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対泰経済施策要綱

昭和17年9月29日 閣議報告

収載資料:国家総動員史 資料編 第8 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1979 pp.590-592 当館請求記号:AZ-668-5

第一、方針
泰国ヲシテ日泰攻守同盟ノ精神ニ則リ経済部門ニ於テモ大東亜戦争ノ遂行ニ衷心協力セシムルト共ニ、大東亜経済有機体ノ一員トシテノ経済体制ヲ緩急ニ応ジ逐次整備セシメ諸般ノ経済施策ヲ実行セシム

第二、施策要領
一、泰国経済ニ於テ大東亜戦争ノ完遂上必要ナル事項並ニ大東亜経済ノ根幹ニ関連アル事項ニ付テハ実質的ニ於テ指導及把握ス
之ガ為財政金融、産業、交通、交易等主要項目ニ付指導措置ヲ定ム
尚泰国経済ノ自主性確立ニ対スル要望ヲ考慮シ泰国民ノ発意ハ出来得ル限リ之ヲ尊重ス
二、泰国経済ノ指導統制ヲ容易ナラシムル為日泰経済混合委員会ノ設置其ノ他ノ方法ヲ講ズ
三、泰国ニ於ケル第三国ノ経済活動ハ我方ノ方針ニ同順セシムルモノトシ第三国ノ新ナル特殊経済権益ハ之ヲ設定セシメザルヨウ措置ス
四、本施策ハ爾他ノ南方諸地域ニ於ケル経済施策ニ密ニ連繋セシムルガ如ク措置ス

第三、指導措置
一、財政金融
(イ)泰国財政ノ重点ハ差当リ大東亜戦争遂行上必要ナル戦力ノ増大ニ置カシムルヤウ指導スルト共ニ大東亜ノ総合財政機能ノ暢達ヲ目途トシ応能協力ノ実ヲ挙クルヤウ泰国財政ノ基礎確立及発展ヲ図ル
(ロ)関税ニ関シテハ大東亜計画交易ノ円滑ナル遂行上遺憾ナカラシムルガ如ク指導ス
(ハ)通貨、金融ニ関シテハ大東亜金融圏ノ一環トシテ皇国トノ金融的結合関係ヲ強固且有機的ナラシムルヤウ指導スルモノトシ之ガ為中央銀行ノ設立ヲ促進スルト共ニ物価統制ハ為替管理等ヲ強力ニ実施セシメ通貨価値ノ安定ヲ図ラシム
(ニ)本邦ノ泰国ニ泰スル金融指導力ノ確立ニ資スル為本邦側金融機関並ニ保険会社ノ統制アル積極的進出ヲ期ス
二、交通
(イ)差当リ左記事項ニ付之ガ指導並ニ援助ヲ与フ
1 海上輸送力ノ拡充整備、殊ニ既ニ設立セラレタル日泰合弁海運会社ヲ泰国唯一ノ船舶会社タラシムルガ如ク指導強化ス
2 輸送力ノ増強並ニ貨物消化力ノ増大ノ為荷役諸施設ノ拡充
3 必要ニ応ジ幹線鉄道特ニ泰仏印連絡鉄道ノ整備拡充並ニ盤谷港ノ築港
(ロ)左記事項ニ付テハ諸般ノ状況ヲ勘案シ必要ニ応ジ之ガ整備又ハ拡充ヲ図ルガ如ク指導援助
1 放送事業
2 通信事業
3 航空事業
4 気象観測
5 国内経済発展ノ為特ニ必要ナル道路其他土木事業
(ハ)国際交通事業ハ皇国ニ於テ原則トシテ之ヲ把握ス
三、産業
泰国ノ産業指導ニ付テハ大東亜共栄圏ノ立地計画ニ即応シ泰国産業ノ特性ヲ遺憾ナク発揮セシムルヲ眼目トス
尚特ニ米ノ生産、精製等ニ関シ皇国ニ於テ逐次之ヲ指導乃至把握スルガ如ク措置ス
(一)資源
(イ)資源開発ニ当リテハ
(1)泰国ニ依存度比較的高キ大東亜共栄圏必需物資ノ確保
(2)大東亜共栄圏ニ於ケル不足物資ノ開発
ニ重点ヲ置キ差当リ左記物資ノ積極的増産ノ方法ヲ講ゼシム
1 農産資源 蓖麻子、綿花、黄麻
2 林産資源 松脂、漆、大風子、「スチツクラツク」、「ダマール」、「マングローブパーク」
3 畜産資源 牛皮、水牛皮、鹿皮
4 鉱産資源 「タングステン」鉱、「チタン」原鉱
(ロ)其他ノ国防重要資源ニ付テハ逐次之ガ資源調査ヲ実施ス
(ハ)左記特産物資ハ将来ニ於ケル該物資ノ世界商品的意義並ニ泰国経済ニ於ケル地位ヲ考慮シ新規用途ノ開拓、対枢軸向輸出等ノ措置ニ依リ極力之ガ減産ヲ避クルト共ニ之ガ企業ノ実権ノ第三国ニ移ルヲ防止ス
1 鉱産資源 錫
2 林産資源 「ゴム」「チーク」
(二)工業
(イ)船腹ノ節約、資源開発ノ付帯事業等ノ見地ヨリ現地ニ於テ加工、製造ヲ有利トスル工業ハ本邦ニ於ケル当該工業ト睨ミ合セ之ガ拡張又ハ新設ヲ図ル
(ロ)海上輸送力増強ノ為木造船製造工業ヲ新設又ハ拡張ス
(ハ)現地生活物資ノ生産ニ関スル現地企業及手工業ハ共栄圏ノ産業計画ニ反セザル限リ泰国ノ創意ニ任ジ皇国トシテハ当面ニ於テ必要ナル最少限度ニ於テ之ヲ援助ス
(ニ)各種企業ノ促進ノ為諸般ノ事情ヲ勘案シ適宜電力事業ノ開発ヲ図ル
(ホ)其ノ他拡張、新設ヲ必要トスベキ事業ニ付テハ緩急ノ順序ヲ勘案シ別途之ヲ策定ス
四、交易
(イ)皇国及共栄圏内他地域トノ重要物資ノ交易ニ付テハ予メ皇国ノ策定スル交流計画ニ則シ之ガ実行ヲ確保セシムルガ如ク措置スルト共ニ圏外交易ニ付テハ事前ニ我方ノ了解ヲ取付クルコトヲ要スルガ如ク指導ス
(ロ)泰国ヲシテ大東亜共栄圏必需物資特ニ米ノ供給ニ最善ヲ尽サシムルト共ニ泰ノ戦争遂行及国民生活維持ノ為絶対必要ナル物資ニ付テハ能フル限リ之ガ供給ヲ図ル
(ハ)(イ)(ロ)ノ実施ヲ確保スル為皇国ノ把握乃至指導ノ下ニ輸出入ノ管理ヲ行ハシムル他交易ノ円滑ナル運用ヲ期スル為本邦進出商社ノ競争ヲ防止スルヤウ措置スルト共ニ泰側商社ヲモ適宜現地機構ニ参加セシムルヤウ考慮ス
五、蒐貨配給
必需物資特ニ米ノ確保、消費物資配給ノ円滑化並ニ物価統制ノ見地ヨリ蒐貨配給機構ヲ整備ス
註(一)本施策要綱ハ昭和十七年九月二十八日ノ政府統帥部連絡会議ニ報告セラレタル処同会議ニ於テ
(イ)第一方針ノ冒頭ニ
『九月二十二日閣議ニ於テ了解ヲ得タル「対泰施策ニ関スル件」ニ基キ』ナル文句
(ロ)本施策要綱ノ末尾ニ備考トシテ
『本施策要綱ハ情勢ニ即応シ事ノ緩急ヲ計リ逐次之ヲ実施ニ移スモノトス』ナル文句ヲ追加セラル
(二)右追加ヲ附シタル儘同二十九日閣議報告ヲ見タリ