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昭和18年度生産拡充計画ノ策定ニ関スル件

昭和18年5月3日 閣議決定

収載資料:国家総動員史 資料編 第2 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1975.8 pp.327-350 当館請求記号:AZ-668-5

本年度生産拡充計画ハ物資動員計画ト表裏一体ノ関係ニ於テ大東亜戦争ニ於ケル決定的勝利ノ開鍵タルニ鑑ミ帝国ヲ中核トスル大東亜資源ノ急速ナル戦力化ヲ意図シ且海陸輸送力ノ増強ト密接ナル関連ノ下ニ概ネ左ノ方針ニ則リ之ヲ策案シ国家ノ総力ヲ挙ゲテ所期ノ目標達成ニ邁進スルモノトス
第一 一般方針
一、本計画ハ其ノ重点ヲ鉄鋼、石炭、軽金属、船舶、航空機及之ニ関連スル重要国防産業ノ生産増強ニ指向スルト共ニ爾他ノ産業ニ付テモ均整アル生産規模ノ保持ニ努ム
二、現下物的戦力ノ増強ハ海上輸送力ノ増強又ハ補償ニ依拠スル所至大ナルモノアルニ鑑ミ船舶、車輌其ノ他海陸輸送施設ノ画期的増殖ニ努ムルト共ニ原料ノ賦存其ノ他ノ立地条件ヲ勘案シ海上輸送ニ依存セズ又ハ之ガ節約ヲ第一議トシ生産増強諸対策ノ樹立ニ努ム
三、内外地ニ於ケル産業整備ノ進捗ニ伴ヒ之ニ依リ遊休設備資材ノ有効転用及屑化ニ依リ生産力ノ応急的増強ヲ期ス
尚仕掛品ニ関シテハ速ニ実情調査ヲ為シ適当措置スルモノトス
四、現下ノ実情ニ即応シ別紙要領ニ依リ計画品目ヲ整理改訂シ重要国防産業及基礎産業ノ計画生産ヲ期ス
五、戦時下特ニ原材料ノ輸送、労力、動力等ノ確保其ノ他不測ノ障碍ノ生起等ニ対シテハ早期ニ其ノ実情ヲ把握シ以テ神速適切ナル措置ヲ講ズルモノトス
六、資材ノ不足ニ対シテハ配当鋼材特ニ限定品種ノ計画的入手方法ニ関シ別途速ニ之ガ具体策ヲ樹立スルト共ニ副資材中特ニ不足セルセメント、電気銅等ノ配当ニ付テハ速ニ之ガ調整ノ措置ヲ講ズルモノトス
七、戦時下空襲等不測ノ生産障碍ニ対処シ之ガ応急復旧ノ方途ニ関シ事前ノ対策樹立ニ努ム
第二 産業別要領
一、鉄鋼
イ 国内鉱石ノ急速増産及砂鉄ノ画期的利用ヲ促進スルト共ニ北中支、蒙彊、朝鮮、台湾等ニ於ケル小型溶鉱炉ノ大量且急速ナル建設及内地遊休溶鉱炉ノ北支移転ヲ敢行ス
ロ 内地溶鉱炉ニ付テハ瓦斯バランスノ保持、不測事態ノ突発等ヲ考慮シ極力之ガ操業ノ維持ニ努ム
ハ 船舶ノ増産、軍需ノ急増等ニ対処スル為厚板、筒管、線材等ノ限定品種ノ飛躍的増産ヲ強行ス
二、船舶
船腹増産ノ為戦時標準船型ノ整理、構造及□装ノ徹底的簡易化ニ依リ計画造船ヲ協力ニ促進シ以テ造船量ノ飛躍的増大ヲ図ル
三、石炭
海上輸送力ノ現状ニ鑑ミ原料炭、発生炉用炭並ニ近距離地域炭ノ増産ニ主力ヲ傾注スルト共ニ極力現地選炭ノ励行ニ努ム
四、軽金属
電源及原料炭ノ賦存状況ヲ勘案シアルミニウム及マグネシウムノ急速且画期的増産計画ヲ遂行スルト共ニ海上輸送力ノ節約及非常事態ニ対処スル為可及的礬土頁岩、明礬石等ノ国産原料ニ依ルアルミナノ生産□促進ス
右ニ関連シ電極、ピッチコークス、水晶石等之ガ附帯産業ノ強化ニ付併セ之ヲ考慮ス
五、電力
戦力増強上必須ナル軽金属、特殊鋼、航空機、造船等ノ急速ナル需要増ニ対処シ現ニ工事中ニ属スル設備ノ急遽完成ヲ期スルト共ニ戦時的建設方式ニ依ル発電力ノ応急的拡充方策ヲ講ズ
六、非鉄金属
金及錫工業ヲ整備シ之ニ依リテ生ズベキ設備労力等ノ優先的転用並ニ応急非常対策ニ依リ銅、鉛、亜鉛、アンチモニー等重要不足資源ノ増産ニ邁進ス
蛍石、水銀、石綿、雲母、黒鉛、硼砂等其ノ需要ノ緊急ニシテ自給力極小ナル物資ニ付テハ汎ク大東亜ニ亘リ極力之ガ探査開発又ハ生産ノ増進ヲ期ス
七、石油
国内原油ノ生産ハ極力之ヲ維持スルト共ニ南方運送原油ノ特質及高粘度潤滑油需給ノ現況ニ鑑ミ燃焼装置及潤滑油生産設備ノ緊急拡充ヲ行フ
人造石油事業ハB重油、潤滑油等ノ生産増強ヲ主トシ重点的整備ヲ行フト共ニ将来ニ於ケル増産ノ基礎ヲ確立ス
八、硫酸アンモニア
食糧増産確保ノ為極力其ノ生産ヲ維持スルト共ニ硝酸ノ増産及石炭ノ供給減ニ対処シ北海道工場ノ完成ヲ促進ス
九、工作機械及重要機械
航空機及船舶ノ増産ニ対応シ之ガ飛躍的増産ヲ強行ス
一〇、鉄道車輌及自動車
陸運非常体制ノ確立ニ対応スベキ鉄道車輌ノ急速増備ヲ行フト共ニ自動車ニ付テハ極力現有輸送力ノ確保ヲ図ルモノトス
一一、ソーダ
原料供給ノ不足ニ対処シ内地遊休工場ノ原料生産地ヘノ移設ヲ行フモノトス
一二、セメント
海上輸送力節約ノ為内地遊休工場ノ台湾移設ヲ行フト共ニ内地ニ於ケル其ノ需給極度ニ逼迫セルノ実情ニ鑑ミ別途速ニ之ガ生産ノ増強方策ヲ考慮ス

了解事項
一、 別表生産目標及地域別資材配当量ハ更ニ詳細検討ノ結果若干ノ修正アリ得ベキモノトス
二、 設備転用ニ依ル資材ノ増配ハ別途之ヲ定ムルモノトス
三、 計画品目ノ改訂ニ伴フ生産目標及資材配当表ノ加除訂正ハ第二、四半期以降(鋼材配当ニ付テハ第三、四半期以降)ニ於テ実行上別途措置スルモノトス

(別冊「昭和十八年度生産拡充計画」省略)