給ノ調整ニ努ムルト共ニ戦時態勢下ニ於ケル食糧ノ安固ヲ図ル為来米穀年度ニ於テモ仏印及泰ヨリ一千万石程度ノ外米輸入ヲ目標トシ速ニ之ガ措置ヲ講ジ尚満洲等ヨリノ雑穀ノ輸入確保ニ努ムルコト
四 外地ニ於ケル米穀管理ノ強化並ニ内外地米穀需給計画ノ確立
外地ニ於ケル米穀管理ノ強化ヲ図リ内外地食糧需給計画ノ適切ナル遂行ヲ期スル為速ニ適当ナル措置ヲ講ズルコト
第二 蛋白及脂肪ノ給源需給対策
蛋白及脂肪給源食料タル水産物及畜産物等ハ石油ノ消費規正、漁船ノ徴用、飼料ノ供給減等ノ為其ノ供給ハ著シク減退スルモノト予想セラルルヲ以テ国民体位ノ維持向上並ニ活動力ノ保全上之ガ補填対策トシテ左ノ方策ヲ実施スルモノトス
一 水産対策
(一)石油ノ不足対策トシテ木炭瓦斯等ノ代用燃料ノ利用並ニ動力漁船ノ帆船化ヲ図ルコト
(二)水産企業ノ整理統合ヲ図リ石油及代用燃料ノ重点的配給ニ依リ大量漁獲物ノ生産確保ヲ図ルト共ニ其ノ食用化率ノ増大ヲ図ルコト
(三)内水漁業及浅海養殖ニ依リ計画的増産ヲ図ルコト
二 輸移入対策
(一)獣禽肉類、鶏卵等ノ支那ヨリノ輸入ヲ図ルコト
(二)満洲大豆及朝鮮大豆ノ輸移入ヲ確保スルコト
(三)満洲及中北支ヨリ落花生、胡麻、菜種等ノ油脂原料ノ輸入ヲ図ルコト
第三 非常用食糧貯蔵対策
現下ノ緊迫セル国際情勢ニ対処シ非常緊急ノ際ニ於ケル主要都市ノ国民食糧ノ供給ヲ確保スル為左ニ依リ重要食糧物資ノ集積貯蔵ヲ図ルモノトス
(一)非常用貯蔵食糧物資ハ概ネ左ニ掲グル物資トスルコト
米、乾麺麭、乾麺、缶罎詰、煉粉乳、味噌、醤油、食糧油、塩干魚、冷凍魚、馬鈴薯、玉葱、沢庵漬、梅干
(二)貯蔵スベキ場所ハ六大都市及北九州等ノ主要都市トシ貯蔵スベキ数量ハ差当リ該都市ニ於ケル一箇月以内ノ需要量トスルコト
尚南洋及樺太等ニ付テモ前項ニ準ジ適当ニ措置スルモノトス
第四 法制上及予算上ノ措置
前記諸対策ニ伴ヒ速ニ必要ナル法制上及予算上ノ措置ヲ講ズルモノトス