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勤労根本法制定準備委員会設置閣議説明

昭和18年5月?日 閣議説明

収載資料:資料日本現代史 7 神田文人 大月書店 1981.10 pp.396-397 当館請求記号:GB631-39

既ニ一月二十日生産増強勤労緊急対策要綱ニ於テ御決定頂キマシタ処ニ基キ近ク勤労法制ヲ根本的ニ刷新整備致スコトニナツテ居リマスガ、其ノ準備ノ為厚生省ニ官民ヨリナル委員会ヲ設ケ度イト存ジテ居リマス 就而ハ各位ノ絶大ナル御協力ヲ得タク此ニ御報告申上グル次第デアリマス 法制ノ内容ノ具体的ナコトハ勿論今後委員会等ニ依リ充分研究審議シテ決メテ参ルノデアリマスガ要ハ皇国本来ノ勤労観ニ基ク我国独自ノ勤労根本体制ノ確立ヲ目途トスルモノデアリマス 大体ノ趣旨ヲ申スト現在勤労関係ノ法規トシテハ工場法ヲ中心トシタ一連ノモノガアリ尚鉱夫ニツイテモ工場勤労者ト同趣旨ノモノガアリ、其ノ他ニ退職手当等ニ関スルモノ、健康保険等社会保険ニ関スルモノガアリマスガ要ハ旧来ノ自由主義経済下ノ労資対立ノ観念カラ出発シ弱者タル勤労者ニ対スル保護ト云フ国家トシテ最少限度ノ干渉ヲ試ミタ所謂社会立法ナノデアリマス 然ルニ戦時下勤労部門ニ於テモ旧来ノ如キ態度ヲ持スルコトハ到底出来ナクナリ国家総動員法ニ基キ各種ノ勤労関係ノ勅令ノ施行ヲ見テヰルノデアリマスガ、其ノ根本ノ勤労観念ヤ勤労関係ニツイテハ仍旧来ノ殻ヲ出ナイノデアリマシテ現下取敢エズ応急的措置ヲ講ジテヰルト云フ過程ニ在ルノデアリマス 然ルニ勤労ノ問題ハ国民全体ノ業務ノ再配置ニ迄進ミ単ニ従来ノ所謂労働者層ノ問題デナク国民全体ノ問題トナリ、生産力増強乃至国力ノ増強カラ云ツテ国民皆働ノ実現ニ必須ノ要請デアリ、而モ最高能率ノ発揚ガ企図セラレネバナラナイノデアリマシテ、厚生省ニ於テモ勤労配置ノ適正及勤労管理ノ徹底ニ極力努力致シテ居ルワケデアリマスガ乍然今ヤ単ナル掛声ヤ行政操作デハ国民勤労ノ最高度発揚ガ期待シ兼ネル段階ニ来テヰルト思ハレルノデアリマス 従ツテ此ノ際皇国本来ノ勤労観ヲ明徴ニシ其ノ勤労観ヨリ出夕勤労関係ヲ確立シ皇国本来ノ勤労体制ヲ樹立シ以テ国ノ全能力発揮ヲ期セネバナラナイト思フノデアリマス 法ノ内容ハ前述ノ通リ之カラ研究シテ参ルノデアリマスガ、大体皇国勤労観ニ基ク勤労関係ノ明確化、勤労規範ノ整備、勤労規律及秩序ノ確立、勤労条件ノ適正化教養訓練、表彰、懲戒制度ノ確立等ガ考ヘラレルノデアリマス
而シテ出来得ル限リ之等ノ内容ヲ一ツノ勤労根本法典ニ纏メ旧来ノ諸法規ヲ改廃整理致シタイト存ジテ居リマス 尚他面此ノ新法制ヲ運用スル勤労行政機構ノ整備モ併行シテ考慮シテ行カネバナラヌト考へテ居リマス
次ニ準備委員会ハ官民合同ノ構成トシ官庁ノ委員トシテハ関係各省次官ヲ入レ、民間カラハ各方面ノ有力者ヲ選ビ一応三十名ト云フコトニ致シテ居リマス
尚制定サレル法ノ性質ヨリ考ヘ、ナル可ク民間ノ意見ヲ充分ニクミ取リ之ヲ反映サセテ行ク様ニ致シ、官製臭ガ出来ルダケ出ナイ様ニ運営シテ行キタイ方針デ居リマス ソコデ本委員会ノ形式モ官制ニ依ル固苦シイモノニ致サナカツタノデアリマスガ法ノ性質上各省ト至大ノ関連ガアリマスノデ関係各省ノ充分ナル御協力ヲ切望スル次第デアリマス