昭和18年度電力動員計画ニ関スル件

昭和18年5月3日 閣議決定

収載資料:国家総動員史 資料編 第2 石川準吉著 国家総動員史刊行会 1975.8 pp.353-377 当館請求記号:AZ-668-5

第一章 総則
第一 昭和十八年度電力動員計画ハ戦局進展ノ重大化ニ鑑ミ特ニ直接戦力ノ増強ヲ目途トシテ国家総動員諸計画及生産力拡充計画ト密接ナル連繋ノ下ニ之ヲ策定ス
本年度ニ於ケル電力ノ生産計画並ニ配当計画ハ別紙計画表ノ如ク之ヲ定ム
第二 電力需給ノ逼迫甚シキ現状ニ於テ更ニ当面ノ戦争遂行上必要トスル大量ノ新規需要ヲ充足スル為電力ノ生産配当並ニ消費ニ関シ特ニ左ノ事項ニ重点ヲ置キ適切ナル方策ヲ講ズ
一 軍需ニ対スル供給ヲ確保シ充足軍需及超重点産業ニ対シテハ計画生産ノ達成ヲ目途トシテ電力ノ供給ヲ確保スルト共ニ其ノ他ノ重要産業及国民戦時生活ノ維持ニ必要トスル電力ニ対シテハ供給力ノ限度ニ於テ優先的ニ之ヲ配当ス
二 現有電力ヲ動員シ重要物資ノ生産ヲ極力増強スル為豊水期間及深夜間ニ於ケル生産ヲ計画的ニ増強ス
三 当面ノ戦時需要充足ヲ目途トシテ協力ナル戦時的建設方式ヲ確立シ電力ノ緊急開発ヲ実施ス
四 工□鉱山及国民生活ノ全般ヲ通ジ電力使用ノ合理化ヲ徹底的ニ実施シ以テ供給力ノ増強ニ努ム
五 湖沼渓流ノ利用ヲ一層強化スルト共ニ電力系統ノ合理化ヲ促進シ電力損失ノ軽減ニ努ムル等現有電力施設ノ活用ヲ徹底的ニ強化シ供給力ノ緊急増強ヲ図ル
六 重要産業ニ対スル電力ノ供給ヲ確保シ且冬期ニ於ケル石炭需給ノ緩和ニ資スル為電気事業者ヲシテ計画貯炭ヲ実施セシム
七 電気料金制ヲ変更シ電力使用ノ合理化並ニ消費節減ノ徹底ヲ期ス
八 国内各地域並ニ各地区ニ於ケル電力ノ需給ヲ均衡化シ産業立地ト動力トノ総合調和ヲ図ル為新設工場ノ立地ニ規正ヲ加フ
九 緊急事態ニ対処シ電力ノ供給ヲ確保スル為電力施設ノ防衛電力ノ配給等ニ付万全ノ方策ヲ講ズ
十 電気事業並ニ之ガ運営上密接ナル関連ヲ有スル事業ノ動員体制ヲ整備ス
第三 本計画ノ円滑ナル実施ヲ図ル為所要物資労務及資金ヲ確保ス
第四 電力ノ主管官庁ハ別ニ定ムル所ニヨリ本綱領ニ基ク実施計画ヲ策定シ其ノ要領ヲ企画院ニ提出ス
前項ノ実施計画中重要事項ノ変更ヲ必要トスル場合ハ予メ企画院ニ連絡ノ上措置ス
第五 電力ノ主管官庁ハ別ニ定ムル所ニ依リ本綱領ニ基ク諸般ノ実績ヲ調査シ企画院ニ提出ス
第二章 電力ノ生産ニ関スル事項
第六 戦時緊急措置ノ充足ヲ目途トシテ電力ノ供給力ヲ応急ル為左ノ方策ヲ実施ス
一 戦時的建設方式ヲ確立シ建設速度ノ画期的向上ヲ図ルト共ニ極力重要資材ノ節減ニ努ム
二 冬季ニ於ケル電力需給ノ逼迫ヲ緩和スル為現ニ工事中ニ係ル水力発電所中早期完成ノ見込アルモノニ資材労務ヲ重点的ニ集中シ十八年末完成ヲ目途トシテ特段ノ措置ヲ講ズ
三 発電用炭需給ノ趨勢ニ鑑ミ石炭ニ対スル依存性ヲ脱却セル動力体制ヲ確立ス
四 既設送配電設備ノ整理改廃ヲ行ヒ資材機器等ノ回収ニ努ムルト共ニ利用度低キ施設ノ転用ヲ強力ニ実施ス
第七 現有電力施設ノ活用ニヨリ電力供給力ヲ緊急増強スル為左ノ措置ヲ講ズ
一 湖沼ノ利用、渓流ノ取入及堰堤ノ嵩上ゲ等ヲ一層強化シ水力供給力ヲ本年度冬季ヲ目標トシテ計画的ニ増強ス
二 水車能率ノ向上、水路ノ改善等ヲ促進シ現有電力施設中特ニ水力発電所ノ改善ニ努ム
三 火力発電所ノ補修及改善ハ産炭地域阪神地域等ノ主要火力発電ニ主力ヲ集中シ電力供給力ノ重点的増強□□ス
四 電力潮流ノ是正□相装置ノ施設位置ノ調整電圧ノ上昇等電力系統ノ合理化ヲ促進シ電力損失ノ軽減ニ努ム
第八 電力設備ノ総合機能ノ発揮ヲ期スル為自家用電気施設ニ関シ左ノ措置ヲ講ズ
一 自家用電気施設者ヲシテ別紙計画表ノ電力生産ノ完遂ヲ図ラシムルト共ニ之ガ為必要ナル発電用炭ノ取得ニ関シ万全ノ措置ヲ講ズ
二 自家用電力施設ニ対スル統制ヲ強化シ電気供給事業用施設トノ一元的運用態勢ヲ強化シ以テ動力資源ノ合理的運用ヲ期ス
第九 現有火力発電力ノ維持向上ヲ図ル為適正炭ノ確保ニ努ムルト共ニ非適正炭ノ消化ヲ容易ナラシムル為火力発電所ノ設備ヲ重点的ニ改良ス
第十 火力発電所ニ於ケル貯蔵激減ノ現状並ニ冬季ニ於ケル発電用炭ノ消費増加ノ趨勢ニ鑑ミ本年十二月末ニ至ル期間ニ於テ計画貯炭ヲ実施スル為左ノ措置ヲ講ズ
一 貯炭目標ヲ左ノ通トス
本州  八七万瓲
四国  一〇万瓲
九州   八万瓲
二 右ノ計画貯炭ヲ実施スル為生産ニ直接ノ関連ヲ有セザル電力需要ニ対シテハ年間ヲ通ジ電力制限ヲ実施シ極力石炭消費ノ抑制ニ努ム
三 貯炭目標ノ確保ヲ目途トシテ計画的ニ入炭ヲ持続セシムル為関係各庁並ニ会社間ニ於テ常時緊密ナル連繋ヲ保持シ得ル如ク措置ス
第三章 電力ノ配当並ニ消費ニ鑑スル事項
第十一 電力ノ配当ニ当リテハ左ノ方針ニヨリ措置スルト共ニ工場、事業場毎ニ箇別的重点配当ヲ実施ス
一 軍需ニ対シテハ電力ノ供給ヲ確保ス
二 左ノ需要ニ対シテハ計画生産ノ達成ヲ目途トシテ電力ノ供給ヲ確保ス
(イ) 充足軍需
(ロ) 鉄鋼石炭軽金属船舶及航空機ノ生産ノ為必要トスル電力
(ハ) 主要食糧生産ノ為必要トスル電力
三 左ノ需要ニ対シテハ供給力ノ限度ニ於テ優先的ニ電力ヲ配当ス
(イ) 前項(ロ)以外ノ計画産業ニ於テ生産ノ為必要トスル電力
(ロ) 交通用電力
(ハ) 公共用電力
(ニ) 国民戦時生活維持ノ為必要トスル電力
(ホ) 軍需及計画産業ト密接ナル関係アル一般産業ニ於テ重要物資ノ生産ノ為必要トスル電力
四 其ノ他ノ需要ニ対シテハ極力之ヲ圧縮ス
第十二 新規需要ニシ対シテハ前項ノ方針ニヨリ厳選ノ上配当ヲ決定スルノ外左ノ如ク措置ス
一 工場ノ新増設ハ予メ電力供給ノ可能性ヲ確認ノ上計画セシムルト共ニ常ニ電力ノ開発計画ト密接ナル連繋ヲ保持スル如ク措置シ極力生産計画ト動力計画トノ跛行ノ是正ニ努ム
二 緊要ナル新規需要ニ対シテハ施設ノ拡充ニヨルモノノ外湖□□流等ノ利用強化電力使用の合理化等ニヨル増加供給力及企業整備ニ伴フ需要ノ減退ニ対応スル供給力ヲ動員シ極力其ノ充実ニ努ム
第十三 現有電力ノ動員ニヨル重要物資ノ生産増強ヲ目途トシ豊水期間及深夜間ニ於ケル生産ヲ計画的ニ増強ス
之ガ為左ノ措置ヲ講ズ
一 原材料ノ配当輸送ノ確保労務ノ充足ニ付特段ノ措置ヲ講ズ
二 電気料金ヲ季節的時間的ニ調整ス
三 計画生産目標ニ到達セル企業並ニ其ノ従業員ニ対シ□□□措置ヲ講ズ
四 機器ノ補修施設ノ改善等ハ計画的ニ渇水期間ニ於テ之ヲ励行セシム
第十四 計画生産体制ニ即応シ所要ノ電力ヲ配当スル為既往ノ実績ヲ基準トスル配当方式ヲ是正シ工場別ニ計画生産ヲ基準トシテ電力ノ消費限度ヲ定ム
右目的ノ達成ヲ容易ナラシムル為要スレバ関係法令ヲ改正ス
第十五 電力消費ノ節約ト其ノ合理化ヲ強化徹底シ以テ電力供給力ノ緊急増強ヲ期スル為左ノ措置ヲ講ズ
一 国民的電力献納運動ヲ展開シ法令ニヨル規正ニヨルノ外電力消費ノ全般ニ亘リ極力其ノ縮小ニ努ム
二 電力ノ合理的使用ヲ徹底スル為産業別ニ標準電力使用量ヲ設定シ企業担当ヲシテ積極的ニ之ヲ遵守セシム
三 電力消費ノ節減ト其ノ合理化ニ関シ各般ノ指導的措置ヲ講ズルト共ニ生産ニ支障ナキ限度ニ於テ極力契約電力ノ圧縮ニ努ム
第十六 電力需給逼迫ノ程度ニ応ジ直チニ之ニ即応スル消費規正ヲ実施シ得ル如ク常ニ其ノ態勢ヲ整備ス
第十七 電灯及小口電力需要ニ対シテハ其ノ使用目的ニ応ジ左ノ措置ヲ講ジ消費規正ノ徹底ヲ期スルト共ニ国民戦時生活ノ実体ニ即応セシム
一 家庭用電灯及電力需要ニ対シテハ国民生活ノ必需タル性質ニ鑑ミ家族員数ヲモ考慮ニ加ヘタル適当ナル使用標準ヲ定メ消費規正ノ強化ヲ図ルト共ニ国民戦時生活上真ニ緊要ト認ムルモノニ対シテハ実情ニ即シ特配ヲ為ス等適切ナル措置ヲ講ズ
二 定額電灯需要家ヲシテ電力ノ消費規正ニ協力セシムル為低圧電球ノ使用、不用灯ノ消灯励行等適切ナル措置ヲ講ズ
三 医療用電灯並ニ電力需要ニ対シテハ其ノ供給ヲ確保ス
四 事務所用、工場用及学校用電灯需要ニ対シテハ作業能率及保健等ヲ考慮ノ上適当ナル使用標準ヲ定メ之ヲ遵守セシム
五 営業用電灯及電力特ニ奢侈的需要ニ対シテハ徹底的ニ其ノ消費規正ヲ強化ス
六 自家用電気施設者ニ対シテモ一般需用者ト同一ノ基準ニヨリ消費規正ヲ厳ニ励行セシム
七 電灯及小口電力ノ消費規正ヲ徹底スル為所定ノ標準使用量ヲ超過スルモノニ対シ特別料金制ヲ適用ス
第十八 電力消費規正ノ実施ニ当リテハ需要区分ニ再検討ヲ加ヘ本動員計画ノ方針ニ則リ必要ナル改正ヲ行フ
第四章 電力ノ供給確保ニ関スル事項
第十九 軍需、充足軍需及超重点産業ニ対スル電力ノ供給ヲ確保スル為左ノ措置ヲ講ズ
一 異常渇水ニ際会シ甚シク電力需給ノ均衡ヲ失スル虞アル場合ニ於テハ右ノ超重点需要ニ対スル電力ノ供給ヲ確保スル為発電用炭ノ補給ニ付緊急措置ヲ講ズ
二 異常渇水其ノ他非常事態ノ発生ニ際シテモ周波数又ハ電極ノ低下等ヲ極力防止シ超重点需要ニ対スル電力ノ供給ニ遺憾ナカラシム
三 軽金属ノ生産ヲ確保スル為必要アル場合ハ特殊電力ノ需給契約ヲ常時電力ノ需給契約変更セシム
第二十 主要電力設備ニ対シ防空並ニ防衛ノ態勢ヲ一層強化スルト共ニ常‐電力ノ配給並ニ電力設備防衛ノ演練ニ努ム
第二十一 電力需給ノ趨勢並ニ動力資源ノ賦存状態ニ鑑ミ内地ニ於ケル産業ノ立地ヲ左ノ如ク規正ス
一 電力需給ノ逼迫甚シキ現状ニ於テ更ニ大東亜戦争遂行上緊急日本内地ニ立地セシムベキ重点産業ノ電力需要ヲ充足スル為電力消費ノ節減ヲ目途トシテ生産方式ノ転換ヲ行ハシムルト共ニ要スレバ其ノ一部ヲ電力需給上比較的余裕ヲ有スル地域ニ移駐ス
二 電気化学工業等電力ノ大量消費産業ノ内地ニ於ケル新建設ハ極力之ヲ抑制ス
三 発電用炭需給ノ趨勢ニ鑑ミ近畿中国四国地方ニ於テハ軍需産業及地下資源開発産業ヲ除ク外極力其ノ立地ヲ規正ス
第二十二 電力施設ハ其ノ整備ニ特ニ長期ノ年月ヲ要スル特質ニ鑑ミ長期ニ亘ル施設設備計画ヲ樹立シ電力需給ノ跛行ノ是正ニ努ム
第五章 電力動員態勢ノ整備ニ関スル事項
第二十三 大東亜ヲ通ズル電力動員ノ基底ヲ培養シ特ニ中核地域ニ於ケル電力動員機能ヲ強化スル為真ニ現下ノ実情ニ即応セル適切ナル周波数統一実施計画ヲ樹立シ逐次之ガ実現ヲ期シ得ル如ク準備ス
第二十四 電気工事業ノ整備ヲ促進シ配電事業ノ運営ニ協力セシム
電気工事業ノ整備ニ当リテハ其ノ特殊性ニ鑑ミ特ニ経営能率ノ向上ヲ期シ得ル如キ体制トス
第二十五 台湾ニ在リテハ電力動員体制ヲ強化スル為左ノ措置ヲ講ズ
一 電気事業態勢ヲ統制強化シ電力ノ建設並ニ運用ニ於ケル諸般ノ国家的□□ニ応ヘシム
二 東西連絡送電線路ノ建設準備ヲ進メ不定時電力ノ効果的利用ヲ図ルト共ニ電力動員能力ノ増強ヲ期ス
第二十六 樺太ニ於テハ電気供給事業ノ育成強化ヲ図リ□ニ重要地□間ニ於ケル送電連絡ノ強化ニ付準備ス
第二十七 鴨緑江水系発電所ノ運用ニ付テハ鮮万地域ニ於ケル当面ノ産業計画ノ遂行ト電力需給ノ実情ニ即応シ総合的観点ヨリ合理的ニ之ヲ行フ

(「昭和十八年度電力動員計画表」省略)