戦力増強企業整備基本要綱

昭和18年6月1日 閣議決定(別冊六は6月8日に修正)

収載資料:国立公文書館所蔵公文別録 89 ゆまに書房 1997.5 120-162 当館請求記号:YC-98

第一 方針
一、大東亜戦争ノ現段階ニ対処シテ戦争ノ完遂ヲ確固不抜ナラシムル為国民戦時生活ノ確保ヲ期シツツ皇国ノ総合戦力就中直接戦力ヲ急速且最高度ニ増強スル目的ヲ以テ従来ノ企業整備ノ趣旨ヲ拡充シ新ナル構想ノ下ニ企業整備ヲ実施スルモノトス
二、企業整備ニ当リテハ左ノ各号ニ重点ヲ指向スルモノトス
(一)戦争遂行上必要ナル生産力ヲ軍需其ノ他ノ重点部門ヘ計画的ニ転活用シ之ヲ挙ゲテ戦力化スル為産業ノ各部門ニ於ケル各種生産要素ヲ集約スルト共ニ之ガ最大効率ヲ発揮セシムル体制ヲ整備スルコト
(二)戦争ノ進展ニ伴ヒ愈々拡充ヲ要スル部門ニ於テハ前号ノ外特ニ企業系列ノ整備強化、生産機能ノ刷新向上等ヲ図リ其ノ生産性ヲ最大限ニ昂揚セシムルコト
三、企業整備ニ当リテハ本整備ヲ通ジテ国民士気ノ昂揚ヲ図ルト共ニ戦時財政経済ノ全体的運営ニ支障ヲ生ゼシメザルハ勿論進ンデ之ガ活発強力ナル運営ヲ期スルモノトス
第二 要領
一、工業部門ノ整備
(一)方針二、ノ(一)ニ基キ総合戦力増強上必要トスル労務ノ供出、金属類ノ回収又ハ工場及設備ノ転用ニ寄与スルコト大ナル工業部門(第一種工業部門ト称ス)ノ整備ハ積極的ニ之ヲ推進セシム
本部門ノ整備ハ各工場ニ付左ノ各号ノ区分ヲ為シ所要ノ措置ヲ講ズルニ依リ之ヲ実施ス
イ、操業工場 戦争遂行並ニ国民戦時生活確保上必要限度ノ生産力ヲ維持スル為一定数ノ工場ヲ選択シ之ニ生産ヲ集中ス
ロ、保有工場 空襲其ノ他災害、物資需給関係ノ変動等ニ備ヘ又将来ニ於ケル他地域ヘノ移設ノ必要ヲ考慮シ操業工場ノ外或ル程度ノ設備ヲ存置保有ス
ハ、転用工場 軍需其ノ他ノ重点部門ヘノ転用ニ適スルモノハ可能ナル限リ転用ヲ行フ
ニ、廃止工場 爾余ノ工場ハ之ヲ廃止ス
本部門ノ整備ニ関シテハ労務ノ配置転換、金属類ノ回収又ハ工場及設備ノ転用ニ付要スレバ法令ヲ発動ス
本部門ニ該当スル業種及其ノ実施要領ハ別冊第一「企業整備(第一種工業部門)措置要綱」ニ依ル
(二)航空機又ハ兵器ノ製造、造船其ノ他ノ軍需重工業、機械工業、液体燃料工業並ニ之等ニ必要ナル重要素材工業等(第二種工業部門ト称ス)ニ於テハ主トシテ方針二、ノ(二)ニ基ク整備ヲ行フモノトシ其ノ実施ニ関スル要綱ハ別ニ之ヲ策定ス
(註) 第二種工業部門ニ関スル金属類回収ニ関シテハ別ニ定ムル回収量ヲ目標トシテ工場規模ノ大小、業種ノ如何ヲ問ハズ劣悪ナル設備、遊休セル設備等ノ回収ヲ図ル
(三)第一種工業部門及第二種工業部門以外ノ工業部門(第三種工業部門ト称ス)ノ整備ニ関シテハ実情ニ即スル指導勧奨ニ依リ之ヲ実施ス
但シ金属類ノ回収ニ関シテハ要スレバ法令ヲ発動ス
二、配給部門ノ整備
(一)工業部門ノ整備ニ即応シテ原材料、資材及製品ノ配給部門ニ関シテモ之ガ機能発揮ヲ強化スル為所要ノ調整改善ヲ加フ
(二)小売業ノ整備ニ関シテハ別冊第二「小売業ノ整備ニ関スル件」ニ基キ之ガ適切且円滑ナル実施ヲ図ル
三、転用及回収ノ措置
整備ノ実施ニ当リテハ工場及設備ノ転用並ニ金属類ノ回収ヲ計画的ニ行フモノトシ需要ノ緩急ヲ考慮シツツ計画量ノ確保ヲ図ル
第一種工業部門ニ属スル工場及設備ノ計画的転用ニ関シテハ別冊第三「企業整備ニ伴フ工場等ノ転用ニ関スル措置要綱」ニ依ル
四、従業者等ノ措置
転廃業者及廃休止企業ノ従業者ハ其ノ技能経験ヲ活用シ得ル如ク考慮シツツ之ヲ軍需其ノ他ノ重点部門ニ計画的ニ配置転換ヲ行フモノトシ積極的ニ指導斡旋ニ努メ之ガ企画実施ニ付テハ特ニ其ノ敏速適確ヲ期スルモノトス
応召入営中ノ者及其ノ家族等ニ関シテハ特別ノ考慮ヲ払フモノトス
転廃業者及廃休止企業ノ従業者ニ対シテハ必要ニ応ジ国家ノ負担ニ於テ生活援護、錬成又ハ予備配置等ノ措置ヲ講ズ
尚転廃業者及廃休止企業ノ従業者ノ措置ニ付テハ別冊第四「企業整備ニ伴フ従業者措置要綱」ニ依ル
五、企業整備ニ伴フ転廃業者ノ資産評価、共助金等ノ措置
共助金ニ関スル従来ノ観念ヲ改メ透徹セル決戦意識ニ基ク共助施設ヲ講ズルモノトス
当該業者又ハ其ノ残存業者ノ団体又ハ統合体ガ転廃業者ニ対シテ交付スル実績補償ノ共助金ハ従来ノ例ニ比シ著シク差等ヲ生ゼシメザル考慮ヲ払フト共ニ残存業者ノ負担能力ノ限度ニ於テ之ヲ交付スルコトトシ生活援護ノ共助金ニ付テハ必要ニ応ジ国家ヨリノ補助ノ増額ヲ考慮ス
転廃業者ニ付テハ其ノ申出ヲ考慮シ営業権的価値ヲ加味セル現行評価基準ニ依リ其ノ営業資産ヲ国民更生金庫又ハ産業設備営団ヲシテ引受ケ又ハ買取ラシム此ノ場合ニハ実績補償ノ共助金トノ関係ヲ斟酌ス
尚企業整備ニ伴フ転廃業者ノ資産評価、共助金等ニ関スル措置ニ付テハ別冊第五「企業整備ニ伴フ共助金等措置要綱」ニ依ル
六、財政金融措置
企業整備ニ関シ必要ナル資金ノ供給ハ迅速円滑ナラシムルト共ニ産業設備営団、国民更生金庫ニ対スル損失補償、設備ノ保有ニ関スル補助金、転廃業関係者ニ対スル補助金、地方財政ニ対スル援助等ニ関シ実情ニ即シ適当財政負担ノ措置ヲ講ズ
企業整備ニ伴フ放出資金ノ浮動化防止、債権債務ノ処理、会社経理、株価ノ激動防止等ニ関シ戦時財政経済ノ全体的運営ニ支障ヲ生ゼシメザル為万全ノ対策ヲ講ズルモノトシ資金ノ浮動化防止其ノ他ニ関シテハ所要ノ立法ヲ為ス
尚財政金融ニ関スル措置ニ付テハ別冊第六「企業整備ニ伴フ財政金融措置要綱」ニ依ル

外地ニ於テモ本要綱ニ依リ企業整備ヲ行フモ其ノ特殊事情ハ之ヲ考慮ス

諒解事項
一、企業整備ニ関スル各所管省ノ措置ノ大綱ニ付テハ本要綱ノ「方針」ノ具現ニ遺憾ナカラシムル為企画院ニ於テ必要ナル連絡調整ヲ行フモノトス
二、整備ハ極力速ニ之ヲ実施スルモノトシ其ノ時期ハ各業種ノ実情ニ応ジ之ヲ定ムルモ同一業種ニ付テハ各地域ヲ通ジ可及的斉一ナラシムル如ク措置ス
三、整備ニ関シテハ煩雑煩瑣ナル施策ニ堕シテ之ガ急速ナル遂行ニ支障ヲ来サシメザルノ考慮ヲ払フモノトス
四、工業部門及配給部門以外ノ部門ニ関シテハ整備ノ必要ニ応ジ別途之ヲ企画実施スルモノトス

別冊第一
企業整備(第一種工業部門)措置要綱
戦力増強企業整備基本要綱ニ依ル第一種工業部門ノ整備ハ左ニ依リ之ヲ実施スルスモノトス

第一 業種別計画要領
一、別表ニ掲グル第一種工業部門ニ属スル工場ノ操業、保有、転用又ハ廃止ノ区分決定基準ニ関シテハ業種、業態ノ実情ニ応ジ左ノ各号ニ依ル
(一)戦争遂行並ニ国民戦時生活確保上必要限度ノ生産力ヲ維持スルコト
(二)軍需其ノ他ノ重点部門ヘノ転用ニ適スルモノハ可能ナル限リ転用ヲ行フコト
尚保有工場ノ範囲ハ転用ノ要度ニ依リ適宜之ヲ縮減スルモノトスルコト
(三)陸海軍利用工場ニ付テモ検討ヲ加ヘ相当程度発注ノ集中又ハ利用ノ転換ヲ行ヒ整備ノ趣旨達成ニ努ムルコト之ガ為要スレバ一定ノ猶予期間ヲ置キ廃休止工場トスルモノトスルコト
(四)物資動員計画ニ定ムル屑鉄回収及転用ヲ確保スルコト
(五)工場ノ物的設備ノミニ着目スルコトナク力メテ資本、労務、経営トノ有機的一体トシテ之ヲ整備ノ対象タラシムルコト
(六)前各号ノ要請ニ基キ特ニ他産業部門トノ関連ヲ考慮シ必ズシモ優秀工場又ハ大工場ニ操業ヲ集中スルコトナク整備後ニ於ケル各産業ノ有機的機能ノ発揮等ニ適合セシムルガ如クスルコト
(七)前各号ノ外設備ノ内容、能率ノ良否及燃料、動力、輸送、防空等ノ立地条件ヲ総合勘案スルコト
二、各所管省ニ於テ措置スベキモノハ別表第一ノ業種トシ操業工場、保有工場及転用工場ハ各省ニ於テ之ヲ決定ス
三、各所管省及地方長官ノ双方ニ於テ措置スベキモノハ別表第二ノ業種トシ各省ニ於テ措置スベキモノハ二、ノ要領ニ依リ地方長官ニ於テ措置スベキモノハ四、ノ要領ニ依ル
四、地方長官ニ於テ措置スベキモノハ別表第三ノ業種トシ各道府県ニ於ケル操業設備能力及保有設備能力ノ全設備能力ニ対スル割合ハ各省之ヲ定メ所要ノ事項ト共ニ地方長官ニ指示スルモノトシ地方長官ハ其ノ範囲内ニ於テ道府県ニ於テ設置スル委員会ノ意見ヲ徴シ管下工場ヨリ操業工場、保有工場及転用工場ヲ選定ス
五、各省及地方長官前各号ノ措置ヲ為スニ当リテハ必要ニ応ジ関係各庁ト連絡ヲ為スト共ニ統制会及業者団体ヲ適宜活用スルモノトス
六、原材料、資材、動力、労務、資金等ノ生産諸要素ノ割当供給並ニ発註ノ統制ニ付テハ整備ノ計画ニ即セシムルト共ニ之ニ依リ整備ヲ促進ス
第二 操業工場及保有工場ニ関スル措置
一、操業工場ニ於テハ努メテ高操業率ヲ保持セシムルモノトス但シ中小規模工場ヲ以テ組成スル業種等ニ在リテハ操業工場ノ生産力ニ若干ノ余裕ヲ保タシムル如ク考慮ス
操業工場ニ付テモ各業種ノ実情ニ応ジ生産機能ノ刷新向上其ノ他ノ措置ヲ講ジ生産性ヲ昂揚ス
二、地方長官ニ於テ操業工場及保有工場ノ選定ヲ為スニ当リテハ第三ニ定ムル所ニ依リ予メ軍需其ノ他ノ重点部門ヘ転換利用スベキ工場ヲ想定シ之ヲ除キタルモノノ中ヨリ選定スルコトトシ此ノ場合規模ノ比較的大ナル工場ノミヲ選定スルコトナク特ニ労務等ノ有効利用ニ留意ス
三、保有工場ハ極力当該業者又ハ其ノ団体若ハ統合体ノ自力ニ依リ之ヲ保有セシメ要スレバ各所管省ノ指示ニ依リ産業設備営団ヲシテ之ヲ買受保有セシム
前項ニ依ル保有ニ要スル費用(金利ヲ含ム)ニ付テハ状況ニ応ジ其ノ一部又ハ全部ヲ政府ヨリ補助ス
四、操業工場ヘノ生産ノ集中及保有工場ニ於ケル設備ノ保有ヲ容易ナラシムル為必要ニ応ジ業種、業態ニ即応シ共同計算ヲ実施セシム
第三 工場及設備ノ転用又ハ供出ニ関スル措置
一、操業工場及保有工場以外ノ工場及其ノ設備ハ之ヲ転用又ハ供出屑化セシム但シ特ニ優秀ナル設備ハ之ヲ操業工場又ハ保有工場ノ設備ト入替フル等適当ナル措置ヲ講ズ
二、中小企業ノ多数存スル地方ニ於ケル工場ノ転用ニ関シテハ適当ナル工場ヲ中核トシ之ニ数個ノ中小工場ヲ従属セシメ之ヲ一体トシテ利用セシムルガ如ク努ムルモノトシ之ガ実施ニ関シ必要ナル事項ハ関係各庁協議決定ノ上地方長官ニ指示ス
備考
一、各業種ニ付工場ノ操業、保有、転用及廃止ノ割合及供出屑鉄量ハ別ニ之ヲ定ムルコト
二、中小工業ニ関シテハ本要綱ニ依ルノ外昭和十七年八月十一日閣議決定「中小工業ノ整備ニ関スル件」ニ依ルコト
三、第一種工業部門ニ属スル事業ノ設備拡張ニ付テハ本整備ノ趣旨ニ即応シ検討ノ上措置スルコト

別表
第一種工業部門ニ属スルモノ左ノ如シ但シ特ニ必要ト認ムルトキハ関係各庁ノ協議ニ依リ追加補正ヲ為スコトアルモノトス
第一 各所管省ニ於テ措置スベキモノ
綿スフ紡績業      スフ製造業
スフ専紡績業      油糸紡績業
梳毛紡績業       製紙パルプ製造業
紡毛紡績業       人絹パルプ製造業
絹糸紡績業       綿漁網製造業
人絹製造業

鉄鋼生産業       非鉄金属圧延業
電線製造業       其ノ他ノ非鉄金属加工業
硫酸生産業       硬化油生産業
ア法曹達工業      写真感光材料生産業
無機工業薬品生産業   研削材製造業
タール系中間物生産業  耐火煉瓦製造業
カーバイド生産業    ゴム工業

廃油再製業       練炭製造業

燐寸製造業

葡萄糖製造業      グルタミン酸ソーダ製造業
精製糖業        器械製糸業
食料品壜缶詰製造業   繭短繊維製造業
水飴製造業       蚕種製造業

麦酒製造業

第二 各所管省及地方長官ノ双方ニ於テ措置スベキモノ
反毛工業        織物染色業
綿スフ織物製造業    繊維雑品染色業
毛織物製造業      繊維第二次製品製造業
絹人絹織物製造業    製網製網業
麻織物製造業      製紙業
撚糸製造業       印刷業
ガラ紡績業
軽金属加工業      鉄鋼第二次製品製造業ノ一部

セメント製品製造業(一部ヲ除ク) 合成樹脂製造業
苦汁製品生産業     合成樹脂加工業
石鹸製造業       脂肪酸生産業
塗料製造業

油脂製造業       菓子製造業
製粉業         清涼飲料製造業
第三 地方長官ニ於テ措置スベキモノ
鉄鋼第二次製品製造業ノ一部

別冊第二
小売業ノ整備ニ関スル件
昭和十八年度ニ於ケル小売業ノ整備ハ昭和十七年四月二十一日閣議決定「小売業ノ整備ニ関スル件」ニ基キ之ヲ行フモノトス但シ第一次指定業種ニシテ既ニ整備ヲ完了シタルモノノ残存業者又ハ第二次以降ニ計画的整備ヲ実施セザル業種ノ業者ニシテ相当機関其ノ業ニ従事シ自発的ニ時局重要産業ニ転業ヲ申シ出デタルモノニ付テハ地方官庁ノ指導斡旋ヲ受ケタル場合ハ生活援護ノ共助金ノ交付、国民更生金庫ノ利用等ヲ為サシムル様考慮スルモノトス
備考
接客業者ニ付テハ別途策定スルモノトシ生活援護ノ共助金ノ交付、国民更生金庫ノ利用等ニ関シテハ小売業整備ノ取扱ニ準ズルモノトス

別冊第三
企業整備ニ伴フ工場等転用ニ関スル措置要綱
企業整備ニ伴ヒ第一種工業部門ニ於テ廃休止スベキ工場、事業場又ハ機械器具等ニシテ軍需其ノ他ノ重点部門ヘ転用スルモノニ付テハ左記ニ依リ措置スルモノトス

第一 通則
一、転用(譲渡、賃貸、出資又ハ自家使用ヲ謂フ以下同ジ)スベキ物件ヲ左ノ二種ニ分ツ
(一)転用工場 工場又ハ事業場ニ於ケル土地及建家トシ金属設備ニ属スルモノヲ含マズ
(二)金属設備 工場又ハ事業場ニ於ケル機械器具及金属ヲ主体トスル工作物等ニシテ金属類回収令ニ依ル回収ノ対象タリ得ベキ種類ノ設備トス
二、転用工場タル建家及金属設備ニ包含セラルル鉄鋼量ハ物資動員計画ニ於ケル鉄鋼配当量(転用分)ヨリ之ヲ控除スルモノトス
三、転用工場及金属設備ノ代価支払ニ関シテハ之ガ浮動資金化スルコトナカラシムル為「企業整備ニ伴フ財政金融措置要綱」ニ依リ適切ナル措置ヲ講ズルモノトス
第二 金属設備ニ関スル措置要領
一、金属設備ノ計画的転用ヲ確保スル為之ガ転用ニ関シ法令ニ依ル規制ヲ実施スルモノトス
二、金属設備ニシテ左ノ各号ニ該当スルモノヲ供出設備トス
(一)産業設備営団、重要物資管理営団若ハ国民更生金庫ニ譲渡セラレタル設備又ハ之等ノ機関ニ対シ譲渡ノ申込若処分ノ委託アリタル設備
(二)前号ノ機関ニ供出スベキコトニ行政官庁又ハ統制団体ニ於テ決定ノ上通知アリタル設備
三、供出設備ハ商工大臣ノ発行スル転用証明書ト引換フルニ非ザレバ之ヲ転用スルコトヲ得ザルモノトス但シ左ノ各号ニ該当スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
(一)産業設備営団、重要物資管理営団又ハ国民更生金庫ニ譲渡スルトキ
(二)前号ノ機関ガ金属回収統制株式会社ニ譲渡スルトキ
四、転用証明書ノ交付ヲ受ケントスル者ハ商工大臣ニ之ヲ申請スルモノトス
前項ノ申請者ガ陸軍又ハ海軍ノ管理工場、監督工場又ハ之等ニ準ズル工場ナルトキハ前項ノ申請ハ陸軍省又ハ海軍省ヲ経由シテ之ヲ為スモノトス
転用ヲ受ケントスル者官庁ナルトキハ商工大臣ニ協議シ転用証明書ノ交付ヲ受クルモノトス
五、商工大臣ハ四ノ申請又ハ協議アリタルトキハ別ニ定ムル転用協議会ニ之ヲ付議スルモノトス
転用協議会ニ於テ転用スベキコトニ決定セルモノニ付テハ商工大臣ハ転用証明書ヲ発行シ之ヲ四ノ申請者又ハ協議官庁ニ交付スルモノトス
六、金属設備ニシテ二ノ供出設備ニ非ザルモノハ商工大臣ノ許可ヲ受クルニ非ザレバ之ヲ転用スルコトヲ得ザルモノトス但シ別ニ定ムルモノハ此ノ限ニ在ラズ
前項ノ許可ノ申請ニ付テハ四及五ヲ準用ス
商工大臣第一項ノ許可ヲ為シタルトキハ当該設備ノ転用ヲ受クル者ニ対シ転用証明書ヲ交付スルモノトス
七、金属設備ノ転用ノ場合ニ於ケル価格及賃貸料ハ政府等ノ決定スル評価基準ニ依ルモノトス
転用ノ方式及価格又ハ賃貸料以外ノ転用条件ハ当事者間ノ協議ニ依ルモノトス
八、当事者間ニ於テ協議調ハズ又ハ協議ヲ為スコト能ハザルトキハ商工大臣ハ必要ナル決定ヲ為スモノトス
九、前記ノ各措置ヲ確保スル為金属類回収令ノ改正ヲ為スモノトス
第三 転用工場ニ関スル措置要領
一、転用工場ノ計画的転用ノ確保ニ関シテハ特段ノ法令ニ依ル規制ヲ実施スルコトナク臨時資金調整法等ノ運用ニ依ルヲ建前トスルモ要スレバ企業整備令ニ依ル特別命令ヲ発動スルモノトス
二、転用工場ノ転用ヲ受ケントスル者ハ当該転用工場ヲ所管スル主務大臣ニ之ガ申出ヲ為スモノトス
第二ノ四第二項及第三項ハ転用工場ニ付之ヲ準用ス
三、主務大臣ハ二ノ申出又ハ協議アリタルトキハ第二ノ五ノ転用協議会ニ之ヲ付議スルモノトス
転用協議会ニ於テ転用スベキコトニ決定セルモノニ付テハ主務大臣ハ転用通知書ヲ転用工場ノ事業主及転用申出者又ハ協議官庁並ニ産業設備営団ニ送付スルモノトス
前項ノ通知アリタルトキハ当事者ハ転用ニ付産業設備営団ノ仲介ニ依リ協議ヲ為スベキモノトス
四、転用ノ方式及其ノ条件ハ当事者間ノ協議ニ依ルモノトス
五、当事者間ニ於テ協議調ハズ又ハ協議ヲ為スコト能ハザルトキハ要スレバ企業整備令第五条ニ依ル命令又ハ同令第六条ニ依ル決定ヲ為スモノトス
備考
一、本要綱ハ戦力増強企業整備記本要綱ニ依ル整備ノ外従前ノ方針ニ基ク企業整備ニ関シテモ之ヲ適用スルモノトス但シ別ニ定ムルモノハ此ノ限ニ在ラズ
二、本要綱ノ実施ニ当リテハ転用工場及金属設備ヲ努メテ一元的ニ有効活用スルモノトシ転用協議会ニ於テ之ガ総合調整ヲ確保スルモノトス
三、工場又ハ事業場ニ於ケル建家ノ転用ニ当リテハ建家ノ使用上必要ナル最少限度ノ設備ハ其ノ附属セル状態ニ於テ転用セシメ之ガ効率的利用ヲ図ルモノトス
四、要綱第一ノ二ニ依リ鉄鋼配当量ヨリ控除スベキ数量ハ金属設備ニ包含セラルルモノニ在シテハ転用証明書、転用工場タル建家ニ包含セラルルモノニ在リテハ転用通知書ニ掲記セラルル所ニ依ルモノトス
右数量ノ決定方式ニ関シテハ別ニ関係官庁間ニ於テ協議決定スルモノトス
五、転用物件ニ包含セラルル銅及鉛ニ付テハ差当リ鉄鋼ノ如キ措置ニ依ラザルモ銅及鉛ノ特別回収計画上ノ予定物件ノ転用アリタルトキハ次期物資動員計画ノ配当実施ニ際シ其ノ転用分ノ調整ヲ行フモノトス
六、要綱第二ノ八及第三ノ五ニ付テハ協議ヲ為スベキ期間ヲ別ニ定メ当該期間内ニ協議調ハズ又ハ協議ヲ為スコト能ハザルトキハ必要ナル処分ヲ為スコトヲ得ルモノトス
七、要綱第三ノ二第一項ニ依ル主務大臣ガ商工大臣以外ノ大臣ナルトキハ当該申出書ノ写ヲ同時ニ商工大臣ニ提出スベキモノトス
八、転用工場及金属設備ニ関シ地方庁ニ於テ措置セシムルヲ適当トスルモノニ付テハ運用上特別ノ取扱ヲ別ニ定ムルモノトス

別冊第四
企業整備ニ伴フ従業者措置要綱
第一 方針
企業整備ニ伴フ従業者ノ措置ニ関シテハ迅速且円滑ニ配置転換ヲ完了シ得ル如ク左ニ依リ各般ノ施策ヲ講ズ
一、従業者ノ技能経験等ヲ活用シ得ル如ク重点的且計画的ニ配置転換セシムルモノトシ国家ニ於テ積極的ニ指導斡旋ス要スレバ配置転換ニ付法的措置ヲ講ズ
二、配置転換ハ地域的ノ需給状況ヲ考慮シ極力移動区域ヲ小範囲ニ止ム
但シ廃休止工場事業場ト同一企業体ニ属スル他ノ工場事業場ニ転換スル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
三、従業者ノ転換先ニ於ケル給与ハ原則トシテ従前ノ夫レニ比シ減少スルコトナキ様措置ス
前項ノ給与以外ノ処遇ニ付テハ成ルベク従前ノ夫レニ準ズル取扱ヲ為ス様考慮ス
四、応召入営中ノ従業者及其ノ家族ニ対スル取扱ハ応召入営者ヲシテ後顧ノ憂ナカラシムル如ク特段ノ考慮ヲ払フ
五、従業者ノ配置転換ニ伴フ住宅ノ整備、輸送ノ確保及転換後ノ生活援護等ニ付必要ナル措置ヲ講ズ
六、廃休止工場事業場ノ従業者ニシテ直ニ転換シ得ザル者ニ付テハ其ノ生活援護、錬成又ハ予備配置等ヲ為シ之ガ為必要ニ応ジ国家ニ於テ財政的負担ヲ為ス
第二 要領
一、従業者ノ配置転換措置
(一)業種毎ニ当該業種ノ整備方針ニ基キ国又ハ道府県ニ於テ之ガ具体的配置転換計画ヲ作成ス
要スレバ当該統制会又ハ当該産業団体ヲシテ配置転換計画ノ作成ニ当リ協力セシム
(二)配置転換計画ノ作成ニ当リテハ概ネ左ノ諸点ニ付考慮ヲ払フモノトス
(1)整備産業ニ於ケル従業者ノ他産業ヘノ転換並ニ他地域ヘノ移動ノ適否
(2)転換者ノ技能、経験、地位及家庭事情
(3)転換先ニ於ケル待遇
(4)住居移転ノ要否並ニ収容施設ノ有無
(5)職員及労務者ノ一体的転換
(三)転換スベキ従業者ノ離散ヲ防止シ配置転換計画実施ノ的確ヲ期スル為必要ニ応ジ廃休止工場事業場ニ付労務調整令第二条ニ依ル指定ヲ為ス
(四)配置転換計画ヲ設定シタルトキハ特別ノ事情アル場合ノ外計画ニ基キ強力ナル指導勧奨ニ依リ転換セシムルコトトシ要スレバ法的措置ヲ講ズ
(五)従業者ノ転換ニ当リテハ成ルベク一般労務者、幹部労務者及職員ヲモ含メ集団的ニ転換セシムル如ク指導ス
(六)健康、年齢等ノ関係ニ依リ前各項ニ依リ難キモノト認メタル場合ハ他ニ就職斡旋ス
(七)本要綱ニ基キ配置転換又ハ就職斡旋ヲ為ス場合ニ於テハ労務配置関係法令ノ適用ニ当リ特ニ弾力性アル運用ヲ考慮ス
二、賃金給与ニ関スル措置
(一)廃休止工場事業場ノ従業者ニ対シテハ当該工場事業場ヲシテ法令ノ定ムル手当ノ外別ニ解雇手当ヲ支給セシムル如ク指導ス
(二)廃休止工場事業場ノ事業主ハ配置転換ノ実施以前ニ於テ休業ヲ余儀ナクセラレタル従業者ニ対シ成ルベク従前ノ給与ヲ支給シ少クモ健康保険標準報酬日額以上ノ休業手当ヲ支給セシム之ガ為実情ニ依リ国家ヨリ所要ノ補助ヲ為ス
(三)廃休止工場事業場ノ負担トナルベキ扶助ニ付テハ夫々実情ニ応ジ一時金ヲ支給セシメ扶助義務ヲ完給セシムベキモ収容治療中ノ者ニ付テハ治癒スル迄当該工場事業場ヲシテ手当ヲ為サシム
(四)本要綱ニ基キ転換シタル者ガ従前賃金統制令ノ最高初給賃金ノ定メアル工場事業場ノ従業者ナル場合ニ於テハ同令ノ適用ニ当リテハ之ヲ新ナル雇入ト看做スコトナク従前ノ収入ノ減少セザル如ク特別ノ考慮ヲ払フ
(五)本要綱ニ基キ他ノ工場事業場ニ転換シタル者ハ労働者年金保険法及健康保険法ノ適用ニ関シテハ同一工場事業場ニ於テ引続キ被保険者タル者ト看做シ之ヲ処理ス
三、応召入営中ノ従業員及其ノ家族ニ対スル措置
(一)配置転換者ノ受入工場事業場ヲシテ原則トシテ転換シタル従業者ノ員数ニ応ジ応召入営中ノ従業者ヲ採用セシム但シ本人又ハ家族ニ於テ希望セザル場合ハ此ノ限ニ在ラズ
(二)応召入営中ノ者ヲ採用シタル工場事業場ヲシテ成ルベク従前其ノ者又ハ家族ガ受ケタルト同様ノ給与ヲ支給セシム
(三)応召入営中ノ従業者ノ家族ニシテ就職ノ希望アル場合ハ優先的ニ斡旋ス
四、従業者ノ配置転換ニ伴フ住宅輸送等ニ関スル措置
(一)本要綱ニ依ル配置転換計画ニ基ク転換者ノ住宅ニ付テハ速ニ受入工場事業場ニ於テ施設セシムルコトトシ之ガ為既存建家ノ転活用、所要資材ノ配給等ニ付特ニ考慮ス
前項ノ外住宅供給、一時収容施設等ニ関シテハ道府県ニ於テ適当ナル措置ヲ講ズ
(二)多数従業者ノ配置転換ノ行ハルル場合ニ於テハ輸送及食糧ノ配給ニ遺憾ナキ様予メ関係当局ノ間ニ於テ緊密ナル連絡ノ上之ガ確保ヲ図ル
五、従業者ノ生活援護ニ関スル措置
廃休止工場事業場ノ従業者ニシテ直ニ転換シ得ザル者ニ対シテハ実情ニ応ジ転換完了ニ至ル迄ノ間生活維持ニ必要ナル援護トシテ一定期間ヲ限リ国家ニ於テ必要ナル補助ノ措置ヲ講ズ
既ニ転換シタル者ニシテ特別ノ事情ニ依リ生活困難ナル者ニ対シテモ前項ニ準ジ生活援護ノ措置ヲ講ズ
六、未配置従業者ノ管理ニ関スル措置
(一)廃休止工場事業場ノ従業者ニシテ直ニ転換シ得ザル者及要領三ノ(一)但書ニ掲グル者ノ援助、要領五ノ生活援護及錬成等ノ措置ハ大日本産業報国会ノ組織ヲ活用シテ之ヲ行ヒ之ガ所要ノ経費ハ国家ニ於テ補助ス
(二)廃休止工場事業場ノ従業者ニシテ直ニ転換シ得ザル者ハ大日本産業報国会ニ於テ国民勤労報国隊ヲ組織シ其ノ配置ハ国民職業指導所ノ指示ニ依リ之ヲ行フ
備考
一、本要綱ハ第一種工業部門ニ適用スルモノトス
第三種工業部門ニ対シテハ第二要領一ノ(三)及(四)ヲ除クノ外適宜準用ス
二、廃休止企業ノ事業主ニシテ労務者トシテ重点部門ヘ転換シ得ル者ニ対シテハ要領二及五ヲ除クノ外適宜準用ス
三、労務者トシテ転換困難ナル者ニ対スル授産其ノ他必要ナル措置ハ別途考慮ス
四、配給部門ニ於テ整備ヲ行フ場合ニ於ケル従業者ノ措置ニ付テハ工業部門トノ相違ヲ考慮シツツ方針六ノ措置ヲ講ズルモノトス

別冊第五
企業整備ニ伴フ共助金等措置要綱
企業整備ニ伴フ共助金等ニ付テハ所要ノ転廃業ヲ公正且円滑ニ実現シ併セテ今次企業整備ノ真意義ノ徹底ニ遺憾ナカラシムル為適切ナル共助方法ヲ講ゼシムルト共ニ残存企業ニ於ケル経営ノ堅実ヲ図ル為之ニ対スル負担ノ過重ヲ避クル方針ノ下ニ左記ニ依リ之ヲ運用スルモノトス

一、転廃業者ノ設備又ハ資産ノ引取
転廃業者ヨリ引取ルベキ設備又ハ資産ノ評価ハ左ニ依リ之ヲ行フモノトス
(一)産業設備営団ガ設備ヲ買取ル場合及国民更生金庫ガ資産ヲ引受クル場合ノ評価ハ現行ノ基準ニ依ルコト
尚国民更生金庫ニ於ケル資産引受額ノ算定ニ当リテハ右基準ニ依ル営業ノ純益額ヲ年一割ノ利率ヲ以テ還元シタル金額ヲ交付スル趣旨ヲ可及的励行スルコトトシ之ガ為資産並ニ営業権ノ評価ノ方法ヲ改善スルコト
(二)当該業者又ハ其ノ残存業者ノ団体又ハ統合体(以下残存団体ト称ス)ガ設備又ハ資産ヲ引取ル場合ノ評価ハ前項ノ基準ニ準ズルモ引取価額ハ当該産業部門ニ対スル将来ノ原材料、商品ノ供給ノ見透等ヲ参酌セル残存団体ノ負担能力ノ限度ヲ超ユルコトヲ得ザルコト
(三)整備又ハ資産ノ引取価額ノ算定ニ当リテハ二ニ依ル実績補償ノ為ノ共助金交付ノ程度ヲ斟酌スルコト
二、共助金ノ交付
転廃業者ニ対スル実績補償ノ為ノ共助金(営業権補償、実績権補償、配給権補償等ノ名義ヲ以テスル実績補償ノ性質ヲ有スル交付金ヲ含ム)ハ左ニ依リ之ヲ交付スルモノトス
(一)共助金ハ残存団体ノ負担能力ノ限度内ニ於テ之ヲ算定シ努メテ過大ナル見積ヲ避クルコト
(二)共助金ノ交付ハ中小企業者ニ重点ヲ置クコトトシ特ニ大工業者ガ其ノ工場、設備等ヲ相当ノ価格ヲ以テ処分シ又ハ之ヲ活用シ得ル場合ニハ共助金ノ交付ヲ為サシメザルコト
(三)左ノ場合ニ於テハ共助金ノ交付ヲ為サシメザルコト
(イ)残存団体ニ共助金負担ノ余裕極メテ乏シキ場合
(ロ)共助金ノ財源ニ充ツル為当該物資ノ価格引上ゲノ要ヲ生ズベキ場合
転廃業者ガ其ノ設備又ハ資産ノ大部分ヲ残存団体ニ出資スル等ノ場合ニ於テ転廃業ノ実無シト認メラルルモノニ付テハ原則トシテ共助金ノ交付ヲ為サシメザルコト
三、前二項ノ措置ヲ確保スル為臨時資金調整法其ノ他ノ法令ニ依ル認許可、共助ノ為ノ資金ノ貸付等ニ際シテハ充分慎重ヲ期スルモノトス
四、転廃業者ニ依リ生活ノ維持困難ナル者ニ対スル生活援護ノ共助金ニ関シテハ国家ニ於テ一業主当三百円ヲ限度トシテ補助ヲ為スモ要スレバ六百円迄増額スルノ途ヲ講ズルモノトス
五、設備又ハ資産ノ引取代金及共助金ノ浮動資金化ノ防止ニ付テハ「企業整備ニ伴フ財政金融措置要綱」ニ依ルモノトス
六、前各項以外ハ現行ノ制度ニ依ルモノトス
備考
一、現ニ進行中ノ左ノ整備ニ於ケル共助金等ノ運用ニ付テハ概ネ従前通リノ取扱ニ依ルコト
(一)工業及卸売業ニ付テハ昭和十七年度中ニ企業整備要綱ヲ決定シ地方長官又ハ統制団体宛通牒ヲ発シタルモノ
(二)小売業ニ付テハ第一次指定業種ニ該当スルモノ
二、要綱二ノ(三)第二項ノ例外トシテ共助金ノ交付ヲ為ス場合ニ於テハ原則トシテ国民更生金庫ヲシテ之ガ資金ノ貸付ヲ為サシメザルコト

別冊第六
産業整備ニ伴フ財政金融措置要綱
第一 方針
産業整備ニ伴フ財政金融上ノ措置ニ関シテハ
(一)必要ナル資金ノ供給ハ迅速円滑ナラシムルコト
(二)右ニ伴ヒテ放出セラレタル資金ガ浮動購買力ト化スルコトヲ防止スルコト
(三)債権債務ノ整理ヲ円滑ニ推移セシムルコト
(四)国家経済ノ秩序ヲ維持スルコト
(五)必要ニ応ジ国家ニ於テ損失ヲ負担スル等財政上ノ措置ヲ講ズルコト
ヲ目途トシテ各般ノ方策ヲ講ズ
第二 要領
一、必要ナル金融資金ノ供給
(一)一般金融機関ガ廃休止企業ニ対シ更ニ又全般的ニ貸出ノ引締(条件及担保ノ厳格化等ヲ含ム)ヲ為シ或ハ既存貸付金ニ付其ノ回収ヲ急グガ如キコトナク寧ロ寛大ニ措置スル様指導ス
(二)金融機関ヲシテ産業設備ノ円滑ナル遂行ニ積極的ニ協力セシメ廃休止企業(之ト債権債務関係アル企業ヲ含ム)ニ対シ整理所要資金(既存債務ノ整理、設備ノ保続、配当ノ維持、従業員ノ整理、金利其ノ他一般経費等ノ為ノ所要資金)ヲ供給セシム
(三)取引金融機関ニ於テ貸付ノ経続又ハ新規貸付ノ困難ナルモノニ付テハ戦時金融金庫其ノ他ノ国家機関ヲシテ保証若ハ肩代リ又ハ融資ヲ為サシム
(四)前各号ノ実施ニ付テハ全国金融統制会ヲシテ指導斡旋ヲ為サシム此ノ場合ニハ各産業統制会等ト緊密ナル連絡ヲ保持セシム
(五)産業設備営団、国民厚生金庫其ノ他廃休止企業ノ設備等ヲ買取リ又ハ其ノ処分ヲ引受クル機関ノ所要資金ノ調達ニ付必要ナル措置ヲ講ズ
二、浮動資金ノ発生防止対策
(一)産業設備営団及国民更生金庫ニ於テ廃休止企業ノ設備其ノ他ノ資産ヲ買取リ又ハ其ノ処分ヲ引受クル場合ハ其ノ代金支払ニ付テハ原則トシテ左ノ方法ニ依ラシメ当該企業ニ於ケル差向キノ生活費、納税、退職金等ノ支出、既存債務ノ弁済其ノ他必要已ムヲ得ザル事由ニ依リ現金ヲ必要トスル場合ハ之ヲ調達セシムル為適当ナル措置ヲ講ズ
(1)代金ヲ受領者名義ノ政府ニ対スル特殊貸上金(仮称)ニ振替フルコト
(2)代金ヲ受領者名義ノ金融機関ニ対スル特殊預金又ハ信託ニ振替フルコト
(3)代金ノ支払ヲ国債又ハ産業設備債券若ハ更生債券ヲ以テ交付スルコト(此ノ場合ハ成ルベク登録債制度ヲ活用スルコト)
(二)統制会社其ノ他之ニ準ズベキ者ニ於テ廃休止企業ノ設備其ノ他ノ資産ヲ買取ル場合モ(一)ニ準ジ措置ス
(三)民間企業相互間ニ於ケル事業設備其ノ他ノ転用等ニ当リテハ可存的ニ代金支払ヲ要セザルガ如キ賃貸借、合併又ハ現物出資ノ方法ニ依ラシムルモ買収ノ形式ヲ採ル場合ニ於テハ其ノ代金ノ支払ニ付テハ原則トシテ左ノ方法ニ依ラシメ当該企業ニ於ケル差向キノ生活費、納税、退職金等ノ支出、既存債務ノ弁済其ノ他必要已ムヲ得ザル理由ニ依リ現金ヲ必要トスル場合ニハ之ヲ調達セシムル為適当ナル措置ヲ講ズ
(1)代金ヲ受領者名義ノ政府ニ対スル特殊貸上金ニ振替フルコト
(2)代金ノ支払ヲ買収者ノ発行スル社債又ハ其ノ保有スル国債ヲ以テスルコト(此ノ場合ハ成ルベク登録債制度ヲ活用スルコト)
(3)代金ヲ受領者名義ノ金融機関ニ対スル特殊預金又ハ信託ニ振替フルコト
(四)政府ニ対スル特殊貸上金ヲ譲渡シ又ハ担保二供スルコトハ之ヲ制限ス但シ生活資金、納税其ノ他已ムヲ得ザル支出ノ為現金ヲ必要トスル場合ニ於テハ金融機関ヲシテ特殊貸上金ヲ買取リ若ハ担保トシテ融資セシメ又ハ政府ニ於テ其ノ一部ノ返済ヲ為ス場合ヲモ考慮ス
金融機関ニ対スル特殊預金又ハ信託ヲ譲渡シ又ハ担保ニ供スルコトハ之ヲ制限ス但シ已ムヲ得ザル事由ニ依リ現金ノ支出ヲ必要トスル場合ハ預金ノ引出又ハ信託ノ解除ヲ認ム
(五)実績権補償、営業権補償等ノ意味ニ於テ廃休止企業ニ対シ交付セラルル共助金ノ支払付テハ前各号ニ準ジ措置セシムルト共ニ可及的分割払等ノ方法ヲ採ラシム
(六)役員、従業員等ニ対スル退職金ノ支給ハ極力国債ノ交付等ニ依リ可及的ニ現金ノ交付ヲ避ケシメ此ノ場合特殊預金ノ併用ヲモ考慮ス
(七)前各号ニ依ルノ外尚廃休止企業又ハ其ノ関係者ニ於テ差当リ必要トスル額以上ニ現金ヲ受領シタル場合ハ之ヲ国債其ノ他有価証券ノ購入保有其ノ他ノ貯蓄ニ向ケシムル様措置ス
廃休止企業関係者ノ既成貯蓄ハ国民貯蓄組合ノ引続キ等ノ方法ニ依リ努メテ其ノ維持断続ヲ図ル
(八)事業ヲ廃止シタル会社ノ措置ニ関シテハ之ヲ其ノ儘存続セシムル等可及的ニ会社財産ノ分解及現金化ヲ防止スル如ク措置ス
(註)会社ヲ存続セシムル場合ニ於テハ可及的ニ設備、人員等ヲ残存セシムルノ要ナキ様適宜措置ス
三、会社経理対策
(一)企業ノ頽勢期ニ於テ生ジ易キ経理ノ紊乱不正ヲ防止ス為廃休止企業ノ経理監督ヲ一層強化ス
重点企業ニ付テモ活況ニ伴ヒ其ノ経理ノ放漫ニ流ルルヲ防止スル為経理監督ヲ強化ス
(二)廃休止企業ニ於ケル経費ノ支出ハ極力之ガ圧縮ニ努メ尚役員ノ退職金ノ支給時期ニ付テモ適当ナル考慮ヲ払ハシム
(三)廃休止企業ニ付適正ナル配当ヲ維持スル為左ノ如キ措置ヲ認ム
(1)已ムヲ得ザル場合ニ於テハ資産ノ時価ニ依ル再評価ニ依リ評価益ヲ計上スルコトヲ認ムルコト
(2)会社経理統制令ニ依ル資産償却ノ強制ヲ緩和スルコト
(3)必要アルトキハ経費的支出ノ一部ヲ資産ニ計上シ繰延経理スルコトヲ認ムルコト
四、株価対策
(一)株価(特ニ廃休止企業ノ株価)ノ不当ナル騰落ヲ防止スル為戦時金融金庫又ハ日本証券取引所ヲシテ適宜市場操作ヲ行ハシメ其ノ他ノ株式ノ取引所ニ於ケル取引ニ付必要ナル措置ヲ講ズ
(二)廃休止企業ノ配当ノ急激ナル低下ヲ避クルト共ニ重点企業ノ配当引上ヲ抑制スル為必要ナル措置ヲ講ズ
(三)臨時資金調整法ニ依ル増資ノ認可ニ当リ株価対策ノ見地ヨリ適宜考慮ヲ加ヘ要スレバ増資新株ノプレミアム附公募等ヲ為サシム
五、債権債務関係処理ノ円滑化
(一)廃休止企業及其ノ関係企業ノ債権債務関係ノ処理ハ前記金融措置等ニ依リ努メテ円滑ニ推移セシム
(二)廃休止企業ニ対シテハ差当リ一般債権者ニ於テ取立ヲ緩和スル如ク指導スルモ其ノ債務ハ可及的速ニ整理セシム
(三)纏リタル債権者ニシテ之ニ対シテ政府ニ於テ適当措置シ得ルモノノ債権取立ハ要スレバ一定期間之ヲ猶予スル如ク措置ス右ノ場合債権者ノ金融等ニ付テハ必要ニ応ジ政府ニ於テ適当支援ス
六、財政上ノ対策
(一)産業設備営団等ニ対スル損失補償、転廃業関係者ノ生活費補給、産業整備ニ依リ影響ヲ蒙ル地方財政ニ対スル援助等ニ関シ実情ニ即シ適当財政負担ノ措置ヲ講ズ
(二)廃休止企業及其ノ関係者等ニ対スル租税ノ減免ニ付必要ナル措置ヲ講ズ