液体燃料緊急対策要綱
閣議決定年
昭和16年12月2日 閣議決定
収載資料:国立公文書館所蔵公文別録 88 ゆまに書房 1997.5 307-328 当館請求記号:YC-98
第一 方針
液体燃料需給ノ現状ニ鑑ミ万難ヲ排シ国内燃料資源ヲ総動員シテ其ノ生産又ハ供給ヲ確保スルト共ニ消費ノ規制、廃油ノ回収、代用燃料使用ノ徹底化等総合的緊急燃料対策ヲ確立シ以テ生産力ノ維持最低国民生活ノ確保其ノ他絶対不可欠ナル民需ノ充足ニ資スルコトヲ主眼トシ併セテ軍需一部ノ補填ニ充ツルモノトス
第二 要領
一 石油鉱業
(一)国内産油ハ事態ノ推移如何ニ拘ハラズ品質又ハ輸送ノ確実性等ノ実状ニ鑑ミ年額三十万竏程度ノ維持ヲ目標トス
(二)右目的達成ニ必要ナル機材、人員等ハ之ヲ保持スル如ク措置スルモノトス
之ガ為鑿井機ハ差当リ最少限四〇台及同附属筒管類並ニ之ガ所要人員技術者一二〇名、労務者一、二〇〇名確保ノ措置ヲ講ズルモノトス
(三)人員、□□及技術ノ有機的連繋ト優秀鉱区ノ一元的開発ニヨリ最高度ノ能率ヲ発□セシムル為可及的速ニ企業ノ整理統合ヲ行フモノトス
特ニ差当リ鏨井機ノ利用並ニ鑿井場所ノ選定等ニ付直ニ一元的運営ノ暫定的措置ヲ講ズルモノトス
(四)技術員及労務者(就中鑿井工)ノ急速増員ヲ図ル為教育養成機関ノ拡充等ニ関シ即急措置スルモノトス
(五)石油鉱業用機器ノ急速増産ヲ図ル為生産設備ノ拡充ヲ行フト共ニ特ニ鑿井機ノ標準化ニ努ムルモノトス
二 人造石油
(一)人造石油事業ニ付テハ昭和十五年十二月二十七日閣議決定ニ基キ整備拡充ヲ図リツツアルモ現下ノ緊急事態ニ鑑ミ資材、技術及建設状況等ヲ勘案シ確実早期ニ成果ヲ期待シ得ベキ工場ノ急速整備ヲ目標トシ之ガ遂行ニ関シ方針ヲ確立スルモノトス
(二)水素添加法ニ付テハ既着手工場中ヨリ左記二工場ヲ基準工場トシ之ガ完全操業ヲ可能ナラシムル為徹底的措置ヲ講ズ
イ、朝鮮人石阿吾地工場ハ略建設完了ノ二十万竏設備ヲ急速整備シ完全操作ノ技術ヲ確定セシム
ロ、満鉄撫順工場ハ九万竏迄工場ヲ拡張シ大規模工場ノ完全操作ヲ完成セシム
爾余ノ水素添加工場ニ付テハ基準工場ノ成果ヲ勘案シテ可及的速カニ其ノ整備ヲ図ルモノトス
タール水添法ニ付テハ既着手工場ヲ可及的速カニ完成セシムルト共ニ低温乾溜工場ノ拡充整備ニ伴ヒ其ノ整備方ニ付考慮スルモノトス
(三)合成法ニ付テハ三井三池工場ヲ基準工場トシテ急速整備ヲ図リ其ノ完全操作ヲ期ス
爾余ノ工場建設ニ付テハ既着手工場ト雖コバルト入手可能見込ヲ照合シ之ガ確保ノ限度ニ於テノミコバルト触媒ノ採用ヲ決定シ其ノ他ノ工場ニ付テハ□□□法ノ採用ニ依リ工場建設ヲ促進スルモノトス
(四)頁岩油ニ付テハ其ノ技術ノ確実性及製品ノ質的重要性ニ鑑ミ頁岩探□能力ノ増加等積極的ニ之ガ増産ノ方策ヲ講ズルト共ニ撫順東工場ノ急速完成ヲ期スルモノトス
(五)低温乾溜工場ニ付テハ建設ノ簡単容易ナル点ニ鑑ミ既着手二〇基ニ引続キ四〇基ノ建設ニ着手スルモノトシ之ガ急速完成ヲ期スル為其ノ建設ニ付要スレバ国家管理的措置ヲ講ズルモノトス
爾後ノ工場建設ニ付テハ液体燃料需給ノ推移、石炭、資材等ノ供給力其ノ他各般ノ事情ヲ勘案シ之ガ整備ヲ図ルモノトス
(六)所要資材、資金、工作力□ノ優先確実ナル配当ニ付特別ノ措置ヲ講ズルモノトス
(七)建設及運転ニ要スル技術者及労務者ノ充足ニ付徴用令ノ発動、召集猶予等特別ノ措置ヲ講ズルモノトス
(八)人造石油原料炭ニ付テハ石炭需給ノ現状ニ鑑ミ製鉄用原料炭、ガス発生炉用炭トノ競合ヲ避クルト共ニ之ガ確保ヲ期スル為一般用石炭ノ生焚抑制、半成コークスノ代替使用ノ強制等ノ措置ヲ講ズルモノトス之ガ不足量ノ供給ヲ増産ニ俟ツモノニ付テハ増産命令ヲ発シ之ニ要スル資材、資金、労務ヲ優先確保スルモノトス
尚低温乾溜工業ノ整備拡充ニ伴ヒ半成コークス多量ニ生産サルル場合ハ其ノ用途、価格等ニ付特別ノ考慮ヲ払フモノトス
(九)人造石油事業ノ確立ヲ期スル為製造技術、同装置ノ材質、触媒、原炭料ノ炭質等ノ研究、製品ノ適正価格ノ決定並ニ各種製造方法ノ有機的結合体系ノ確立、官民各種研究機関ノ連繋等各般ノ重要事項ニ関シ徹底的措置ヲ講ズルト共ニ差当リ関係官民ヲ以テ技術委員会ヲ組織シ特ニ基準工場ノ実地調査等其ノ生産技術ノ審査判定ニ当ラシム
三 コールタール類(ベンゾール、クレオソート油、コールタール等)
(一)コールタール類ノ配給機構ヲ早急確立シ其ノ配給統制ヲ実施スルモノトス
(二)コールタール類ノ従来各□ノ用途ヲ再検討シ極力之ガ消費ノ節約及規制ヲ断行シ可及的之ヲ燃料用ニ振向クルモノトス
(三)原則トシテコールタールハ之ヲ蒸留シベンゾール、クレオソート油等ノ回収ニ努ムルモノトス
(四)石炭高温乾溜ニ伴フベンゾール類回収ニ付テハ既存設備ノ全幅利用ヲ図ルト共ニ之ガ設備ヲ有セザルモノニ付テハ其ノ設置ニ努ムルモノトス
之ガ為必要ナル石炭及設備用資材ノ増配ヲ行フモノトス
(五)コールタール回収不可能ナルコークス製造ハ之ガ回収可能ナル方法ニ依ラシムル如ク措置スルモノトス
四 アルコール
(一)アルコールノ液体燃料トシテノ使用ニ付テハ揮発油ヘノ混用ヲ□□スル外アルコールニエーテル、ベンゾール、メタノール等ヲ混和シ、動力用アルコールトシテ内燃機関ニ使用スルモノトス
(二)アルコール原料ノ確保ヲ図ル為甘藷、馬鈴薯等ノ増産ニ努ムルト共ニ糖蜜ノ他用途ヘノ使用ヲ可及的制限スルモノトス
亜硫酸パルプノ廃液等ヲ利用スルアルコールノ製造ハ可及的之ヲ促進スルモノトス
(三)原料取得ノ見透ニ対応シアルコール生産設備ノ整備ヲ促進スルモノトシ建設中ノモノノ可及的速カナル完成ヲ期スルモノトス
(四)工業用アルコール等ノ配給統制ヲ強化スルト共ニ回収設備ヲ奨励シ使用量ノ節減ヲ図リ極力燃料用アルコールノ供給量増加ニ努ムルモノトス
五 其ノ他ノ代用液体燃料
(一)メタノール
有機合成事業ノ整備ニ伴フ増産、メタノールニ付テハ代用燃料トシテノ利用ヲ促進スルモノトス
(二)動植物油脂
動植物油脂ニ付テハ需給ノ現状ニ鑑ミ現在以上鉱物油代用ニ振向クルコト相当困難ナルモ植物油ハ極力自給圏内ヨリノ輸入増加ニ努ムルコトニ依リ動物油脂ハ応急措置トシテ石鹸ノ消費規制其ノ他一般用途ノ消費節約ニ依リ以テ之ガ燃料及潤滑油ヘノ転換ニ努ムルモノトス
(三)木材乾溜ニ依ル溜出物
木材乾溜ハ比較的容易ニ実施シ得ル限度ニ於テ設備ノ増加ヲ図リ極力其ノ溜出物ノ捕集ヲ行ヒ之ガ燃料トシテノ利用ニ努ムルモノトス
六 廃油ノ回収及再生利用
(一)廃油ニ対スル認識ヲ徹底セシメ工場、事業場、船舶等ニ於ケル□洗用石油、各種潤滑油等ノ廃油ノ回収及其ノ再生利用ニ付徹底セル措置ヲ講ズルモノトス
(二)廃油ハ棄却、焚焼等ヲ禁止シ再生可能ナル如ク貯蔵ヲ行ヒ極力回収ニ努メ之ヲ可及的使用前ノ規格品ニ再生シ一般使用ヲ為サシムルモノトス
(三)回収組織ヲ整備シ新製品配給トノリンク制等ヲ実施シ回収ヲ円滑ナラシムルモノトス
要スレバ適正ナル廃油価格ノ設定ヲ為スモノトス
(四)再生業者ノ整理統合ヲ行フト共ニ再生技術ノ向上ヲ図ルモノトス
尚廃油再生ニ要スル設備、資材、電力等之ガ確保ヲ図ルモノトス
七 代用燃料化
(一)石油使用ノ代用燃料化ニ付テハ使用設備ノ種類、転換設備ノ供給力、各種代用燃料資源確保ノ見透及地域的事情等ヲ勘案シ且転換ノ緊急度ヲ考慮シタル総合計画ヲ樹立シ組織的且徹底的ニ之ヲ実施スルモノトス之ガ為可及的速カニ関係官民ヲ以テ組織スル委員会ノ設置等必要ナル措置ヲ講ズルモノトス
尚各種代用燃料ノ使用並ニ転換設備ノ適否等ニ関スル試験研究ヲ急速実施スル為特別ノ措置ヲ講ズルモノトス
(二)代用燃料設備ノ標準化及規格生産ヲ急速実施シ所要数ノ確保並ニ優良機器ノ整備ニ努ムルモノトス
尚設備転換用資材ノ優先確保ヲ期スル為特別ノ措置ヲ講ズルト共ニ設備□□ヲ円滑ナラシムル為助成、補償等ヲ行フモノトス
(三)代用燃料化転換ニ必要ナル燃料及動力ノ生産及供給確保ヲ図ルト共ニ之ガ供給価格ニ付適切ナル措置ヲ講ズルモノトス
(四)各種設備ノ転換ハ概ネ左記ニ依ルモノトス
1.自動車ニ付テハ貨物車及乗合車ノ代用燃料化ヲ最優先ニ考慮シ之ガ燃料ニ付テハ石炭及半成コークスニ重点ヲ置キ木炭、薪ハ現在程度ニ止メ、液化ガス、圧縮ガス、カーバイド等ハ其ノ確保ノ見透並ニ地域的条件等ヲ勘案シ極力之ガ利用ニ努ムルモノトス
尚石油ヲ使用スル機関車及機動車ニ付テモ前項ニ準ジ措置スルモノトス
2.船舶ニ付テハ電気着火式内燃機関ヲ備フル小型漁船及小型交通船ノ代用燃料化ヲ優先的ニ計画実施スルモノトシ焼玉機関ヲ備フル大型漁船、機帆船及曳船ニ付テハ速カニ代用燃料化ノ研究ヲ完成シ之ガ実施ニ努ムルモノトス
3.重油其ノ他液体燃料ヲ使用スル焚焼設備ニ付テハ其ノ代用燃料化可能ナルモノヲ速カニ転換設備ニ□造スルト共ニ之ニ必要ナル石炭、動力等ノ配給ヲ確保スルモノトス
4.農林業用機関其ノ他定□式石油使用設備ニ付テハ他種燃料及動力ヘノ転換ヲ急速具体化スル如ク措置スルモノトス