敵性特許権処理要綱

昭和17年7月14日 閣議決定

収載資料:第二次大戦における連合国財産処理(資料篇) 大蔵省 1965 pp.36-37 当館請求記号:329.4-O635d

第一 方針
敵性特許権ガ大東亜戦争遂行ニ伴フ我ガ国生産拡充上重大ナル障害トナリ居ル実情ニ顧ミ工業所有権戦時法ヲ発動セシメ特許ノ取消又ハ専用免許ヲ為シ之ヲ処理スルモノトス
第二 要領
(一)敵性特許権ニシテ軍事上又ハ公益上ノ必要アルモノハ之ヲ工業所有権戦時法第四条ノ規定ニ依リ其ノ特許ヲ取消スモノトス
(二)左ニ掲グル如キ場合ニ於テハ前項ニ依リ特許ノ取消ヲ為サズ申請ニ応ジ工業所有権戦時法第五条ノ規定ニ依リ一人又ハ少数ノ特定人ニ対シ専用免許ヲ為スモノトス
(イ)実施ニ関シ大ナル設備又ハ資金ヲ要スルモノ、相当ノ工業的中間試験ヲ為スヲ要スルモノ、採算困難ナルモノ等専用免許ニ依リ国家ノ特別ナル保護ヲ受ケザレバ事業ガ成立セズ又ハ生産ノ減退ヲ来ス虞アルトキ
(ロ)専用免許ヲ為スニ非レバ事業ノ濫立ヲ来タシ、粗悪品ノ生産ヲ招来シ又ハ資材ノ浪費トナル虞アルトキ
(ハ)本邦人ガ当該敵性特許ニ付独占的実施権ヲ有シ専用免許ヲ為スニ非レバ当該企業ノ資産ニ重大ナル損失ヲ生ジ延テ経済秩序ニ影響ヲ及ボス処アルトキ
(ニ)専用免許ヲ為スニ依リ相当ノ専用料ヲ徴収シ得ベキモノナルトキ但シ軍事上又ハ公益上直ニ取消ヲ為スヲ必要トスル場合ヲ除ク
必要ニ応ジ国ニ於テ専用免許ヲ留保シ置クコトアルモノトス
(三)一旦専用免許ヲ為シタル敵性特許権ニ付テモ必要ニ応ジ更ニ他ノ者ニ対シ専用免許ヲ為シ又ハ当該専用免許ノ取消ヲ為スモノアルトス
(四)敵性特許権ニ関スル実施権者ノ外ニ当該特許権ノ専用免許ヲ為サントスルトキハ必要ニ応ジ実施権者ニ対スル専用料ヲ他ノ者ニ対スルモノニ対シ軽減スル等ノ措置ニ依リ之ヲ保護スルコトアルモノトス又敵性特許権ニ付其ノ特許ヲ取消スコトニ依リ実施権ヲ喪失シ特ニ救済ノ必要アリト認ムルモノニ対シテハ別ニ考慮スルモノトス
(五)専用料ハ当該特許権ノ専用ニ依リテ得ベキ利益ヲ参酌シテ之ヲ定ムルモノトス

敵性特許権処理要領
(昭一七、七、一四閣議決定)
一、敵性特許権ガ大東亜戦争遂行ニ伴フ我国生産拡充上重大ナル関係ヲ有スルニ鑑ミ工業所有権戦時法ヲ運用シ其ノ活用ヲ図ル為メニ特許ノ取消又ハ専用免許ヲ為スモノトス
二、敵性特許権ニシテ軍事上又ハ公益上ノ必要アルモノハ其ノ特許ヲ取消スモノトス
三、左ノ如キ場合ニ於テハ一人又ハ数人ニ対シ専用免許ヲ為スモノトス
(イ)特許発見ノ実施ニ関シ大ナル設備又ハ資金ヲ要スルモノ、相当ノ工業的中間試験ヲ為スヲ要スルモノ、採算困難ナルモノ等専用免許ニヨリ国家ノ特別ノ保護ヲ受ケザレバ事業ガ成立セザルトキ
(ロ)専用免許ヲ為スニ非ザレバ事業ノ濫立ヲ来シ、粗悪品ノ生産ヲ招来シ又ハ資料ノ浪費トナル虞アルトキ
(ハ)其ノ他軍事上又ハ公益上等専用免許ヲ為スヲ適当トスルトキ
四、一旦専用免許ヲ為シタル敵性特許ニ付テモ必要ニ応ジ更ニ他ノ者ニ対シ専用免許ヲ為シ又ハ当該専用免許ノ取消ヲ為スコトアルモノトス